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V.D.2.14.to 主 from 花

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「陽〜介、チョコくれ」
「………お前そんだけ大量に貰っといてまだ食う気………?」
2月14日。学校の昇降口で、陽介が見たのは俺が持つ満杯の紙袋だった。
「チョコが無ければ、代わりに陽介がリボン巻いて『俺を食べて』でもいいよ」
「やるかっ!」
「顔真っ赤にして上目遣いでやってくれたらなお良」
「想像すなっ!!」





それから30分後。俺たちは、陽介の部屋でテーブルの上に紙袋の中身を積んでいた。
「よくもまぁ、こんだけ貰ったな……」
「んー、部活の人と、委員会と、あと前に頼みを聞いてあげた人達と……」
「改めて言うけど…顔広すぎっだろお前…!」
それは俺も、稲羽に来てからの自分の交友関係には驚いているんだけど。
「まぁ、全部義理チョコだから」
「……ホントかねぇ」
陽介がチョコの箱を1つ手の中で転がした。少し苦々しい顔になっているのは…たぶん、気のせいではなく。
「……義理に見せかけた本命とかあるかもよ?」
―――あ、やっぱり。
そう思ったのがウッカリ表情に出てしまって、陽介にジト目で見られる。
「何笑ってんの」
「ゴメンゴメン」また笑いそうになるのを噛み殺して、「無いとは思うけど―――もし本命があったら、陽介の前で開けようと思って」
「は?何ソレ…え、嫌味?」
「違う。誰かに告白されたってことを、ちゃんと恋人に言っておきたくてさ。隠し事はしたくないし」
「お………、おぉ」
「あと、あわよくば今みたいにヤキモチ焼く陽介が見られるかと」
「…………お前なぁ…」
またも半眼になった陽介だったが、先程と違って頬に朱色が入っている。そんな顔を見たらまたニヤけてしまうのは仕方がない。…だから睨むなって、陽介。
「…つか、こんなに食ったらリアルに鼻血出そう…」
「これから数日はチョコづくしだな……」苦笑してからふと思い出す。「あれ、たしか陽介もバイトの先輩に貰ってなかったっけ?」
「『収穫ナシの花村君に恵んであげよう』って大量パックのヤツ1個な…ちくしょう当たってるよ!」
どーせアイツらから義理の義理で貰っただけだっつーの!陽介が喚く。アイツらっていうのは特捜隊の女子メンバーのことだ。
「陽介も皆から貰ってたんだ」
「ジュネスの小っさいやつだけどな…」
お前用の気合い入ったやつとは大違い。そう言ってショルダーバッグを引き寄せ、実際に貰ったチョコをテーブルに並べていった。特捜隊の女子の数ピッタリに1、2、3……。
ヴー…ヴー…ヴー…
「んあ?」
ちょうど4つ目を取り出したところで陽介のケータイが鳴った。テーブル上のそれを取ろうとした時に鞄が倒れかけ………俺が腕を伸ばして支えた拍子に、鞄の口がべろんと開いた。
(………あれ)
鞄の中には学校に置き去りにされていない教科書が何冊かと、筆箱と財布と、……赤い、四角い―――
「んだよクマきち、バイト中だろ―――」
陽介が電話をしながら鞄に手を伸ばす。そのままサッと引いて自分の背中に隠した。
……隠した?
いや。邪魔な鞄を自分の背後にどかしただけ、のはず。電話中で何も言わずに持っていったからそう見えただけで。
「チョコ?……あぁハイハイ、お前の食う分残しといてやっから………ハァ!?」
何か俺に見られたくない物が入っていたわけでもあるまいし。

―――鞄の中にあった、赤い箱、とか。


陽介が二言三言話して、最後に盛大なため息を吐いて電話を切った。
「ってわけで、ちょっとオアズケなー」
「え、何が?」
ガクッ、と陽介がコケた。
「今、クマがバイト休憩中に一度家戻って来るっつったじゃん」
「そうだっけ」
「そーだよ!クマ来てもいいかって聞いたら『うん』って答えたろ!?」
…言っただろうか。
今更、話を全く聞いていなかったことに気づく。
「歩きながらっつーか走りながら電話してたから、来るのすぐだと思うぜ」
――――赤い包装紙に。
白いリボンを綺麗に結んで…そうやってラッピングされた箱の中身はなんだと思う?
今日、2月14日に。
「おい、聞いてる?」
「ああ、………いや」
――――答えは、バレンタインチョコ以外の何だっていうんだ。
「……お前どしたの。なんか調子悪い?」
ほとんど喋らない(普段も口数は多くないけど)俺がさすがに心配になったらしく、陽介が近寄ってくる。
「あ〜、今日疲れたか。休み時間の度に呼び出されてたもんな」
「それは、陽介も」
陽介だって。ジュネスの先輩に呼び出されてただろ。
思い出す。あの後すぐに俺も教室を出たから、陽介が戻って来た時にはいなかった。…陽介が先輩からどんなチョコを貰ったのか、俺は見ていない。
「なぁ。相棒?」
俺を覗き込む茶色がかった瞳は真っすぐで、いつもの陽介の目で。とても隠し事をしているようには見えなかった。
その眼がふっと近づく。反応する間もなく、ちょん、と唇が触れて離れた。
「何かあった?」
聞かせてくんない?……少しだけ遠慮するように、でもぴたりと俺に寄り添って陽介が言う。
………頭がグラグラした。
さっきから俺の脳裏には、赤い本命チョコを後ろ手に隠し持って笑う陽介が棲み付いていて。金色にも思えるその瞳と、現実で俺を覗く優しげな眼とのギャップがひどくて。
(……そうだ、よ。)
直接、聞けばいいんだ。独りよがりに考えていないで、目の前にいる陽介に。
「、―――陽介」
「わわっ!ちょっ待て!これ以上はマジで今ダメだって!」
急に身を乗り出したせいで、何か誤解されてしまった。違うんだ。俺は、陽介に確かめたいことが―――

ガタン!

―――そう口を開こうとしたのに、階下の音に邪魔された。続いて何かが倒れる音とバタガタバサ、と物が落ちる音。
「クマが帰ったクマよー!ヨースケー!チョコよこすクマー!」
「ほーら、来た……つか、何だ今の音」
苦々しい顔で陽介が立ち上がる。完全に機を逃して、俺は黙って見送った。階段を降りる足音がやんで間もなく「うっわ、お前派手に倒しやがって…」と聞こえてくる。
「あぅぅ…ごめんクマー…」
「あーもう、こっち片付けとくから。さっさと上行ってチョコ取って来い。俺のチョコなら食っていいから」
半分な!全部食うんじゃねえぞ!慌てて付け足す陽介にハイハイクマ〜、と返事があって部屋のドアがバタン!と開く。
「あっ!センセイクマ〜!」
金髪美少年バージョンのクマがキラキラした視線を俺に…向けたと思ったらすぐ通過して、テーブルの上のチョコにキラキラを注いだ。…今日ばかりは仕方ないとしても、ちょっと傷付くなぁ。
「ウヒョ〜!チョコがイッパイクマ〜!これぜーんぶセンセイがもらったの?」
「え?あぁ、こっちは…」
「さっすがセンセイクマね〜。…わかったクマ、ヨースケがチョコ半分だけ〜なんてケチケチしてたのは、センセイにヒガんでたからクマね!」
…いや、明日感想聞かれるかもしれないから、味見する分は残してほしいって意味だと思うけど。
「そんなヨースケのチョコは、クマが全部食べちゃうクマよー!」
クマは迷いもせずに陽介の鞄を手に取り―――あ、という間もなくバサバサッと中身をひっくり返した。散らかった床を見てうわぁ、と思う。陽介のチョコもテーブルの上にあると先に言うべきだった―――。
「クマ、そっちじゃなくて…」