こらぼでほすと 闖入6
さて、上司様ご一行と坊主とサルの一団は、特区の西に滞在していた。急ぐ用件はないものの、一番、食い倒れツアーの多い場所だから、ここに一週間ほど滞在する予定をしている。とりあえず、特区の西の人外関係者とは挨拶を交わしたので、後は、フリーな予定だ。
「辻利ですか? それは、かなり並ぶことになりますよ。」
捲簾が場所の確認を、こちらの人外の関係者としていたら、渋い顔をされた。悟空が一番食べてみたいと言った抹茶のスイーツは、人間界でも大人気な代物で、平日でも観光客が列を作っていると言う。
「平日なら、一時間も並べば、どうにか席には座れるでしょうが・・・・そういうことなら、こちらで都合をつけましょう。深夜でも構わないでしょう? 」
と、関係者はおっしゃって、祇園にある辻利の店へ深夜に来訪するように、捲簾に告げた。まあ、何時でもいいっちゃいいのだが、そんな時間に店は開いているわけではない。元が茶葉販売だから、閉まるのも早い時間だ。
「まあまあ、騙されたと思っていらっしゃってください。・・・・茶屋遊びの手配をしておきますから、それから案内させていただけば、ちょうど良い。」
「いや、うちは無粋なのばかりで。」
「何も妓女と色っぽいことなどしなくても、食事するのに舞がついているぐらいのことだと思えば大丈夫。」
祇園というところは、基本、夜の歓楽街だ。そんなところへ、サルや童子、坊主なんぞ連れて行っても楽しいことはない。仏頂面の面子や子供の相手を妓女にさせるのも申し訳ないと思ったのだが、そこいらは問題ないと押し切られた。ただし、少し時間はください、と、おっしゃった。
「別に、後学の為にはいいんじゃないんですか? 捲簾。僕も、こちらの妓女さんたちの芸というものは鑑賞してみたいです。」
「俺やおまえはいいけどさ。残りの面子は、あれだぞ? 」
芸事に、爪の先ほどの興味もないのと、食欲魔神には、そんなもの退屈なだけだ。とはいうものの、こちらの関係者が席を用意してくれるというのだから、断るのも申し訳ない。
「晩御飯に、おまけがついていると思ってもらえばいいじゃないですか。・・・・しかし、あれで舞うってすごいですね? 総量十キロはあるっていうのに。」
ガイドブックには、祇園についての説明も載っているから、天蓬は、それを読んで感心している。妓女というのは、もちろん、本山のほうにもいるが、あれほどの重量のものを身につけて舞うものはいない。もっと軽やかな衣装だ。特区の寺院の壁画や仏画に残っている飛天翔として描かれているものに近い。こちらの芸妓たちは、特区独特の着物というもので舞う。これが、帯やら着物やらで、十キロ近いのだ。若い人間の娘に、それで舞えるのか、天蓬は、そこいらに興味がある。
「金蝉は、そこいらを教えれば興味を持つと思いますね。三蔵は、ダメでしょうけど。なんで、ああ、無粋なんでしょうねぇ。綺麗な顔はしてるんだから、ちょっとぐらい興味を持ってくれてもいいと思うんですけど? 」
「あいつは、即物的にできてるからなあ。悟空のためってことで、引っ張り出すか。」
行列に並ぶなんてことは、坊主には不可能だ。それがないのだし、悟空が食べたいと言っているものを一緒に食べるということなら、三蔵も渋々ついてはくるはずだ。すでに、何度か逃亡しているが、悟空に関することなら、逃亡はない。こちらの関係者との顔繋ぎの義理は果したから、後は勝手にさせてもらう、と、言っているが、悟空が、一緒に行こう、と、誘えば断らないからだ。なんだかんだと、毎日、童子様と一緒に、悟空に付き合っている。
「悟空に誘わせて、お茶屋遊びをさせればいいんです。なんなら、三蔵には特別になりきりコスプレも体験させてあげてもいいですね。くくくくくく。」
「天蓬、そういうのがやりたいなら、自分でやれ。」
「僕が、着物でなりきり芸妓のコスプレしたら、あなた、楽しいですか? 捲簾。」
「どうだろうな。本格的にやってくれたら楽しいかもしれない。」
「わかりました。じゃあ、それ、やってみましょう。ああ、そうだ。それの似合うのが、もう一人いましたね。あれが来訪してからにしましょうか。」
もう一人と言われているのは、どこぞのイノブタさんだ。だが、あちらは、四日後に合流する予定になっているので、少々、時間がある。
「そういうことなら、先に大仏見物に行くか。あっちで一泊して戻れば、ちょうどいいだろう。」
しばらく待ってくれと、特区の関係者も言っていたし、それなら、先に大仏のほうを片付けておけば、じっくりと京都大阪食い倒れツアーに集中できるというものだ。なぜか、捲簾が、それらの予定を仕切ることになっている。いや、捲簾しかできないし、行き当たりばったり自由気まま唯我独尊な他の面々には仕切りなんて、できないからだ。
「いいですね。僕、ちょっと見たいものがあるんで追加してください。・・・・この古墳が見たいんです。」
ガイドブックの付箋がつけられたところを天蓬が指差す。そこに載っているのは石の組み合わされた建造物だ。古墳とは思えない代物だ。
「古墳? これがか? 」
「元はちゃんと埋まってたらしいんですが、なぜか掘り返されたか地殻変動だかで、玄室部分だけが残ったらしいんですよ。これ、大きいみたいなんで、是非。」
「これ、えらく南にあるんだけどな? 」
「くくくく・・・だから、僕らだけで行くんです。」
地図を確認したら、大仏からはかなり離れた場所にある。ここにも行くとなると、結構、時間配分が難しい、と、捲簾は思ったのだが、天蓬の考えは別にあるらしい。
「なぜ? 」
「たまには、のんびりとドライヴというのもいいじゃないですか。ここんところ、あなたは添乗員で忙しそうでしたから。骨休めということで。」
あちらの関係者と顔合わせするのだけは、外せないが、それ以外なら、別に団体行動でなくてもいいわけで、たまには、夫夫ふたりの時間を作ろうということらしい。一日目は、付き合うとして、二日目は逃亡して、京都で落ち合えばいい。それぐらいの移動なら、常識派の金蝉と悟空で、どうにかなるはずだ。三蔵は、悟空が管理するだろうから問題はない。
「なるほど、それで俺らは、こっちで、もう一泊って寸法か。」
「ここ、残念ながら泊まるところはないんです。ですから、ここから大阪へ足を延ばすというのもアリです。それとも、もっと南には温泉があるので、そちらでもいいですね。」
ガイドブックの地図を指差して、つっーっと南下させると、温泉マークのある地域がある。
「なるほど、それなら、奈良の関係者に確認してみるか。」
「ダメですよ。そんなことしたら、行き先がバレてしまう。僕としては、ここいらがいいんじゃないかと思うんですが? 」
すでに、天蓬は宿泊場所もチェックしていた。その古墳から、小一時間の場所に、温泉のある旅館がある。写真で見る限りは、特区らしい風情のある建物の外観だ。
「これ、予約は? 」
「辻利ですか? それは、かなり並ぶことになりますよ。」
捲簾が場所の確認を、こちらの人外の関係者としていたら、渋い顔をされた。悟空が一番食べてみたいと言った抹茶のスイーツは、人間界でも大人気な代物で、平日でも観光客が列を作っていると言う。
「平日なら、一時間も並べば、どうにか席には座れるでしょうが・・・・そういうことなら、こちらで都合をつけましょう。深夜でも構わないでしょう? 」
と、関係者はおっしゃって、祇園にある辻利の店へ深夜に来訪するように、捲簾に告げた。まあ、何時でもいいっちゃいいのだが、そんな時間に店は開いているわけではない。元が茶葉販売だから、閉まるのも早い時間だ。
「まあまあ、騙されたと思っていらっしゃってください。・・・・茶屋遊びの手配をしておきますから、それから案内させていただけば、ちょうど良い。」
「いや、うちは無粋なのばかりで。」
「何も妓女と色っぽいことなどしなくても、食事するのに舞がついているぐらいのことだと思えば大丈夫。」
祇園というところは、基本、夜の歓楽街だ。そんなところへ、サルや童子、坊主なんぞ連れて行っても楽しいことはない。仏頂面の面子や子供の相手を妓女にさせるのも申し訳ないと思ったのだが、そこいらは問題ないと押し切られた。ただし、少し時間はください、と、おっしゃった。
「別に、後学の為にはいいんじゃないんですか? 捲簾。僕も、こちらの妓女さんたちの芸というものは鑑賞してみたいです。」
「俺やおまえはいいけどさ。残りの面子は、あれだぞ? 」
芸事に、爪の先ほどの興味もないのと、食欲魔神には、そんなもの退屈なだけだ。とはいうものの、こちらの関係者が席を用意してくれるというのだから、断るのも申し訳ない。
「晩御飯に、おまけがついていると思ってもらえばいいじゃないですか。・・・・しかし、あれで舞うってすごいですね? 総量十キロはあるっていうのに。」
ガイドブックには、祇園についての説明も載っているから、天蓬は、それを読んで感心している。妓女というのは、もちろん、本山のほうにもいるが、あれほどの重量のものを身につけて舞うものはいない。もっと軽やかな衣装だ。特区の寺院の壁画や仏画に残っている飛天翔として描かれているものに近い。こちらの芸妓たちは、特区独特の着物というもので舞う。これが、帯やら着物やらで、十キロ近いのだ。若い人間の娘に、それで舞えるのか、天蓬は、そこいらに興味がある。
「金蝉は、そこいらを教えれば興味を持つと思いますね。三蔵は、ダメでしょうけど。なんで、ああ、無粋なんでしょうねぇ。綺麗な顔はしてるんだから、ちょっとぐらい興味を持ってくれてもいいと思うんですけど? 」
「あいつは、即物的にできてるからなあ。悟空のためってことで、引っ張り出すか。」
行列に並ぶなんてことは、坊主には不可能だ。それがないのだし、悟空が食べたいと言っているものを一緒に食べるということなら、三蔵も渋々ついてはくるはずだ。すでに、何度か逃亡しているが、悟空に関することなら、逃亡はない。こちらの関係者との顔繋ぎの義理は果したから、後は勝手にさせてもらう、と、言っているが、悟空が、一緒に行こう、と、誘えば断らないからだ。なんだかんだと、毎日、童子様と一緒に、悟空に付き合っている。
「悟空に誘わせて、お茶屋遊びをさせればいいんです。なんなら、三蔵には特別になりきりコスプレも体験させてあげてもいいですね。くくくくくく。」
「天蓬、そういうのがやりたいなら、自分でやれ。」
「僕が、着物でなりきり芸妓のコスプレしたら、あなた、楽しいですか? 捲簾。」
「どうだろうな。本格的にやってくれたら楽しいかもしれない。」
「わかりました。じゃあ、それ、やってみましょう。ああ、そうだ。それの似合うのが、もう一人いましたね。あれが来訪してからにしましょうか。」
もう一人と言われているのは、どこぞのイノブタさんだ。だが、あちらは、四日後に合流する予定になっているので、少々、時間がある。
「そういうことなら、先に大仏見物に行くか。あっちで一泊して戻れば、ちょうどいいだろう。」
しばらく待ってくれと、特区の関係者も言っていたし、それなら、先に大仏のほうを片付けておけば、じっくりと京都大阪食い倒れツアーに集中できるというものだ。なぜか、捲簾が、それらの予定を仕切ることになっている。いや、捲簾しかできないし、行き当たりばったり自由気まま唯我独尊な他の面々には仕切りなんて、できないからだ。
「いいですね。僕、ちょっと見たいものがあるんで追加してください。・・・・この古墳が見たいんです。」
ガイドブックの付箋がつけられたところを天蓬が指差す。そこに載っているのは石の組み合わされた建造物だ。古墳とは思えない代物だ。
「古墳? これがか? 」
「元はちゃんと埋まってたらしいんですが、なぜか掘り返されたか地殻変動だかで、玄室部分だけが残ったらしいんですよ。これ、大きいみたいなんで、是非。」
「これ、えらく南にあるんだけどな? 」
「くくくく・・・だから、僕らだけで行くんです。」
地図を確認したら、大仏からはかなり離れた場所にある。ここにも行くとなると、結構、時間配分が難しい、と、捲簾は思ったのだが、天蓬の考えは別にあるらしい。
「なぜ? 」
「たまには、のんびりとドライヴというのもいいじゃないですか。ここんところ、あなたは添乗員で忙しそうでしたから。骨休めということで。」
あちらの関係者と顔合わせするのだけは、外せないが、それ以外なら、別に団体行動でなくてもいいわけで、たまには、夫夫ふたりの時間を作ろうということらしい。一日目は、付き合うとして、二日目は逃亡して、京都で落ち合えばいい。それぐらいの移動なら、常識派の金蝉と悟空で、どうにかなるはずだ。三蔵は、悟空が管理するだろうから問題はない。
「なるほど、それで俺らは、こっちで、もう一泊って寸法か。」
「ここ、残念ながら泊まるところはないんです。ですから、ここから大阪へ足を延ばすというのもアリです。それとも、もっと南には温泉があるので、そちらでもいいですね。」
ガイドブックの地図を指差して、つっーっと南下させると、温泉マークのある地域がある。
「なるほど、それなら、奈良の関係者に確認してみるか。」
「ダメですよ。そんなことしたら、行き先がバレてしまう。僕としては、ここいらがいいんじゃないかと思うんですが? 」
すでに、天蓬は宿泊場所もチェックしていた。その古墳から、小一時間の場所に、温泉のある旅館がある。写真で見る限りは、特区らしい風情のある建物の外観だ。
「これ、予約は? 」
作品名:こらぼでほすと 闖入6 作家名:篠義