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こらぼでほすと 闖入8

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 ひとしきり、似非舞妓たちは、本物の舞妓や芸妓たちと盛り上がって踊ったり、座敷遊びを堪能した。その亭主陣と悟空も参加する。それから、真夜中過ぎにお開きになり、今度は、その舞妓と芸妓たちを引き連れる形で、祇園の一角にある辻利の店に移動する。さすがに、その格好で移動するのは無理だから、似非舞妓たちは着替えるというので、とりあえず後から追い駆けてくることになった。
「さあ、ぼっちゃん、好きなものを頼んでおくれやす。あてらも相伴しますえ?」
「さあさあ、限定メニューも用意してますで? ぼっちゃん。」
 写真つきのメニューが、悟空の前に置かれて、それを開いたら、確かに本来のメニューにはなかったスペシャルパフェなんて文字がある。とりあえず、これかな、と、悟空が注文すると飛ぶように、それが運ばれてくる。大茶盛り用の大きな茶碗に、てんこ盛りのフルーツと白玉、カステラ、ワラビ餅なんてものが載せられたもので豪華だ。
「みんなは? 」
「へぇ、あてらも。」
 もちろん、舞妓さんたちの前には、それの小振りなのが配置される。いただきまーす、と、悟空は、それらを食べているのだが、童子様と坊主は、うげぇーという顔で店の外へ逃亡した。甘党じゃないと、あれは気分が悪い代物だ。店の前の柳の木下で、ふたりしてタバコに火をつける。
「おまえは付き合って来い、金蝉。」
「無理を言うな、三蔵。そのうち、天蓬と八戒が来るだろうから、あちらに任せておけばいい。」
 とりあえず、悟浄と捲簾と店の内に居るから失礼にはならないだろう。さすがに、呑んで食べてだから、腹はくちくなっている。
「・・・・桃、おまえは確定だからな。諦めろ。」
「・・・悟空が言ったか? 」
「いや、見てりゃわかるさ。あいつには、おまえが必要だ。どうせ、人間に未練なんてないだろ。飽きたら消えてもいいが、それまでは付き合ってやれ。」
 今の悟空にとって、三蔵は親みたいなもので、できれば一緒に長いこと暮らしたいと思っているのは、童子様にだって見ただけで解る。お互い、ちゃんとした絆が繋がっているから、背後を預けられるし同じ方向を向いていられるからだ。悟空は基本的に滅びることはない。永い永い時間を生きていく。だから、なるべくなら、親しいものが入れ替わることは避けたい。人間の寿命では足りないから、そうしようと、元の保護者たちは考えた。もうそれは確定している。
「別に構わねぇーが、悟空が、こっちの生活を満足できたら召還してくれ。キラたちは、コーディネーターだが人間だ。あいつらとの付き合いは、ぎりぎりまで延ばしてやりたい。」
「それは承知している。・・・・別に慌てることじゃない。悟空が、人間界を満喫したら、一端戻って、またぞろ降りればいいさ。」
 年を取らない悟空は人間界では奇異に映る。だから、人の目に奇異に映らない範囲で滞在して、状況をリセットすればいい。その限界までは、金蝉も無理に連れ帰るつもりはない。
「・・・・うちの女房は無理だぞ? 金蝉。あれは、子猫たちのために生きてるだけだ。」
「そこは、もう少し考える。しばらくは、あの薬で、どうにかなるだろう。あの薬が切れた時が、おまえの決断の時だ。どうするか、考えておけ。」
「だから、」
「そうじゃない。おまえは、どうしたいか、ということだ。おまえ自身、あれが必要なら、俺たちも受け入れる用意がある。悟空は大歓迎だろうさ。ママのことは大好きだと言うからな。」
 悟空は嘘をつかない。だから、大好きだと言うなら、大好きだ。何年か一緒に暮らしているのだから、かなり馴染んでいる。悟空にしても、刹那のことがあるから、そう願わないだろうが、三蔵が必要だと言うなら反対はしないだろう。
 さわりと柳の枝が揺れる。そろそろ初冬の時期が来る。夜の温度は涼しいものになっていた。
「・・・帰れる場所でありたいっていうのが、あいつの願いだ。もし、ちびどもが生き延びて、さらに組織を存続させるっていうなら、そうしないと保たないだろうがな。」
「優先するは、女房の意思か? メロメロだな? おまえ。」
「便利なだけだ。他意はねぇーぜ。」
 スパーと紫煙を吐き出して坊主は微笑む。まあ、実際、気は合っているのだ。ただ、どっちにも事情があるから、それだけを理由に出来ない。そこいらの事情は金蝉も理解した。どっちも、相手より大切なものや約束があるから、互いのことだけで決められない。こちらも、スパーと紫煙を吐いた。
「金蝉童子様、三蔵様、一服しておくれやす。」
 店のほうから若い衆がやってきて、そこに床机を持ち出して席を作る。そこには、お抹茶と八橋が用意された。甘いものが苦手だと言うことだから、そういうものを準備してくれたらしい。おそらく、店内では、ものすごいものがサルの前に並んでいるのだろう。賑やかな声が聞こえている。
「おや、堅物童子と鬼畜坊主じゃありませんか。出禁ですか? 」
 通りの向うから、遅れて天蓬と八戒が現れた。女将が案内してくれているのに、この言い草だ。
「あんなもん見てられるか。天蓬、おまえ、さっさと行かないと悟空に根こそぎ食われてしまうぞ。」
「八戒、僕にも悟空と同じものを注文しといてください。それと茶蕎麦もお願いします。」
 天蓬のほうは、八戒に、そう命じると、そこに一端、留まった。そこで、タバコに火をつける。スパーと紫煙を吐くとニヤリと坊主に微笑みかける。
「僕は、三蔵の気持ちは理解しているつもりですから、あなたのためなら憎まれ役でもラスボスでも演じてあげますからね。遠慮なくおねだりしてください。」
「ああ? 」
「今のところは、詳しい説明はしませんよ。とりあえず、意思表明だけしておきます。・・・・金蝉、茶蕎麦なら付き合えるでしょ? せっかく悟空が楽しんでいるんだから、あなたも内に入ってください。」
 辻利の売りは、スィーツだけではない。茶蕎麦なんてものもある。そういうものなら甘くもないから付き合えるだろうと、元帥様は誘っている。
「この抹茶を飲んだら行く。おまえは先に行け。三蔵も連れて行くから二人前だ。」
「わかりました。」
 スイーと紫煙を吐き出すと、床机に置かれている灰皿でタバコをもみ消して、天蓬も内に入る。残った二人も、タバコを消すと、抹茶椀を手にする。すっかりと温くなった抹茶を飲んで、坊主は口元を歪める。
「おまえら、お節介だな? 」
「おまえに関してだけはな。自分たちの身内みたいなもんだから、幸せに生きて欲しいんだよ。感謝しろ。」
「けっっ、うぜぇ。」
 とんっと抹茶椀を置くと、同時に立ち上がり、店の中へ戻っていった。中では、悟空の食いっぷりに、こちらの人外関係者も驚いている。辻利の店自体は、弄っていないが、ここに居るのは全員が人外のものだ。店を借り切ってしまったらしい。何百年も生きているのばかりだから、パフェや茶蕎麦を作れるのもいるし、お茶だって、店員より上手に淹れられる。
「さんぞー、金蝉、茶蕎麦できてるぜ。おっちゃーん、俺も、これ大盛りでくれ。」
作品名:こらぼでほすと 闖入8 作家名:篠義