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Révolution mondiale de …

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Révolution mondiale de puissance pour vous !

 どうしてこうなった。
 片手に男の手を引いて、片手で四方八方縦横無人に襲いかかってくる老若男女、しいていえば共通しているのは青い軍服を身に纏っているだけ、というとりあえず今は「エネミー」としか呼びようのない連中をはねのけながら、エドワードは発狂しそうな気持だった。いっそ叫び出したいような。
「ほら、しっかり逃げてくれないと」
 だがエドワードはかろうじて理性の側に踏みとどまるしかなかった。男の手を引く手を、右にしておけばよかったと思ってももう遅い。生身の左手に握ってしまった男の手はそんなに熱くも冷たくもなく、ただしっかりと生身の温度と質感を知らせる存在だった。つまり現実を。
 それがある限り、エドワードは意識をどこか彼方へ飛ばすことなどできはしない。とにかく襲いかかってくる敵を撃破して、どこか落ち着ける場所まで彼を連れて逃げるしかない。
 …落ち着ける場所がたとえば世界の果てだったとしたら、迷わずにそこへ行くしか、術はなかった。

 事の起こりは、――それは一体いつとするのが適切なのか、当事者であるエドワードにもまた判断の難しい問題だったが、とりあえずは「彼」との出会い、もしくは再会をキーポイントとするのが最もわかりやすい。
 エドワードは今年一四になる。
 エドワードが「彼」と初めて出会ったのは、およそ十年前くらいだろう。探検と冒険という名を掲げたいわゆる家出の最初で、ロイと出会った。彼は士官学校の制服を着ていたが、幼かったエドワードはそれがそういうものだとは知らなかった。迷い出た路地で彼の足にぶつかった、それが出会いだ。
 夜を思わせる瞳に吸いこまれるような感覚を覚え、思わず見とれていた。家族も近所の瞳みな、そういう色彩を纏ってはいなかったので珍しかったのだと思うが、そのままじっと見つめてしまったのはきっとそれだけではない。夜色が美しい色なのだと、エドワードはその時強烈な衝撃を受けたのだ。
「…おうじさま?」
 舌足らずに唐突に呼びかけられ、ロイは軽く目を瞠った。その頃のエドワードにとって、ある程度年上の少年、青年に対する褒め言葉は「王子様」だった。単に環境の問題である。父は不在がち、母と幼馴染とその母と祖母、というのが生活環境の主な情報源だったので、これは不可抗力だ。それに実際、褒め言葉といっても間違いではないのだし。
 王子様、は王子様たるに相応しい様子で片膝を地につけて、幼いエドワードの手を取った。なんだかどきどきして見上げていたのを覚えている。
「さあ。立って。こんなところにいては危ないよ」
 彼は優しい声でそう言って、小さなエドワードを引っ張り立たせてくれた。けれど今よりもっと怖いもの知らずだったエドワードは、肩に頭がくっつきそうなくらい大きく首を傾げて、どうして? と聞いた。
「危ない理由?」
 こくりと頷いたら、彼は困ったように眉をひそめた。そんな顔をさせてしまったのが申し訳なくて、エドワードもまた眉尻を下げる。アンテナまでへにょりと垂れてしまった。
「…君が大人になればわかるよ」
「エド、ちっちゃいさんじゃないよ!」
 いつも大人たちに言われるようなことを言われ、ぷくー、っと頬を膨らませた。すると彼は目を見開いた後楽しげにくすくすと笑い、そうか、それは失礼、と丁寧に詫びてくれる。
「君は、エドというのか」
「そうだよ。エドワード!」
「エドワード、エドワードか」
 記憶するようにゆっくり繰り返す声は深い響きで、聞いたこともないようなそのトーンにエドワードはうっとりしていた。
「…私は、ロイという」
「ろい?」
 繰り返したら頷いてくれた。それだけで嬉しくなった。
「ロイはどこのひと? これはおうじさまの服?」
 制服を引っ張って尋ねたら、彼はまた困ったような顔になる。けれど、エドワードが眉を曇らせる前に彼はまた笑った。そして言う。
「王子様の服ではないけどね。…君なら、王子様になれるかもしれないな」
「おうじさま?」
「ああ」
「じゃあ、エド、ロイのおうじさまになってあげるね」
 実にいい考えだ、と齢四つのエドワードは思っていた。ロイは一瞬あっけに取られたようだったけれども、それはいいね、と笑ってエドワードの頭を撫でてくれたものだ。
「待っている。王子様」
 ぽん、と最後にもう一度彼はエドワードの頭を撫でてくれた。その後で彼を呼ぶ声がして、…それからどうやって家出から帰ってきたのか、エドワードの記憶はその部分が曖昧である。ただひとつ、幻ではなかった証拠に、ロイの袖についていたボタンを強く握りしめていた。それだけがずっと続く確かなもの。
 ――というのが十年前の記憶。それからエドワードは一途に、刷り込みとしかいいようがないのだが、「ロイ」の王子様になるべく日々鍛錬を重ねた。その間に色々と不幸な、そして波乱に満ちた出来事が起こったりもしたけれど、それらをも乗り越え、彼と再会したのだが…
「…花嫁…?」
 エドワードの視線も声も胡乱としかいいようのないものだった。しかし相手はそれを承知の上で頷いた。
「そう。ばかげた制約だ。国家錬金術師を縛るための、暗黙のもうひとつの掟。もっとも今では全軍に知れ渡っているから、アメストリス国軍を縛る、と言った方がいいのかもしれないがね」
 他人事のように淡々とした調子で、男は言った。その瞳の夜色はあの時と比べて翳りを帯びた気がする。しかしそうであっても美しいことに変わりはなかった。
「私の中に剣が、」
 彼は、親指でとん、と自分の胸を指差した。探るような視線には到底太刀打ちできない、何か怪しい魅力のようなものがあって、思わずエドワードは息を飲んでしまった。
「…これを抜きだし、すべての決闘に勝利したものは永遠を手に入れることができる」
「…永遠?」
「君も錬金術師だろう? 暗喩さ。ただし方程式の解も鍵も何も示されていない。かくして国家錬金術師を目指すものは各々が望む『永遠』を求めるため決闘を繰り返す――というわけだ」
 わかったかな、とばかりに瞬きをする。その、うすくゆるんだ口元がまるで馬鹿にしているように見え、エドワードの頭に血が上る。
「あんたも、永遠がほしいのか」
「…私は永遠を望む彼らにとって道具に過ぎない。まずは私とエンゲージしなければ、永遠が手に入るという場所にさえ行けないのだし」
「…あんたはなんで、道具になんかなってんだよ。そんな得体のしれない…」
 問いかけはロイの予想の範囲内だったが、しかし、実際に問われてみると想像していたよりも感慨深く聞こえて不思議だった。真っ直ぐに見詰めてくる瞳の黄金は、あの日不意に迷い出てきた時とまるでかわらない、至純。演習と偽り連れ出され、初めて人を手にかけたあの時、その手前で出会った子供の時のまま。
 王子様になってくれる、とそういえばあの時この子供は言ったのだった。ロイは今でもそれを覚えている。
「…囚われのお姫様なら」
「は?」
 ロイは頬杖をついて、少し悪戯めいた表情で目を細めた。
「王子さまが助けに来てくれるんじゃないかなあ、と思ったので」
「…はぁ?」
作品名:Révolution mondiale de … 作家名:スサ