純情かき氷
陣内家には古いものがたくさんある。
温故知新というか、新旧和合といった具合だ。
理一さんが掘り出したかき氷機も随分昔に買ったものらしく、ペンギンの塗装が剥げて鉄の部分が丸見えだった。
「みんなには内緒だ」人差し指を立てて悪戯っぽく笑う理一さんは、少しだけ夏希先輩に似ていた。
がりがりと氷を削る音は結構響いた。家の人が出払っていなければ、すぐ誰かにばれていただろう。
ハンドルを回す理一さんは真剣で、表情というものがあまりない。
そういえば最初の頃、理一さんはそう笑う人ではなかった。
食卓ではジュースを注いでくれたりしたけど、あれはお客様仕様の顔だったのだろう。
必要なときに必要な顔を作る、そういう人なのだろう。
「理一さん」声を掛けても、氷を削るけたたましい音に阻まれて理一さんには届かない。
この距離はどこか片想いと似ている。
いちご味のシロップは冷蔵庫に保存されていたけど、肝心の器が見つからなかった。
しょうがないのでお椀に盛って、シロップをたっぷり掛けた。陣内家はお椀も高価なものを使っている。
漆塗りのお椀でかき氷、似合わない組み合わせだ。僕らはかき氷を持って縁側に向かった。
すっかり人気のなくなった屋内で、風鈴の音だけが耳に響く。先の騒動で蝉は逃げたか全滅してしまったのだろうか。
水かさの減った池を眺めながら、僕の一世一代の合戦を思い出す。僕らが作り出した奇跡の日。
陣内家の人たちが僕を認めてくれた瞬間を。
「君が来てくれて良かったよ」涼やかな声が僕を現実に引き戻した。
理一さんが僕を横目で見ている。流し目、その単語がぴったり当てはまる目だった。
ソウイウ経験のない僕でも分かる、含みのある視線。
親しさと呼ぶには熱っぽく、優しさと称せるほど柔らかいものじゃない。今まで見たことのない目だ。
口内の氷を嚥下するだけなのに、やけに大きい音がした。まるで生唾を飲み込むような。
温故知新というか、新旧和合といった具合だ。
理一さんが掘り出したかき氷機も随分昔に買ったものらしく、ペンギンの塗装が剥げて鉄の部分が丸見えだった。
「みんなには内緒だ」人差し指を立てて悪戯っぽく笑う理一さんは、少しだけ夏希先輩に似ていた。
がりがりと氷を削る音は結構響いた。家の人が出払っていなければ、すぐ誰かにばれていただろう。
ハンドルを回す理一さんは真剣で、表情というものがあまりない。
そういえば最初の頃、理一さんはそう笑う人ではなかった。
食卓ではジュースを注いでくれたりしたけど、あれはお客様仕様の顔だったのだろう。
必要なときに必要な顔を作る、そういう人なのだろう。
「理一さん」声を掛けても、氷を削るけたたましい音に阻まれて理一さんには届かない。
この距離はどこか片想いと似ている。
いちご味のシロップは冷蔵庫に保存されていたけど、肝心の器が見つからなかった。
しょうがないのでお椀に盛って、シロップをたっぷり掛けた。陣内家はお椀も高価なものを使っている。
漆塗りのお椀でかき氷、似合わない組み合わせだ。僕らはかき氷を持って縁側に向かった。
すっかり人気のなくなった屋内で、風鈴の音だけが耳に響く。先の騒動で蝉は逃げたか全滅してしまったのだろうか。
水かさの減った池を眺めながら、僕の一世一代の合戦を思い出す。僕らが作り出した奇跡の日。
陣内家の人たちが僕を認めてくれた瞬間を。
「君が来てくれて良かったよ」涼やかな声が僕を現実に引き戻した。
理一さんが僕を横目で見ている。流し目、その単語がぴったり当てはまる目だった。
ソウイウ経験のない僕でも分かる、含みのある視線。
親しさと呼ぶには熱っぽく、優しさと称せるほど柔らかいものじゃない。今まで見たことのない目だ。
口内の氷を嚥下するだけなのに、やけに大きい音がした。まるで生唾を飲み込むような。