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【Secretシリーズ 5 】 後日談

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ドラコはそんなハリーのことより本がおもしろくて、最後まで読みきったのは、それから2時間くらいたったあとだった。

ドアを開いて、ゆっくりと部屋に戻ってみると、ハリーは眠っていた。
やはり長旅だったので、ものすごく疲れていたのだろう。
布団すらかけていない。

起こそうとして、そっと肩に触ってみると、びくっと身じろいで、ハリーは「ごめんなさい」と寝言をつぶやいた。
もう少し強くからだをゆすってみる。
「すみません」とか「気をつけますので」とか、そのたびに謝りの言葉ばかりをつぶやいた。


「何が幸せか分からないんだ」
とハリーが以前、困った顔をしてドラコに言ったことがある。


聞こえてくる数々の寝言から、今までの彼の辛い生い立ちが、なんとなく想像できた。
あけすけで、強引で、せっかちすぎて、一方的なハリーの行動は、全く相手との距離感をつかめていない。
ハリーはそれが分からないのだ、悲しいくらいに。

普通の子どもならば、努力せずに与えられる幸福も、思いやりも、楽しい思い出も、なにひとつハリーにはなかった。
だから、それが手に入ったとき、無くしたくなくて、手放したくなくて、周りが見えないぐらい必死で、守ろうとしたのだろう。

ドラコは目を細めて、相手の髪の毛を撫でた。
「君はなんて、ツイてないヤツなんだ、ハリー……」
そう言って眠っている相手を慰める。

「本当についていないな、かわいそうに……。子ども頃から苦労して、やっと見つけた相手が、こんな僕だったなんて。性格はきついし、優しくもできないし、素直じゃない僕を選んだ君は、本当にツイてないぞ。もっと別の相手なら、君のことを誰よりも大切にして、やさしく接してくれるだろうに。そんな相手が選び放題なのに、こんな性格の僕を選ぶなんて。――本当にツイてない、かわいそうなハリー……」

「そんなことないよ、ドラコ」
今まで狸寝入りをしていたのか、ドラコの気配で目が覚めたのか分からないが、ハリーは瞳を開いて、やさしく笑いかけた。

「僕は『幸せ』については、よく分からないけど、『幸せになれる方法』なら、知っているんだ」
そういって、ドラコのほほを撫でる。

愛おしそうに、何度も、何度も……

ドラコはそれを受けて、ゆっくりと微笑んだ。

ハリーは両手を広げると、相手をぎゅっと胸の中に抱きしめた。

「僕とずっといっしょにいて欲しい。それだけでいいから…………」
「部屋が別々でも、風呂がなくても、結婚しなくてもか?」
ハリーは少し困った顔をしたけど、「我慢するよ」と答えた。

ドラコはそんな表情を見て苦笑して、少し譲歩することにした。
「分かった。いっしょの部屋で暮らそう。ふたりだと、かなり狭いけど、僕も我慢しよう」
「狭くなんかないよ。ひとつを明日、この部屋から出すんだ。ベッドはこの部屋には一つでいいからね。ふたつは多すぎだよ」

「シングルベッドだぞ?それを、大の大人がふたりで使うのか?いくらなんでも狭すぎだと思うけどな」
「お互いに落ちないように、からだを寄せ合って寝ようよ。抱きしめあって寝れば、問題ないさ」

「実は僕は寝相がかなりひどいんだ」
「僕も悪くて、よくベッドから落ちるんだ」
ふたりは見詰め合って、笑いあった。

「ああ、ドラコさえいれば、もう、それだけでいいよ、僕は。部屋が狭くても、たとえ、君に蹴られて、毎晩ベッドから落ちたとしても幸福だ」
ハリーは愛おしそうに相手を見つめる。

ふたりはキスを交わして、そしてドラコの耳元に、ハリーは甘くささやく。
「――君がいるだけで幸せだ」
そう何度も、何度も、ささやき続ける。

ドラコはゆっくりと目を閉じた。
ハリーの言葉はドラコの一番深いところまで届いて、そこで何度も反芻される。


――君がいてくれれば、それだけでいい――


その告白は、ドラコをとても幸福にしていることにを、ハリーは気付いているのだろうか?

「君は本当に照れ屋で素直じゃない性格だから、愛しているなんて言えないんだよね?」
ハリーはドラコの柔らかな髪に顔をうずめて、キスを繰り返した。

「だから僕が君のぶんまで言うから。何度も言うよ。ずっと言うよ。――君を愛しているって――」


     ■END■


*甘いです。新生活が始まってしまいました。
もうベタベタなのは許して下さい。
だって新婚さんですから!