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V.D.2.14.to 主 from 花

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「オ?チョコ発見伝クマよ〜!」
ギクリ。制止しようと伸ばした手が止まる。
固まった俺に構わず、クマは赤い箱を「ジャーン!」と掲げた。綺麗にリボンがかかったそれは、
「でっかいチョコクマね〜」
義理で貰うにしては大きな両手大の箱。…ちょうど、特捜隊の女の子が俺にくれた手作り(らしい)チョコと同じくらいの……
「ヨースケのくせに生意気クマね〜」
「…陽介のくせに」
高そうなラッピングをよく見ると、金の英字のマーク。どこかで見たと少し記憶をたどれば、あぁ、沖奈にあったちょっとした有名店のロゴだ。
こんなの義理にしては、義理チョコにしては。
「センセイ〜、このチョコ食べちゃっていいクマ?」
陽介から食べていいと言われているのに、クマはわざわざ俺に許可を求めた。可愛い弟分に、俺はこれ以上ないほどの笑みを浮かべて言う。
「―――いいよ、全部クマが食べちゃいな」
わぁっとクマがチョコに釘付けになって目を離した後の俺の表情は、自分でも見たくはない。




「おい、クマー」
声と共に階段を上がってくる音がする。
「そろそろ行かねえと休憩時間終わ………うんわ」
クマの口にべたべた付いたチョコを見て、陽介が顔をしかめた。近くにあったティッシュを掴んでぐいぐいと拭う。
「むーむぐむむーんむー」
「動くなっつの!ったくどんだけチョコ食ったらこんなんなる――――」
クマの食べたチョコを確認しようとした陽介の目線が一点で留まった。赤い、ビリビリに破かれた包装紙…そのそばには半端にほどかれた白いリボンと、中身が全部食べられて見事に空っぽになった箱。
「……………っ」
パク、と陽介が口を開いて――――俺をちらりと見て。―――クマに向かって声を張り上げた。
「てめクマ!なんでこっち食ってんだよ!」
「ほえ?ヨースケのチョコ食べていいって言ったクマよ?」
「これじゃなくてテーブルの!義理チョコの方だ!」
ピクリ、と眉を動かしたのは俺。
「コッチ小っちゃいクマよ〜」
「たりめーだ義理なんだから!…ったく、なんで」
よりによってコレ食っちまうんだよ…陽介が独り言のように口の中でこぼす。
「ヨースケ?」
「…ッいいから!てめーはさっさとバイト行け!」
何するクマ、イタイクマー!文字通りクマを叩き出して、2人きりになった部屋で陽介が深々と肩を落とした。のそりとテーブルの前まで来ると、無言でビリビリになった包装紙をつまみ上げる。普段なら『残念だったな』とか『元気出せ』とか、それこそ頭をぽんぽんと撫でてやるくらいの落ち込みようだったけど、
「そっちの4つは義理チョコだって?」
そういった慰めを一つも吐かずに、俺は切り出した。
「え?…あぁ、そりゃそうだろ、アイツらから貰ったヤツだもん」
「じゃあ、」
スゥッと。推理している時のように―――それこそ犯人を問い詰める時のように、陽介の持つ赤い包装紙を指差した。
「そっちは?義理チョコじゃないわけ?」
陽介の肩が、強張った。
「義理チョコじゃないんなら、」
我ながら、意地悪な問い方だと思いながら。
「本、命?」

は、と陽介が息をつく。
その直後に表情を崩し、顔をしかめた…というより、ひどく気まずそうな表情になった。あーとか、うーとか、言葉にならない声をあげてガシガシと頭をかいて。
それからようやく俺の目を見て、


「バレた?」
へらり、と笑った。



ぎしり。
俺が立ち上がった拍子に床が鳴った。
急に立った俺にキョトンと丸くなった陽介の目を、真っ正面に見据える。
「…隠してたんだ」
「隠すっつーわけじゃないんだけどさ……なんか言い出しにくくなって」
お前の大量のチョコ見たらさ、と陽介は続けた。
何だそれ。―――『もし本命があったら、陽介の前で開けようと思って』…陽介に言った自分の言葉が滑稽に思い出される。
お前は。…お前は、本命チョコを貰ったことを―――誰かから想いを寄せられたことを、黙って、鞄の中に忍ばせて。
「そうやって、ずっと隠しておくつもりだった?」
「ずっとってわけじゃねぇよ、明日になるかもしんねぇけど改めて用意―――って、相棒?」陽介が眉をひそめる。
「何怒ってんだよ」
「―――何、って…!」
陽介の肩をドンと押す。抵抗する気がない陽介は押された勢いのまま一歩二歩下がって、背中に部屋のドアが当たった。
「お前が、」
喉から、割れた声がした。
「…お前が!本命チョコなんか貰うからだろ!」
………「は?」の形に陽介の口が動いて、それから徐々に目が見開かれていく。ようやく理解が追いついたのか、顔色が赤くなって青くなって、パクパクと何度か空回りをした後にやっと声が出た。
「おまっ…それ、ちがっ」
「―――何が違うっていうんだよ」
陽介の声が上擦ると、逆に自分の声は冷えていった。
「誰に貰ったかなんて知らないけど」
「誰、って、!それは」
「本命チョコなんて貰って舞い上がって、俺に黙って内心ほくそ笑んでたってわけ」
「…………は?」
それまで慌てて両手をバタバタさせていた陽介が、ピタリと動きを止めた。
「………何、…そんなこと、思ってたわけ?」
さっきまでとは違う理由で陽介の声が上擦る。
「…違うっていうの?」
「違げぇよ!」
「じゃあなんでソレ隠してたんだ」
「だからそれは………っ」
陽介の顔がぐにゃりと歪んで、何の言葉にもならない呻きがこぼれた。
2人で黙りこくって、ジリジリと焦げ付くような空気が間に流れる。時計の秒針が十数回聞こえた後に、陽介が低くつぶやいた。
「……………ぇれよ」
ぼそりと言われた一言を聞かない振りをして黙っていたら
「外出ろ!いっぺん頭冷やして来い!」
ガッと俺の腕を掴んで部屋の入り口に引きずられた。
(帰れ、って)
なんで俺が言われなきゃいけないんだ。怒っているのは俺で、悪いのは陽介じゃないか…!
頭の芯がカァッと熱くなって陽介の肩を逆に掴んで、固いドア板にダァン!とぶつけて
「…てっ!―――――」
そのまま何か言う前に唇に噛み付いた。
手の中に掴んだ陽介の身体が一瞬弛緩して、次の瞬間で思い出したように俺を引きはがす。
「っ、何、す……!んむっ」
陽介が喋るのを無視してもう一度口をふさぐ。
「っだ…から!聞けよ!!」
「嫌だ」
一言で切り捨てた。さっきまでは陽介が話してくれないことに苛ついていたはずなのに、今は何も聞きたくなかった。自分でも支離滅裂だ。
陽介が口を手で覆って邪魔するから、その手を掴んで背後のドアに縫い留める。腕力が同じなら先にこうやって体重をかけてしまえば抜け出すのが難しくなるとわかっていた。このまま、抵抗も言い訳も全部封じてしまいたかった。
「――――っ、ンン…!」
3度目は呼吸もできないくらい深く唇を噛み合わせた。苦しくなった陽介が身をよじって押さえた手が暴れようとしたけど離してなんかやらなかった。唯一自由な足が横から俺の脛を蹴ったけど、体重の乗ってない蹴りなんて何の邪魔にもならない。舌まで入れてしまえと思った矢先、
「―――――ッ、ングッ!」
「痛………っ!」
力任せに閉じ合わされた歯がギロチンみたいに俺の下唇を噛んだ。痛みに気を取られた隙にぐいっと身体を押され、俺と扉の間から陽介が逃げ出す。
「………ハッ、…ハァッ、…」