可能性の話
いつのまに寝ていたのだろうか。ふと気がつくと仕事机に突っ伏していた。部屋の中は薄暗く、もうすぐ夜らしいことに眉をしかめた。まだまだ仕事が残っているというのに。それに夕飯の支度もしないといけない。上司はもうすぐ帰ってくるだろう。硬くなった体を起こそうとして、止めた。
違和感。
これは、視線だ。自分以外の人間は居るはずのない部屋で視線を感じる。臨也が帰ってきたのか?
ちがう。何か、別の、今までに感じたことのない気配。しかしよく知っているような気配。息をのんだ。ばかばかしい、そう思ってしかし、ゆっくりと顔をあげると、波江は動けなくなった。
気配の正体は知れた。
それは、確かに人間でなかった。
しかし人間とよく似ていた。
綺麗なビー玉のような青い両の目が、波江を見つめていた。その視線は波江を絡め捕り、その身動きの一切を封じてしまう。波江はただ彼女に見つめられていた。美しかった。それは魔的な美しさだった。
とても美しい、憎むべき、生首だった。
呼吸が荒くなる。
心臓の音がうるさい。
彼女が、自分を見つめている。
ただ波江を見ている。
見ている。
見ている。
見ている。