Our Song
生徒会書記の次は一年一組の男子だった。そういえば昨日あの惨状だったプラネタリウムはどうなったのだろう、と考えていると、受付の近くに栄口がいた。
「プラネタリウムどうなった?」
そう声を掛けたら、少し疲れた様子の栄口が口を開く。
「いつもオレらが朝練するくらいの時間にみんな学校へ来て、なんとか完成……」
ほら、と指をさした先、教室の窓という窓が黒く目張りされていた。
「これ中どうなってんの?」
「暗いとこで光るやつで星座が作ってある」
「見れる?」
「あと三分で入れ替え」
見てみようかな、と水谷は興味を持ったが、自分はプラネタリウムを鑑賞するためにここへ赴いたのではないことを思い出す。
「栄口、一組でテニス部の男子いる?」
「あー、多分劇で体育館行ったんじゃないかな」
「どれくらいで戻るかな?」
「あと二、三十分だと思う」
次の指示メールはまだ来ていないし、ポップコーン当番にも時間がある。どうしようかと水谷が考えあぐねていると、逆に栄口から質問された。
「あいつに何か用あんの?」
「いや、写メ撮らせてもらいたいだけなんだけど」
栄口が不思議そうな顔をしたから、水谷は七組のあこぎな商売について説明した。へえ、あいつがなぁと言い、少し意外そうな反応を見せる。
「つか結構みんな好きな奴いるんだな、オレにはそれがびっくり」
普段は何も変わりない生徒たちでも、実は好いたり好かれたりしているのが水谷にとって不思議だった。
「そりゃいるんじゃないの」
開け放たれたドアからプラネタリウムを見終わった人たちがぞろぞろと出てくる。こんなことを栄口へ問わないほうがいいとわかっているのに、なぜか喉から言葉が出て止まらない。
「栄口にもいる?」
「何が」
「好きな子」
「いない」
即答だった。水谷のほうも向かず、ただ前にある空気を眺め、言い切る。水谷は二人の間に存在している仕切りを再認識した。悔しかった。あの曲を何度も何度も聴いているのなら、好きな子がいないわけないのに。