Our Song
七組の天井には風船が色別に敷き詰められ、黒板には馴染みの無い英単語が見たこともない派手な色のチョークで書かれている。グミのようなシールがたくさん貼ってある窓の外は暗い。水谷が野球部の仕事をしている間に飾り付けが終わったらしく、水玉模様の布が敷かれたいつもの素っ気無い机と椅子に陣取り、女子生徒が一人で飴を食べていた。
「おー、すげーな」
水谷が声をかけると女子は読んでいた雑誌から顔を上げた。
「風船の色分けたの水谷だったんだ」
「そうそうオレオレ」
「みんな褒めてたよ」
「えー、そういうのは本人の前でやれよなぁ」
と言いつつもまんざらじゃなかった。教室の中に残る私物も少なく、水谷はみんな帰ったのか、と聞いた。
「男子は帰ったよ。女子がちょっとだけ残って今飾り付けの買い出し行ってる」
「これ以上まだやんの?」
鞄から取り出した新しい棒付き飴を左右に振り、女子は「まだまだ」と笑い、「あとはうちらでやるから水谷は帰っても大丈夫」と付け加えてくれた。もう日も暮れて腹が空いているせいか、女子生徒の持っている飴がやたらと美味しそうに見える。
「オレその飴好き、一本くれ」
「イチゴとブドウとオレンジがあるけど、どれがいい?」
「えー、三つもあんのー、選べないなー」
「うざいなぁ、全部あげるから」
何と言われようとも貰ったもん勝ちである。あきれ顔の女子生徒が袋から飴を選び、手のひらへ三本載せてくれた。ありがとうございますだ、と大げさに感謝していると、いきなり自分の名前が呼ばれた。
「水谷、帰るぞー」
いつからそこにいたのか、七組の戸口に栄口が立っていた。慌てて水谷は自分の鞄を探し出し、女子生徒へ「じゃーな」と別れの挨拶をして教室を出た。
「栄口はイチゴとブドウとオレンジどれがいい?」
「オレは飴なんかいらないよ」
付け加えて、水谷が全部食えば、と無愛想に返された。水谷はとりあえずイチゴ味の包装をぺりぺりと剥がして頬張る。帰ると言ったわりに栄口は鞄も何も持っていなかったのが不思議だったけれど、一組は通り道だし、あとで寄って荷物を回収するのだろうと、さほど気にはならなかった。