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Révolution mondiale de …

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 ロイはくすりと笑って立ちあがり、それで、どうする、と端的に聞いた。エドワードは怪訝そうな表情で首をひねる。それに目を細めて、重ねて尋ねた。
「私とエンゲージしてみないか。今はちょうど、国境の戦闘で前の王子さまがいなくなったばかりだ」
 さらりと言われた内容に目を瞠った。それはつまり人が一人、消えたということなのではないか…。
 だが、どうする? と目を細める姿に、結局魅入られたように手を伸ばしていたのだ。

 どうにかこうにか敵――決闘者の皆さんをまいて、エドワードはぺたんと座りこんだ。大樹の陰は身をひそめるのにも休憩をするのにもあつらえ向きの場所だ。ただ、中央司令部の敷地にそんなスペースがあったことには驚いたが。
「お疲れ様。王子様」
「…あんたなあ」
 はあ、と肩で息をつくエドワードに、笑いまじりロイが声をかけてきた。思わずぼやき口調で振り返ったものの、ロイは嬉しげな顔をしていて、結局怒りそびれた。
「そういえば、さっきは慌てていたから。もう一度、きちんと唱えてみるかね?」
「え?」
「エンゲージだよ」
「…」
 エドワードはごくりと息をのんだ。ロイは静かにこちらを見つめるだけで、急かすでもとめるでもない。からかっているわけでもなさそうだ。ただ、エドワードがするのを見守っているという印象だった。
「……」
 エドワードは恥ずかしさから目を伏せる。睫毛が震えるのをロイが見ているのは気配でわかったが、それでもそんな部分、鍛えたことはないからコントロールできない。恐る恐るの様子で手を伸ばし、ひたり、とロイの胸につける。ロイはやはり何も言わない。
「…世界を、」
 口の中がいやに乾く。
「…革命する、」
 ロイが首を仰のかせる。エドワードは目をつぶる。
 ず、ずず、と柄が現れる。それが錬金術なのだとしても、魔法としか思えなかった。あるいは何かの呪い。
「力を…っ!」
 柄を握り、片手も添えて思い切り引き抜く。現れたのは細身のレイピア。ロイの纏う軍服もまた、変身するように姿を変えていく。一見すると意匠はさほど軍服と変わらないのだが、まず生地の色が憲兵のそれとも異なる漆黒になり、モールや飾りボタンの総てが金になる。
 花嫁、なんていうからドレスになるのかと最初エドワードは戦々恐々としたものだが、さすがにそれはなく安堵したものだ。だが、ドレスではなかったとしてもその衣装は恐ろしくロイに似合っていて、男から見ても見惚れてしまう程だった。けして女性的というのではない。だが見惚れてしまう。
「……」
 はぁ、はぁ、と肩で息をつくエドワードの手に、そっとロイの手が重ねられた。…生身の左手の薬指。そこには、エドワードが剣を引き抜いた瞬間から指環がはまっている。それこそが「エンゲージ」の証。彼がもっとも心に懸ける、誇りの源が形を変えてその台座にははまる。
 …金色のボタンには見覚えがあった。士官学校の制服だ。少年はあの時の誓いのまま大きくなった。彼こそが「王子様」だろう。
「…私の王子様」
「…?」
 手元が陰ったことと呼びかけで、ふっとエドワードは視線を上げる。そこでとろけるような微笑と出会い、思考回路が見事にショートする。不可抗力だ。
 そしてそのまま唇は重ねられた。触れるだけの口づけは、きっとエドワードに気を使ってくれていたのに違いない。何しろ見事に固まってしまっていたから。
「…さて、厄介な決闘者がまたやってきたようだ」
「…えっ」
 声の調子を変えてロイは立ちあがった。エドワードも慌ててそれに倣う。確かに人の気配がした。まいたと思ったが、やはりそうではなかったらしい。
 誰に教わったこともない。だけれどもまるで、握った剣の方から使い方を囁いてくれるような気がして、正眼に構えた。
「…決闘を申し込む! エンゲージするものよ!」
 誰かの声がして、エドワードは唾を飲む。何が何だかやっぱりちょっと、よくわからない部分は大いにあるのだが、しかし。そんなにはらはらした様子もなくこちらを見ているロイをちらりと流し見て、それでも彼を誰にも渡さないと、うんと小さな頃に決めてしまったからと腹をくくった。

作品名:Révolution mondiale de … 作家名:スサ