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V.D.2.14.to 主 from 花

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陽介の顔が赤いのは怒りと、それと息ができなかったせいなんだろう。
「ッお前…なぁ!」
フゥッと呼吸を整え、今度は陽介が真正面から俺を睨みつける。
「聞けっつってんだろが…!」
あぁ、もう陽介を抑えておけない。そう思った。事実、こうやって向かい合って対等な条件になってしまえば、一方的に力づくで捕まえておくなんてできない。
「誰のチョコだって言ったよな?」
誰の。その言葉に体が震える。嫌だ、聞きたくなんかない。
……陽介を、好きな、女の子の話なんて。
とっさに耳をふさごうと伸びた手を陽介に捕られた。目の前で開いていく唇をただ見ているしかできなかった。
「あのな!あれは、あの本命チョコは……」

「―――――お前のだよ!」


「………………え?」
「ッだから!俺から、お前にやるチョコ……だよ!」
そんなん、…本命、に決まってんだろが…!目をそらして陽介が言う。耳まで赤くなっているのは、怒っているだけでも息苦しかっただけでもなく………?
「――――っ」
頭にのぼった血がさあっと引いていく。テンタラフーもかけられていないのに混乱していた脳がようやく正常に動きだして、理解が遅れに遅れてやってきた。

全部、俺の、勘違い?


「―――――――帰る」
「へ?」
再び動き出した俺が言ったのは馬鹿みたいに唐突だった。
「帰るよ。陽介の言うとおりだ、頭冷やした方がいいな俺」
「え……っ、ちょっ、ま」
「また明日、学校で」
なっ…おい!相棒!自分を呼ぶ声を置いて部屋を出る。振り返りもせずに階段を一段抜かしで降りて花村家の台所を横切ると、壁にかかったカレンダーが目に入った。
2月、14日。
見るんじゃなかった。いや、そもそも今朝、堂島家のカレンダーを見て気づいたのがいけなかったんだ。
…28日間しかない2月が、今日で半分終わってしまうなんて。今日が終われば、あと『1ヶ月半』なんて言葉でくくれてしまうだなんて。
そんなことを考えているから。だから、余計な疑いを持って。余計なケンカをして。そんなことをする時間はもう残っていないはずなのに。
「―――待てって、…おい!」
バタバタと背中から声と足音が追ってきた。我に返って、玄関へ向かう。もう一度自分を呼ぶ声がした。
「なぁ…!相棒………っ」
陽介の声から覇気がなくなっていく。つられるように…いや、本当はずっと陽介が気になっていて、俺も足を止めた。……ただ、陽介の顔を見ることはできなくて、背を向けたままその言葉を聞く。
「待て、って………」
そんな俺の反応をどう思っているんだろう。ぽつりとつぶやかれるように、声は続く。
「頼む、から」

「貰ってくれよ、俺から………」

引かれるようにして振り返った。
「チョコはもうねぇけどさ、」
陽介の手には、ビリビリにされた本命チョコレートにかけられていたリボン。白いレースが陽介の手の平からこぼれ落ちている。
―――チョコがなかったら、陽介にリボンをかけて。そんな俺の世迷言を覚えてくれていたんだろうか。想像の中の陽介とは対照的に、真っ青な顔をして…
「他のヤツからチョコ貰って、俺だけあげてない、とか、マジ…ないわ………」
最後はもう消え入りそうだった。

陽介の元まで歩み寄って、手から垂れ下がるリボンを掬い上げて、陽介の手に―――左手の、薬指に巻いていく。戸惑った視線を感じながら、ちょうちょ結びにした輪っかをきゅ、と引いた。
「…貰って、いいの?」
陽介を。
リボンのかかった薬指に口づけながら言うと、陽介がひとつ瞬きをしてくしゃりと笑う。
「もう、とっくにお前の物だよ」
とん、と陽介が俺の肩に頭を預けた。応えるようにその背中に腕をまわした。
「じゃあ……ありがたく、いただくよ」
「どういたしまして」
なんつって。小さくおどけて、その後にぽつりと付け加えた。
「―――――ホワイトデー」
「え?」
「バレンタインにチョコ貰ったヤツは、ホワイトデーに3倍返しだからな」
「……困ったな。陽介自身を貰っちゃったから、その3倍なんて何を返せばいいんだろ」
「考えがいがあるだろ」
くくくっと腕の中で陽介が笑う。とどめを刺されたのはその後だった。
「これで、3月まで余計なこと考えてる暇なんてなくなったな?ずっと俺のこと考えててくれよ?」

―――あぁ、バレていたんだ。
「…ホントに、どうしようかな」
こんなに沢山貰ってしまって、倍返しなんてできるんだろうか。
3月14日までに、頑張って考えないと。



END