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こらぼでほすと 闖入9

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 冗談か? 冗談なら笑っておこう、と、ニールもへらっと笑って頷く。確かに、その着物もどきのナイトガウンは手触りも良くて綺麗なものだった。隣りに立っている刹那に、ちょっと着せ掛けたら、なかなかいい感じになった。朱色に白い鳥の柄で、おそらくは女性用だろうが、ナイトガウンなら人目に晒すわけでもないから、着られるだろう。大柄の俺用だから、袖も丈も余っているが、色合いは似合いそうだ。
「可愛いな、刹那。」
「丈が長い。」
「うん、まあ、俺用のだからな・・・・おまえの背丈に合いそうなの探そうか? どうせ、青色がいいんだよな? 」
「ああ、エクシアの色がいい。だが、俺には勿体無い。」
 刹那は一週間もしないうちに、また旅に出る。次は半年後だとしたら、また体格は変化している。一度か二度しか着れないものを用意するのは意味が無い、と、黒子猫は言っている。
「これは、余裕のある作りだから、多少、おまえさんが大きくなってても着られるさ。」
「そうか。・・・じゃあ、今度はあんたが試してみろ。」
 黒子猫は、その朱色のナイトガウンを脱いで、親猫に着せ掛ける。確かに寸法は合っていて、どこも余ることもない。
「やっぱり似合いますね。」
「そうですか? ありがとうございます、天蓬さん。」
 半纏を着るほどではなくてもパジャマだけだと少し肌寒い時に、ちょうどいいアイテムだ。いいものを頂いた、と、ニールも喜んでいる。
「僕も買ったんですよ。ほら。」
 別の包みを破ると、こちらは黒に金の唐獅子と銀の蝶が舞っているという柄だ。ちょいと羽織るには都合が良さそうだ、と、天蓬も買ってきた。
「それも綺麗ですね。こっちの着物って独特で綺麗だと思います。」
「そうですね。うちにも、こういう民族衣装はあるんですよ? ニール。」
「八戒さんが店で着ているやつですね。」
「ええ、あれは満州族の衣装で、漢民族のもあります。漢民族のものは、これと近いので、いいのを見繕って送って差し上げますよ。」
「いや、もう、これで十分です。」
「せっかくだから貰っとけよ、ニール。どうせ店で着ることもあるだろうからさ。」
 店では、イベントごとに衣装を用意しているから、こういうのも着ることもある。正月に、特区の民族衣装は体験している。それを、この間、店で写真を見せられたから、捲簾が、そう言う。たぶん、この親猫、本山へ拉致されるだろうから、普段着ぐらいは着こなしてもらっておこうという腹積もりだ。
「それと、あちらに戻ったら、あなたのお父様に、あちらのお酒を送りますから届けてください。」
「ありがとうございます。トダカさんが喜びます。」
「洋酒よりは、こちらの酒に近いからいけると思うんだ。いけるなら、また送るから、そう言ってくれ。」
 こちらのお酒をトダカは準備して送ってくれたらしいので、その返礼ということで、それを送る事にした。蒸留酒も発酵酒もあるから、好みそうなところを選べば、トダカの口にも合うはずだ。
「大量には送らないでください、捲簾さん。トダカさんは、有るだけ呑んでしまうんで。」
「お試しに各種送るから、一個ずつの量は少なくなる。それならいいだろ? 」
「はい、そうしてください。」
「そういえば、うちの童子様は? 」
 そこには、居候しているはずの童子様の姿はない。境内に出るにしても、すっかり日が暮れている時刻だ。
「散歩してくるって、ふらりと出かけられました。」
 サルと坊主が出勤する前に、一度、パチンコから戻ってきたが、童子様だけが、またふらりと出かけた。坊主曰く、「タバコを買いに出ただけだ。」 と、おっしゃったが、そういうことなら時間がかかりすぎだな、と、ニールも気付いた。あれから、小一時間は経過している。タバコなら近くのコンビニまで遠征するだけだから、ものの十分もかからない。
「迷子にでもなりましたか? 」
「まさか、そんなことはねぇーだろう。あいつ、ちょろちょろしてるから、この周辺の地理ぐらいは把握してるぞ。」
「刹那、コンビニまでの道ひとっ走りしてくれるか? 」
「了解した。」
「あ、おちびちゃん、僕のタバコもお願いできますか? これなんですが。」
 迷子はないだろうが、様子だけ見に、黒子猫を走らせようと、親猫が指示を出す。それに、天蓬は懐からタバコの箱を取り出して、ついでに札を一枚渡す。
「二箱お願いします。残りはお駄賃にしていいですからね。」
「おだちん? 」
「残りのお金でお菓子でも買ってくればいいんです。お願いします。」
「わかった。行ってくる。」
 と、黒子猫は出かけたが、山門の前で件の童子様と鉢合わせした。手にはコンビニの袋を持っているから、ぶらぶらしていただけらしい。
「急ぎか? ちび。」
「あんたを探しに行く用事は終ったが、買い物が残っている。」
「ああ? 」
 言葉の足りない黒子猫は、そのまんま山門を越えていく。探されていたのか、と、思ったものの、中で事情を聞けばいいだろうと、家に入った。
「ちびと行き会わなかったか? 金蝉。」
「おう、出て行ったぞ。買い物だって言ってたが・・・俺に何か用でもあるのか? 捲簾。」
「おまえの帰りが遅いから様子を見に行ったんだ。ついでに、天蓬がタバコを買ってこいとパシらせたんだ。」
「迷子になるとでも思ったか? 」
「そりゃ引き篭もりの童子様ですからね。都会で迷ったら、さぞかし心細いだろうと心配したんですよ、主にニールが。」
 捲簾も天蓬も、そんなことは気にしない。コンビニまで黒子猫を走らせようとしたのは、ニールだが、心配したわけでもないんだけどなあ、と、苦笑する。
「ああ、すまねぇーな。あいつのボールペンは書き辛いんで、いいのを探してたんだ。」
 書類仕事をしていたのだが、どうもボールペンの書き味が悪い。いつもは筆で書いている人間には勝手が悪かったらしい。ということで、コンビニで筆ペンを買ってきたのだ。
「書道道具ならありますよ? 」
「そこまですることもないだろう。ちょっと書き込むだけだからな。」
 長々と書くなら、墨を磨ったほうがいいのだが、ちょいちょいと書き込むだけだから、そこまで手間をかけるのも面倒だったらしい。パチンコの帰り道で買おうとしたら、坊主が時間が押していると早足するので寄れなかったのだとおっしゃる。
「おまえ、仕事の手伝いしてやってんのか? 金蝉。どこまで甘やかすつもりだ。」
「暇つぶしにはちょうどいいんだ。こっちに送られてるのは、最終的に俺のとこで処理するんだから、ここでやっとくほうが楽だ。」
「ワーカーホリックなことですね? それなら、三蔵の嫁とデートでもすればいいでしょうに。」
「あいつ、本気で怒るんだ。俺がニールと出かけるのはイヤなんだとよ。」
 はあ? と、寺の女房は驚いているが、事実である。余計なことを吹き込まれたくない坊主としては、童子様と女房の外出は止めている。ということなのだが、説明すると、そういうことになって誤解の元となる。


作品名:こらぼでほすと 闖入9 作家名:篠義