こらぼでほすと 闖入6
「もちろん、してあります。後は、レンタカーですが、これは当日でも、どうにかなるでしょう。悟空には、二人で外泊することは伝えましたんで、追い駆けられる心配はないと思います。」
場所までは伝えていませんよーと、天蓬は優雅に笑っている。己のためなら、それぐらいのことは仕切れるらしい。
秋雨は、意外と長引いて五日目に、ようやく曇りになった。これから好転するという予報だが、その谷間は気圧が不安定で、いかに黒子猫が居ても、親猫もダウンしている。レイとシンは、自分のことは自分でやってくれるので、それほど世話が必要ではない。学生だから日中は留守をしているが、その間は、トダカが居座ってくれているし、アスランとキラも顔を出してくれるので、親猫の看病の実務のほうは、滞りなくしてくれている。
「八戒のさんの代わりに経理のほうをさせてもらうことになってたんだけど・・・どうしたもんかなあ。」
ぐったり布団に沈んでいるニールは困ったなーと呟いている。明日から、沙・猪家夫夫も特区の西に遠征する。その期間、経理のほうが疎かになるので、ニールが代わりに手伝うことになっていたのだが、これでは、とても店に行けない。
「明日には晴れるらしい。それからにしろ。」
ずっと、付き添っている黒子猫は、布団の横でトレーニングをやりながら、親猫のぼやきに返事する。片手で腕立て伏せをしている状態だが、これぐらいでは声も震えない。
「・・・わかってるけどさ・・・・留守を任されてるのに、これじゃあなあ。」
寺の留守番を任されているものの、ほとんど、何もできていない。坊主とサルが出かける前から雨が降っていたから、動きたくとも動けないのが続いている。レイが、すっかりと家事担当になっていて、ニールや刹那の食事を用意してくれている。いつもなら、ニールがシンやレイのお弁当をしてやっているのに、今回は逆に世話になりっぱなしだ。
「だからって無理しても意味がない。あんたは、無理すると熱を出す。」
「・・まあ、そうなんだけど・・・でも、漢方薬治療で、ほんと楽になったんだぜ、刹那。」
「それは、わかる。いつもなら、あんた、口も聞けないからな。」
これだけ雨が続けば、いつもなら、本宅へ移動させたほうがいいくらいに弱るのだが、今回は確かに楽そうだ。ぺらぺらと刹那と会話していられるぐらいには、身体が楽ならしい。とはいうものの、倦怠感満載の身体は、思うようにならないので、べったりと布団に沈んでいる。
そこへ、回廊からの階段を上る複数の足音が聞こえた。ここには、敵になるものはいないはずだが、それでも黒子猫は飛び起きて、親猫を庇うように布団の前に立つ。しゅるりと障子は開いたが、そこにはエプロンドレスの歌姫様だ。
「お手伝いに参上いたしました、ママ。」
背後には、ジェットストリームな護衛陣が並んでいるし、イザークとディアッカも一緒だ。
「うえ? 」
えらい陣営が並んでいるので、ニールも枕から頭を上げる。まあ、歌姫はいいとしよう。たまに、寺に顔を出す。だが、イザークとディアッカまで一緒なのは珍しい。いそいそと脇部屋に入ってきた歌姫様は、頭を上げている親猫を戻す。
「起きてはいけませんよ? ママ。」
「いや、ラクス。何、大事にしてんだよ? おまえさん。護衛陣全員、引き連れてくることねぇーだろ。」
「夕方に仕事があるので、空き時間にお手伝いに参じたからです。」
「そうそう、ちょいと立ち寄りってやつなんだ。それで、護衛も揃ってるだけだ。刹那、久しぶりだな? 」
ディアッカが、刹那に挨拶して、ほい、と、菓子箱を渡す。見舞いに行くなら、と、イザークが用意したシュークリームとプリンの詰め合わせだ。
「プリンなら、喉越しもいいから入るだろ、ニール。」
用意したイザークが中身は説明する。お茶の用意もしておりますので、と、歌姫様は、また立ち上がって回廊を降りていく。そちらには、ヒルダが同行する。
「ラクス、忙しいんじゃないのか? イザーク。」
「まあ、忙しいことは忙しい。だが、休憩時間というものはあるんだ。」
「寝込んでるのは解ってるからさ、気にしてたんだよ、ラクス様はさ。それで、空き時間に見舞いに顔出したってわけ。」
イザークとディアッカは、よっこらせ、と畳に座り込む。残りのヘルベルトとマーズは、何やら大きな箱を持っているのだが、それも中に入れて開いている。
「ヘルベルトさん、マーズさん、それは? 」
「ラクス様からの見舞いだ。おい、ママ、ここ、いいか?」
箱から取り出されたのは液晶テレビだ。それほど大きなものではないが、そこそこの大きさはある。それを、別の箱から取り出された台座に設置して、部屋の隅にセットしている。
「はあ? なんで、こんなもの。」
「寝てるだけだと退屈だろ? 本宅のライブラリーから、当たり障りのないディスクも持ってきたから、これでも見てろってことだ。」
俺たちのお勧めもあるぜ、と、テレビのセッティングをしているマーズが、そのディスクを、ニールに手渡す。自然な景色のディスクや、最近の映画やら、動物園の紹介ものとか、魚のものとか、まあ、そういう種類のものだ。
「俺は、これがお勧め。カーチェイスが小気味よくてな。それと、こっちはCG 満載のSFものだ。」
ヘルベルトも、お勧めを手渡してくれる。それだけで、山になるほどのディスクが置かれている。本宅のライブラリーは、毎週のように新しいものが入るので、これだけ貸し出ししても、どうということはない。
「このテレビ、買ったんですか? 」
「いや、買いに行く暇がなかったから、本宅の客間のやつを持って来た。まあ、細かいとこは気にするな。黒子猫と、たまには優雅にディスクの鑑賞でもしてろや。」
買ってきた、などと言おうものなら、ニールが、「もったいない。」 と、怒るから、そういうことにしてある。実際は、取り寄せた新品だ。とりあえず、映るか実験するか、と、適当なディスクを入れて、電源を立ち上げる。もちろん最新の機種だから、画像も綺麗なものだ。
「あら、もうセッティングできたんですか。」
歌姫様が、お茶の用意をして戻って来た。トダカも一緒に、やって来て、その最新機種の映像を見て、「ほお。」 と、感心している。
「ラクス、おまえ、見舞いに、こんなもん。」
「だって、刹那も退屈でしょうし、ママも寝ていても楽しめますでしょ? ディスクは、適当に回収させていただきますから。何にしようか迷ったんです。読書よりはいいかと思いまして。」
「読書でいい。」
「いいえ、あまり長時間の読書はいけません。目の負担が大きいのですよ? これなら、音だけでも楽しめます。」
右目が見えていないニールの場合、長時間の読書というのは、左目だけを酷使するので、長時間はよくない。それもあって、テレビを運んで来た。脇部屋は、何もないので、歌姫様も、それを、ずっと考えていたのだ。
「おまえさんさ。」
作品名:こらぼでほすと 闖入6 作家名:篠義