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座敷童子の静雄君 1

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座敷童子の静雄君 1






「はい、兄さん。お土産」

バーテン時代に服を届けに来てくれた時以来一度も会っていない弟が、突然実家に帰ってきたと思ったら、小さな小箱を一つ放って寄越した。
中を開ければ、光沢のあるビロード織の紺色布に埋没するかのように、銀で透かし細工が入っている蒼く美しい大粒石のペンダントが入っている。

「……何か、色といい形といい、ジブリアニメの【ラピュタ】でさ、女主人公の首にぶら下がっていた【飛行石】に似てねぇか?」
「そうだね。結構メルヘンな兄さんらしい例えだ」
指で鎖を摘めば、直ぐに切れちまいそうに細くて心許ない。どう見ても女物だ。

「こんなチャラチャラしたの、俺がつけると思うか?」
「装飾品ならね。でもそれ、【幸運のお守り】だから。一目見た瞬間、俺の頭に兄さんの事が思い浮かんだんだ。そしたらショップのネイティブ・アメリカンの人が、『この石は、主人に貴方の脳裏に出てきた人を選んだ。直ぐに連れて行ってあげるといい。その人、今とても不幸だから、きっとこれで幸せを掴めるネ』って。だから是非、肌身離さず身につけていて欲しい」

その店員、語尾がサイモンと似た口調って段階で、胡散臭ぇ。

「石っつーけど、ガラスだろ、この青色」
「ううん、天然サファイア」
「はあっ!! いくらだよ!?」

自分の手は、男としてもかなり大きい。
なのにそんな己の親指と人差し指で、輪っかを作った大きさとほぼ一緒なんて。一体何カラットなのか見当もつかねぇ。
弟は、自分より遥かにしっかりしていると思っていたけど、くだんねぇ霊感商法かなんかに引っかかっりやがって。

「返して来い!! クーリングオフ期間、八日もあんだから残ってるだろ? できねぇのならショップの男を連れて来い!! 俺がぶん殴ってやる!!」
「無理だよ。ハリウッドで買った奴だし」
「幽、だったら宝石なんて高いもん、俺は受け取れねぇ。将来お前が好いた女か誰かに……」
「こんな石ころ一つで兄さんが幸せになれるのなら、全然惜しくない投資だよ。それに俺は、これがまがい物だろうが何だろうが、一切構わない。だって、俺が絶対にこれを兄さんに届けなきゃって、直感が走ったからそうしたんだ。お試し気分でいいから一ヶ月、お守り代わりに肌身離さず身につけてよ。それで何の効力も感じなければ、俺も諦めるから」

無表情で淡々と其処まで言われれば、もう選択肢は無かった、
静雄はとても弟に弱い。
彼の感情がすっかり消えてしまった原因は、自分が怪力で無茶ばかりやったせいだという負い目がある限り、きっと一生勝てないだろう。

「ありがとよ。大切にする」
そうこっくり頷き、首にかけるしかできなかった。



☆★☆★☆

「あー、こういう場合ってどうすりゃいいんだ? 外していいのか? それともつけたままでいいのか?」

そして、静雄はとても生真面目な男だったから。
その日の晩、風呂に入ろうと服を脱いでいる最中に、首からぶら下げていた幽から貰ったペンダントを見て、早速こくりと小首を傾げている始末である。

「……プラチナと石なら、湯につけても大丈夫か。石鹸とかもいいのか? ちっ、わかんねぇ……」

しばし考えた末に下した決断は、やっぱり弟の言葉を優先で。
湯船に肩までつかりながら、胸元でぶらぶら揺れていた石を、壊さないように軽く指で摘みあげた。

「……一ヶ月か。長げぇな……」

正直、静雄はこういったお守りや御札の類は、一切信じていない。
効き目やご利益があるのなら、ガキの頃に怪力に目覚めた時、手当たりしだいの神社や寺に駆け込んで『俺を普通の人間に戻してくれ!!』と、少ない小遣いを全部投げ出し、賽銭箱に放り込み必死で祈った時、願いを聞き届けてくれた筈だ。


「お前、本当に綺麗な『蒼』だな」
いつも好きでかけているブルーサファイアサングラスよりちょっと薄く、でも深みがあって神秘的だ。
青は元々好きな色だし、何より自分を気遣ってくれた幽の気持ちがとても嬉しい。
ご利益うんぬんは期待するだけウザイのでスルーするとしても、弟からプレゼントされたものだから、失くさないように大切にしたい。

「よろしくな、お前」
そう呟いたその瞬間、石が急に蒼白く輝きだした。

「……え、え、……おい、おいおいおいおいおい、なんだこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
光は段々大きく、また眩さも増していき、直ぐに目を開けていられる状態ではなくなった。
しかもジェットコースターが最も高い位置まで上り詰め、まっしぐらに急降下する時のように、ガクンと嫌な重力が体にかかる。

「な……がふっ…、ごぼっ……」
何なんだ一体…と言い掛け、口を開いたら湯が入ってきた。
(俺、何風呂で溺れてんだよ!?)
喉に両手を宛がっても、全く呼吸できない。
パニックを起こして身を暴れさせても、どうする事もできなくて。
(このままじゃ、窒息死しちまう……、嫌だ、こんな場所でそれだけは絶対に……)

脳裏にあの憎い天敵……、臨也の哄笑が鳴り響き、意識が途切れるすれすれ。
文字通り、静雄の両脇に手を入れて、救いの手を差し伸べ、引き上げてくれた者がいた。

「……ゴボッ……、げぼっ……、げほげほ……」
涙を流しながら咽こみ、風呂の縁に手をつき握った瞬間、くしゃりと紙を丸めるような音と一緒にその部分が無くなって。
バランスを崩し、また滑って、再び湯の中に落ちかけた自分を、またもや柔らかい手が捕まえてくれた。

「大丈夫ですか?」
頭の上から降ってくる、優しい声にびっくりする。
慌てて涙に濡れた目を擦って振り仰げば、自分を抱えてくれているのは、胸が膨らみかけたばかりの全裸の超でっかい美少女で、その彼女のやわらかく真っ白な膝にちょこんと座っている自分に気がついた時、あまりのショックに、静雄は声を失い総毛立った。

(一体どうなっていやがんだ? ここは何処だ?! 俺はガリバーかよ!!)

平和島家の5LDKマンションの風呂は、家族用だし確かに普通の一人住まいのより大きい。
でも今自分がつかっているのは旅館のようなヒノキ風呂で、少女のような巨人が、もう後5人ぐらい来たとしても、ゆったり楽に入れそうだ。
しかも今自分は、漆黒の肩まである髪を揺らし、幽に貰った石と同じ色の瞳をした大柄な美少女にお膝抱っこされていて。
(目の高さに胸があるなんて、一体どんな拷問だよ。大体こいつ、男に裸見られて、羞恥心はねぇのか!?)

白く細い指で濡れた自分の髪を撫で回されているうちに、色が金髪に染める前の、元の黒茶に変わっている事に気がついた。
不思議に思って自分の手で触って確かめている内に、髪が纏わりつく己の指が、異様に小さい事にも気づく。

おかしすぎる。
こくりと喉が鳴った。
嫌な予感に目も泳いだ。

「か、かがみ………!!」

鏡を見せてくれと言いたかったのに、出てきた言葉は甲高い舌足らずな一言だけ。
周囲をきょろきょろ見回しても、温もりある天然のヒノキのみで、何処にも温泉旅館にあるような姿を映せる壁鏡なんて一枚もない。
「……ううう、かがみぃ……」

しつこく繰り返していると、勝手に声に泣き色が加わりやがって、畜生。
「あああああ、……これでいいですか?」
作品名:座敷童子の静雄君 1 作家名:みかる