こらぼでほすと 闖入8
八戒と天蓬が出て行ったのと入れ違いに、賑やかな一団が座敷にやってきた。舞妓、芸妓、鳴り物という集団だ。
「これから、しばらくお付き合いくださいね。こちらの歌舞ですのん。」
女将が、手短に、舞妓と芸妓、楽器の説明をすると、鳴り物担当の芸妓たちが、座敷の端に正座して、ちんとんしゃんと三味線をかき鳴らす。そして、それに合わせるように舞妓が三人、踊り始める。悟空は、そういうものに興味はあまりないほうだが、それでも珍しいから、水菓子を食べる手は止まっている。本来は、食事の最中から、こういうもてなしは始まるのだが、食事命のサルのために、終ってからになったらしい。
舞妓が一曲舞い終わると、次は黒留袖の芸妓が三人、踊り始める。こちらは艶やかな流し目で、ちろりと客人に視線を合わせてくる。
「いいねぇー艶っぽくてさ。」
「しかし、あの着物で舞うっていうのは、本当なんだなあ。体力あるな。」
芸妓のほうは、重量感のある着物ではないが、舞妓の着物は、だらりと流れた帯だけでも、相当の重量がある。それに、頭には、花簪やクシがついているから、そちらの重量も過重される。それから考えたら、相当な重労働ではあるだろう。
「綺麗なもんだな? 女将。」
金蝉も、こういうものに詳しくはないが、所作や動きは着物に合ったもので美しいとは思う。
「お気に召していただけて何よりですわ。一番の舞手を呼びましたんやえ? 」
女将が、そう言うと、ひとりだけ芸妓が出て、舞い始めた。確かに、ずば抜けて綺麗な舞だ。そして、鳴り物は横笛だけなのに、雰囲気のある音色で舞とよく合っている。
しばらく、その歌舞は続いたが、外から仲居が声をかけてきた。女将が、ゆっくりと、障子を開くと、そこには、新たな舞妓が廊下に座っていた。挨拶するため、頭を下げているので、よくわからないが、顔を上げた瞬間に、悟浄が、「うわぁーっっ。」 と、声をあげる。
「失礼な叫び声ですね? 悟浄。」
「おっおまえら、何やってんだよっっ。」
「舞妓変身というのがあるんで、やってみただけですよ。捲簾、いかがです?」
天蓬は、黒の古代柄の振袖に金の帯という派手やかな衣装だ。鬘には、白い花の飾りと金色の花簪という出で立ちで、亭主ににこっと微笑む。
「・・・・化けてきやがったな? それだけ塗ると誰だかわからんぞ。」
「天蓬と八戒なのか? うわぁーすげぇーなぁ。」
悟空は、その姿に大爆笑している。本物の舞妓と比べると、年齢的と体格的に、ちょっと見劣りはするが、なかなか美しく仕上がってはいる。
「八戒、おまえ・・・」
「僕は事情もわからないうちに巻き込まれたんですよ。いきなり、着替えされられたんですからね。」
対して、悟浄の女房のほうは、紅色を基調とした花の柄で、こちらは銀色に吉祥紋が刺繍された帯をだらりと垂らしている。鬘には、紅い花飾りと、黄色の花簪だ。どちらも、顔は男性にしては柔らかいほうだから、そこそこ似合うというのが怖ろしい。
「いやぁーよう似合おてはりますえ? お綺麗どすなあ。さあさあ、お入りやす。」
女将だけでなく、舞妓や芸妓たちも、きゃあきゃあと誘いに来て騒いでいる。確かに、綺麗なのだ。三蔵と金蝉は、適当に見て見ぬフリをして、どちらも静かに晩酌している。何をやるかしれない某元帥様の所業なんて、いちいちツッコミするのも面倒だからだ。
「ちょっと、金蝉、三蔵。僕らの艶姿に感想とかないんですか? 」
「・・・・ああいうの、こっちでは、馬子にも衣装っていうんだったかな? 三蔵。」
「年寄りの冷や水でいいんじゃないのか? 」
「だぁーれが、年寄りなんですか、失礼なっっ。八戒は、まだぴちぴちの二十代です。」
「てめぇーだ、天蓬。俺は、イノブタのことは言ってねぇ。」
「俺は、どっちにもかけているぞ。」
坊主も童子様も、軽くスルーの方向だが、そうは問屋が卸さない。いそいそと、ふたりの面前に、似非舞妓たちは移動して、銚子を取り上げた。
「おひとつ、どうどすえ? 」
「旦那はん、うけておくれやす。」
と、同時に、小首傾げてニッコリ微笑んで銚子を差し出す。うげっと、坊主も童子様も固まった。気色悪いはずなのだが、似合っているから、寒いし痛い。その様子に、悟空は大ウケして、畳を転がっている。
「ぎゃはははははは・・・・最高っっ。天蓬も八戒もすげぇーっっ。」
似非京都弁も堂に入ったものだ。捲簾と悟浄も肩を震わせている。
「せっかく着飾ったんですから愛でてくださいよ、金蝉。」
「はあ? 冗談もほどほどにしろ。愛でて欲しけりゃ、亭主にやれ。」
「三蔵、どうです? ニールにもさせてみたくありませんか? 」
「ああ? あいつに、そこまでやったら化け物だぞ。うちのは、幽霊には向かねぇーだろーがっっ。」
幽霊とは、ホストクラブの隠語で、賑やかし担当のことだ。確かに、180 オーバーのニールが、舞妓姿をしたら、かなり痛いだろう。というか、当人がきっと泣いて嫌がるに違いない。
「俺もママには無理だと思うぜ、八戒。あっちのおねーさんみたいな黒の着物なら似合うと思うけどさ。それなら、刹那とキラは似合うと思う。キラは、こういう格好、たまにしてるもんな。」
小柄で童顔のキラと刹那なら、年齢的にも舞妓姿が似合うだろう。たまに、イベントの時に、キラは女装チックな格好もしているから、似合うのは確定だ。
「あーキラくんなら、絶対に可愛いでしょうねぇ。僕も、あちらの黒の着物がいいって言ったんですよ。でも、せっかくなら派手なほうがいいって、押し切られちゃって。」
「大丈夫、八戒も綺麗だっっ。天蓬も。」
「悟空は、なんて良い子なんでしょう。素直にストレートな感想をありがとうございます。そこの堅物と鬼畜坊主の教育で、どうして、こんな良い子になるんでしょうねぇ。反面教師ってやつなんですかねぇ。」
元帥様は泣き真似をしつつ、言いたい放題だ。くくくくく・・っと、捲簾と悟浄は、責められている童子様と坊主に視線を流して肩を震わせている。
「言い返せ。」
「おまえの担当だろ? 金蝉。」
二人は、無視して勝手に酒を呑んでいる。悟空は、人間ではないので、こういう場合の嘘はつかない。素直な感想だ。それがわかっているから、天蓬も八戒も、良い感想を告げられて上機嫌になっている。
「おねーはんたち、一緒に舞ってみはりませんえ? 」
「おねーはん、あてと一緒に踊っておくれやす。」
舞妓たちが、やってきて、座敷の奥へ、似非舞妓たちを誘導する。せっかくだから、簡単なものを、と、音と合わせて踊りの練習が始まった。
「坊っちゃんも、どうですえ? 」
「いいの? 」
「へぇ、あての扇子もお貸ししますえ。」
芸妓が、悟空も誘っていく。まあ、こういう遊びは、ここならではなのだろう。そして、この面子、女将も総じて、全員が人外のものだから、お客様の接待も心得たものだ。
「これから、しばらくお付き合いくださいね。こちらの歌舞ですのん。」
女将が、手短に、舞妓と芸妓、楽器の説明をすると、鳴り物担当の芸妓たちが、座敷の端に正座して、ちんとんしゃんと三味線をかき鳴らす。そして、それに合わせるように舞妓が三人、踊り始める。悟空は、そういうものに興味はあまりないほうだが、それでも珍しいから、水菓子を食べる手は止まっている。本来は、食事の最中から、こういうもてなしは始まるのだが、食事命のサルのために、終ってからになったらしい。
舞妓が一曲舞い終わると、次は黒留袖の芸妓が三人、踊り始める。こちらは艶やかな流し目で、ちろりと客人に視線を合わせてくる。
「いいねぇー艶っぽくてさ。」
「しかし、あの着物で舞うっていうのは、本当なんだなあ。体力あるな。」
芸妓のほうは、重量感のある着物ではないが、舞妓の着物は、だらりと流れた帯だけでも、相当の重量がある。それに、頭には、花簪やクシがついているから、そちらの重量も過重される。それから考えたら、相当な重労働ではあるだろう。
「綺麗なもんだな? 女将。」
金蝉も、こういうものに詳しくはないが、所作や動きは着物に合ったもので美しいとは思う。
「お気に召していただけて何よりですわ。一番の舞手を呼びましたんやえ? 」
女将が、そう言うと、ひとりだけ芸妓が出て、舞い始めた。確かに、ずば抜けて綺麗な舞だ。そして、鳴り物は横笛だけなのに、雰囲気のある音色で舞とよく合っている。
しばらく、その歌舞は続いたが、外から仲居が声をかけてきた。女将が、ゆっくりと、障子を開くと、そこには、新たな舞妓が廊下に座っていた。挨拶するため、頭を下げているので、よくわからないが、顔を上げた瞬間に、悟浄が、「うわぁーっっ。」 と、声をあげる。
「失礼な叫び声ですね? 悟浄。」
「おっおまえら、何やってんだよっっ。」
「舞妓変身というのがあるんで、やってみただけですよ。捲簾、いかがです?」
天蓬は、黒の古代柄の振袖に金の帯という派手やかな衣装だ。鬘には、白い花の飾りと金色の花簪という出で立ちで、亭主ににこっと微笑む。
「・・・・化けてきやがったな? それだけ塗ると誰だかわからんぞ。」
「天蓬と八戒なのか? うわぁーすげぇーなぁ。」
悟空は、その姿に大爆笑している。本物の舞妓と比べると、年齢的と体格的に、ちょっと見劣りはするが、なかなか美しく仕上がってはいる。
「八戒、おまえ・・・」
「僕は事情もわからないうちに巻き込まれたんですよ。いきなり、着替えされられたんですからね。」
対して、悟浄の女房のほうは、紅色を基調とした花の柄で、こちらは銀色に吉祥紋が刺繍された帯をだらりと垂らしている。鬘には、紅い花飾りと、黄色の花簪だ。どちらも、顔は男性にしては柔らかいほうだから、そこそこ似合うというのが怖ろしい。
「いやぁーよう似合おてはりますえ? お綺麗どすなあ。さあさあ、お入りやす。」
女将だけでなく、舞妓や芸妓たちも、きゃあきゃあと誘いに来て騒いでいる。確かに、綺麗なのだ。三蔵と金蝉は、適当に見て見ぬフリをして、どちらも静かに晩酌している。何をやるかしれない某元帥様の所業なんて、いちいちツッコミするのも面倒だからだ。
「ちょっと、金蝉、三蔵。僕らの艶姿に感想とかないんですか? 」
「・・・・ああいうの、こっちでは、馬子にも衣装っていうんだったかな? 三蔵。」
「年寄りの冷や水でいいんじゃないのか? 」
「だぁーれが、年寄りなんですか、失礼なっっ。八戒は、まだぴちぴちの二十代です。」
「てめぇーだ、天蓬。俺は、イノブタのことは言ってねぇ。」
「俺は、どっちにもかけているぞ。」
坊主も童子様も、軽くスルーの方向だが、そうは問屋が卸さない。いそいそと、ふたりの面前に、似非舞妓たちは移動して、銚子を取り上げた。
「おひとつ、どうどすえ? 」
「旦那はん、うけておくれやす。」
と、同時に、小首傾げてニッコリ微笑んで銚子を差し出す。うげっと、坊主も童子様も固まった。気色悪いはずなのだが、似合っているから、寒いし痛い。その様子に、悟空は大ウケして、畳を転がっている。
「ぎゃはははははは・・・・最高っっ。天蓬も八戒もすげぇーっっ。」
似非京都弁も堂に入ったものだ。捲簾と悟浄も肩を震わせている。
「せっかく着飾ったんですから愛でてくださいよ、金蝉。」
「はあ? 冗談もほどほどにしろ。愛でて欲しけりゃ、亭主にやれ。」
「三蔵、どうです? ニールにもさせてみたくありませんか? 」
「ああ? あいつに、そこまでやったら化け物だぞ。うちのは、幽霊には向かねぇーだろーがっっ。」
幽霊とは、ホストクラブの隠語で、賑やかし担当のことだ。確かに、180 オーバーのニールが、舞妓姿をしたら、かなり痛いだろう。というか、当人がきっと泣いて嫌がるに違いない。
「俺もママには無理だと思うぜ、八戒。あっちのおねーさんみたいな黒の着物なら似合うと思うけどさ。それなら、刹那とキラは似合うと思う。キラは、こういう格好、たまにしてるもんな。」
小柄で童顔のキラと刹那なら、年齢的にも舞妓姿が似合うだろう。たまに、イベントの時に、キラは女装チックな格好もしているから、似合うのは確定だ。
「あーキラくんなら、絶対に可愛いでしょうねぇ。僕も、あちらの黒の着物がいいって言ったんですよ。でも、せっかくなら派手なほうがいいって、押し切られちゃって。」
「大丈夫、八戒も綺麗だっっ。天蓬も。」
「悟空は、なんて良い子なんでしょう。素直にストレートな感想をありがとうございます。そこの堅物と鬼畜坊主の教育で、どうして、こんな良い子になるんでしょうねぇ。反面教師ってやつなんですかねぇ。」
元帥様は泣き真似をしつつ、言いたい放題だ。くくくくく・・っと、捲簾と悟浄は、責められている童子様と坊主に視線を流して肩を震わせている。
「言い返せ。」
「おまえの担当だろ? 金蝉。」
二人は、無視して勝手に酒を呑んでいる。悟空は、人間ではないので、こういう場合の嘘はつかない。素直な感想だ。それがわかっているから、天蓬も八戒も、良い感想を告げられて上機嫌になっている。
「おねーはんたち、一緒に舞ってみはりませんえ? 」
「おねーはん、あてと一緒に踊っておくれやす。」
舞妓たちが、やってきて、座敷の奥へ、似非舞妓たちを誘導する。せっかくだから、簡単なものを、と、音と合わせて踊りの練習が始まった。
「坊っちゃんも、どうですえ? 」
「いいの? 」
「へぇ、あての扇子もお貸ししますえ。」
芸妓が、悟空も誘っていく。まあ、こういう遊びは、ここならではなのだろう。そして、この面子、女将も総じて、全員が人外のものだから、お客様の接待も心得たものだ。
作品名:こらぼでほすと 闖入8 作家名:篠義