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Our Song

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 文化祭前日とはいえ時間も時間なので校内に残っている生徒は少ない。明日はいよいよ当日だ。なんだかわくわくしてくる。
「そだ、一組は出し物何やんの?」
「プラネタリウム」
 栄口が口にした短い単語が廊下の空気にすっと溶けた。
「プラネタリウムってあの、暗いとこで星見るやつ?」
「うん」
 ふうん、と水谷は返事をし、飴の持ち手を遊びつつプラネタリウムのことを考えた。
「オレ小学生のとき一度見に行ったきりだなあ」
 一組のそれは一体どんなものなのだろう、と教室を覗いてみると、まだほとんどの生徒が残って懸命に準備を続けていた。中の様子も普段の状態とあまり変わらず、とてもプラネタリウムとして明日人を入れられそうにない気がした。
「こっ、これ間に合うの?」
「わかんない……」
「栄口帰っても大丈夫? 準備終わってなくない?」
 栄口の動作が、はっ、と一瞬止まり、何かを思い出してわなわなと震える
「そうだオレ、ボンド取りに美術室行けって言われてたんだった……!」
 うわぁと喚き、慌てて栄口は走り出す。三組くらいまで進んだとき、こちらを振り返って「ごめん!」と言った。
 あっけに取られ、その背中が廊下の奥で消えてしまうまで見送ると、戸口にいる水谷に気づいたのか、浮かない顔の巣山が教室から出てきた。
「水谷、七組はもう準備終わったか……?」
「そ、そうだけど」
「一組は全然だめ、ていうかこれから……」
 巣山の肩ががくんと落ちる。
「あっ、飴いる?」
「くれ」
 水谷がオレンジ味を差し出すと、巣山はフィルムを乱暴に剥ぐなりボリボリと飴を噛んだ。驚くべき食べ方だった。残った小さな棒を口から出し、はぁ、と深いところから溜息をつく。
 そんな巣山へ「頑張れ」と声をかけるのはむごい気がして、水谷は「おつかれさん」とひとこと言って一組を後にした。
 最後に残ったブドウ味を口に入れて自転車を漕ぎ出すと、さっきは気にも留めなかった疑問が水谷の頭の中へぽこぽこと湧いてきた。
 美術室へ行く用事があるのに、どうして栄口はオレへ「帰るぞ」なんて言ったんだろう。それに今日栄口と一緒に帰る約束なんてしていない。というかここずっとそんなお誘いはなかった。
 もしかしたら一組のあの混乱ぶりで栄口も少しおかしくなっていたのかもしれない。巣山もあんなふうにボリボリと飴を食べていた。
 疑問は尽きなかったが、水谷も劇という大舞台をこなしたせいで大分疲れが溜まっていて、あまり深く理由を求めたりはしなかった。
 ブドウの飴はイチゴより酸っぱい。舐めている舌がぴりぴりしてくる。
 頭の中ではいつもの曲が流れている。水谷は最近いつもそうするように歌の中の『君』を栄口に当てはめ、勝手に切なくなったりしながら家まで帰った。

作品名:Our Song 作家名:さはら