こらぼでほすと 闖入6
キラは、CB が世界に宣戦布告した以前から、ヴェーダとはアクセスしていた。ここのデータは、キラにとっても重要なものが多かったからだ。『吉祥富貴』では把握できない現地情報や過去からの各陣営の情報、現況なんてものが、さくさくとヴェーダには集められて蓄積されていたからだ。
「まあ、うちのセキュリティーは突破できないだろうけど、ティエリアのとこは、ただ漏れしてるんだよねぇー。」
ヴェーダの一部を掌握しているが、CB自体にも独自のマザーがある。そこに蓄積されるデータにも、きちんとセキュリティーはあるのだが、いかんせん、ヴェーダのほうが上手で、易々とデータの検索を受けているのが実情だ。そこから、『吉祥富貴』の存在も知られてしまった。キラがヴェーダに侵入していること自体は気付かれていないが、そこからキラがCBに流す情報で、バレたらしい。
「機体情報が、完全に把握されているのは、まずいな。キラ、こっちからセキュリティーソフトを送るか? 」
こちらで組み込んでいるセキュリティーソフトをCB側でも使ってもらえば、機密漏洩まではいかなくて済む。
「それをやるとなると、出張だよ? アスラン。僕ら、あそこへ立ち入るのはダメじゃないの? 」
ソフトだけを送ってやっても、稼動させるには、そこのマザーとのマッチングやらセッティングやらの仕事がある。ティエリア一人では無理だろう。膨大な情報が逐一出入りしているのだ。それらを保護しつつ作業するには、何人か必要になるし、システムの専門家でないと、この作業はできない。『吉祥富貴』は、戦争に手を貸さないのが信条だ。基本は、人命救助ということになる。だから、CBまでの遠征は、戦争幇助に該当しているから、キラは渋る。こちらの動きは、連合からもチェックを受けている。キラとアスランが動けば、調べられるのは目に見えている。
「とはいってもな、キラ。その情報を連合に流されると、CB側は不利だ。そこいらは、こちらでヘルプしてやらんといかんだろう。」
「うーん、どうしようかなあ。マザーの外側に、セキュリティーのシステムを構築しちゃおうか? 黙ってこっそりアクセサリーをつけるんなら、協力じゃないよね? アスラン。」
「それならいいんじゃないか。バルトフェルトさん、そういうことなら、戦争幇助には該当しないですよね? CB側にも知らせなければ、手助けとは言わない。」
「まあ、詭弁だが、いいだろう。それは期間のかかるものか? キラ。」
「構築するのは、僕とアスランでできるけど、乗っける時は、シンとレイとハイネぐらいは必要。ダコスタも手伝ってくれるなら、かなり楽。期間は一ヶ月くらいかな。うちのセキュリティーシステムを土台にするから、それほど時間はかかんないよ、虎さん。」
ふむ、と、虎は頭で、それらを計算する。つまり、年末年始当たりに、その作業が入ることになる。年末年始なら、店も休みだし、さすがに世界も騒がしくはないだろう。学生たちも本業が冬休みだから、ラボに召集しても問題もない。
「いいだろう。年末年始にラボで作業する予定を入れておくぞ。」
「今年は、ラボで年越ししてニューイヤーパーティーやろー。そういうお楽しみがあると頑張れる。」
「うん、いいんじゃないか。ラクスも、年明けから休暇を取るだろうから、ラボに集結してれば、警護もしやすいし、カモフラージュにもなる。」
そういうことなら、イザークとディアッカも召集できるから、作業の効率は跳ね上がる。年末の休みに一気に仕掛けてしまえば、年明けの休暇は、お遊び満載でいいだろう、と、アスランも頭で予定を作る。
「再来年には再始動だろうな。」
来年の秋頃全てのMSがロールアウトする予定だ。そこから、MSの調整やらが入るから、本格的にCBが再始動するのは、再来年ということになる。どういうことになるのか、こちらでは把握できないが、穏やかにとはいかないだろう。
「再来年は、店舗リニューアルとかなんとかの理由をつけて休業するとしよう。その予定も、トダカさんたちと打ち合わせするか。」
その辺りの長期計画も考慮しておくか、と、虎は考える。前回は、歌姫様とジェットストリームな護衛たち、イザークたちザフトレッドのメンバーでマイスターたちは救助したが、今回は、もう少し規模が大きくなりそうだ。機体の性能差が、かなりあったから、個体撃破されても、マイスターたちの被害は少なかった。今回は、性能差があまりないし、アローズの部隊が大きいから、撃破ではなく爆破されてしまう可能性がある。そこに到るまでに、回収するとなると、マイスターごとに、チームを作って確保に動かないとならない。もちろん、前回同様、キラが、マイスターの動向と位置を正確に把握しておくことも重要だ。戦域が拡大されてしまうと、ひとつのチームで回収できなくなる可能性もある。『吉祥富貴』のMSを全機、宇宙に上げて、その整備もするとなれば、かなりの消耗品も必要になるし、どこかに消耗品のストックをキープしておく場所も必要になる。それらを鑑みれば、準備に、こちらも一年かかる算段だ。再来年は、久しぶりに宇宙暮らしになりそうだ、と、虎も苦笑する。
別に、それがイヤではない。むしろ、参加して存分に暴れたい気分だ。CBが、どういう終わり方をしようとも、そこで一端、CBの活動は、また停止する。その時に、マイスターを無事に保護しておくことは、キラの願いだ。CBという組織は、そうやって歴史の裏側に潜んでいることが目的の組織だ。大きな戦争がなくても、MSの開発をして備えている。だから、それに続くために、現役のマイスターたちは生きていてもらわなければならない。マイスターは、すぐに生れるものではないからだ。それに、刹那には生きていて欲しい。世界と戦うだけが目的では、悲しすぎると、キラは思っている。他にも、世界と向き合えばいい、と、思う。そこに、ニールたちが居れば、刹那も、そういうことにも目を向けられるだろう。
作品名:こらぼでほすと 闖入6 作家名:篠義