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星空ロマネスク

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「――で、その星っていうのが……、緑川? 聞いてる?」

見惚れて心がすっかり天上の星よりも遠くにいってしまっていた緑川は、ヒロトに名を呼ばれてようやく我に返った。(しまった)声は聴いていた、ヒロトを見ていた。しかし肝心の話の内容はまったく聞いていなかった。

「……ご、ごめん。よく、わからなくて……」

申し訳なさ過ぎてヒロトの顔が見られなくなり、視線があちこちと彷徨う。それを見たヒロトは、くすりと小さく笑った。
「いいよ。ちょっとマニアックすぎたよね。俺、星のことになるとつい見境なくなっちゃってさ。ごめんね、こんな話に付き合わせて」
「いや! 全然悪くない! 構わない!」
思わず力いっぱいに否定してしまって、その様子にヒロトはわずかに首をかしげた。

「あの、いや、その……なんて言うか、話を聞いてなかったのは……本当なんだけど、ヒロトの声はちゃんと聴いてたし、……ヒロトが指す星も見てたって言うか、その、ヒロトの指が綺麗だなって思って、それでちゃんとヒロトの話を聞いてなくて……」

しどろもどろな言い訳に、緑川自身なにを伝えたいのかが皆目理解できなかった。でも、どうにも喉の奥から言葉があふれ、とめることなど出来やしなかった。体の真ん中が熱くなり、どんどん熱を高めていく。

「……だから、その、ごめん」
今度こそヒロトの顔を真っ直ぐに見ていられなくなり、頭を深く下げた。いまになってようやく熱が落ち着き、先の言動を思い返してその恥ずかしさに今度は別の意味で顔が熱くなった。そこへ、頭の上の方からヒロトが小さく笑う声がした。おずおずと頭を上げれば、ヒロトは口元を押さえて必死に笑いを堪えていた。
「あ、はははっ。緑川って、本当に面白いよね」
嘲笑ではなく、どこか嬉しそうに笑うヒロトの相好に、緑川はすこしくすぐったくなって、自分も笑った。

やわらかな月灯りと煌めく星に照らされて二人で笑った。やわらかく暖かな光が体を包み込んでくれて、ひどく優しい気持ちになるのがわかった。

「そうだ。最後にひとつだけ。あの星を見てみて」
先に落ち着いたヒロトが再び白い指先を夜空に伸ばした。緑川はまたその指先に見惚れるのを堪えて、ヒロトが指し示す夜空に目をこらした。しかしやはりどの星かわかりにくい。どの星かと問おうとするよりも先に、右頬にかすかな熱が一瞬触れて、離れた。
思わず右頬に手を触れる。熱のもとは去ったはずなのに、まだほんのりと熱かった。

「緑川って、本当に単純だよね。おやすみ」

意地の悪そうな笑みをたたえて、ヒロトは宿舎に戻っていく。
残された緑川は恥ずかしさに震え、意を決して拳を握り締めるとヒロトの後を追った。

「ヒロトッ!」

名前を呼ばれたヒロトは素直に立ち止まって振り返った。緑川は早る足を止めることなく、ヒロトの顔に自分のそれを近づけた。
ガチッ。ひどく鈍い音がして、唇と唇がぶつかり合った。

「っつう……」
二人してその場にしゃがみ込み、口元を押さえてしまった。
「……緑川って、本当に面白いよね」
唇の端にうっすら血を滲ませたヒロトは、本日二度目の台詞を口にした。
「ご、ごめん……」
「謝るくらいなら、なんでこんなことしたのさ?」
その質問に、緑川は咄嗟に答えることができなかった。すこしだけ悩んで、素直に白状した。

「悔しかったから……」

「え?」
「だから! ヒロトからあんな風に……ロマンチックっていうか、普通に自然とキスされたのが悔しかったんだよ!」

すべて吐露して、緑川は打ちひしがれた。今夜の自分はどこまでも羞恥と情けなさに満ちていた。(もういっそこのまま流れ星みたいに流れて消えてしまいたい……)どうにも叶いそうにない希望を抱いてしまった。

「……緑川」
「……なに?」
「だったら、もう一度してくれないかな? さっきみたいに痛いのは勘弁だけど」

緑川は顔を上げて、目の前のヒロトの顔を真っ直ぐに見据えた。月灯りで輝く白さと煌めく赤が、夜空に浮かぶ幾千の星よりもずっと綺麗に見えた。
唇をすこしだけ噛みしめて、そっと顔を近づけるとヒロトは静かに瞳を閉じた。目の前の白と赤が見えなくなるのがひどく惜しかったが、すこしの我慢だと緑川も瞳を閉じた。
三度目のキスはすこしだけ血の味がしたが、そんなの気にもならなかった。
作品名:星空ロマネスク 作家名:マチ子