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雪のピアス

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何に対して?何が?よりも…言葉よりも先に身体が動いて今までよりも抱きしめていた腕に力が入った。
いつも言わない何時もやらない行動を先刻から繰り返して…
それが隅にある『不安』を露にしていく。
いつかは覚悟していたと思ってたのにも関わらず…
目の前にするのは…こんなにも、切なくなるもんなんだな…なんて、言葉では言えるのに。

「…お前が礼言うなんて…気持ちわりぃな」
「はっ!酷ぇ……」

その声が少し震えてたなんて無視して
抱きしめたままでいると
意気なり、はっ!と気が付いたように思いっきり頭をあげて、きょろきょろと何かを探し始めた。
危うく顎に当たるところだった……。

「なっ、どうした?」
「今。何時だ!!」

意気なりそんな事を聞かれて近くにあった携帯を見ればお昼近く。
それを告げると腕を振りほどいて立ち上がって間に合うかな?何て。慌て始める。
一体何なんだ?
とりあえず、落ち着かせて話を聞けば…
今日の午後…兄貴と豪炎寺が逢う約束をしていたらしい。
それで午前中は体を貸してもらったとか…。

「やべぇー、早くいかねーと!!」
「ぁー……アツヤ…なんかすっげー嫌だ。今、すっげぇ離したくねーんだけど…」
「は?ちょっ…遅れるって、離せよ」
「何て言うかさー…兄貴の方が逢いに行くのは分かってるんだけどな…なんか、ヤダ」

「……………………ばぁーか…」

小さく呟くように聞こえた声に反応して顔をあげれば…
少しだけほんの少し頬が紅いのに気がついた
その表情が…正直な所好きな訳で…
また顔を近付ければ、掌を顔に突き付けられて目を隠すようにして止められた。
その代わりに?頬に近づいて来て小さくリップ音がした……
次の瞬間に掌が外されて視界は晴れて見えたのは部屋の扉を開けて去ろうとしている背中。

「は…ぉいっ!アツっ」
「じゃあーな!!!」

掴もうとした腕を擦り抜けて扉が閉まってバタバタと階段を駆け降りる音がして…
少し遠くでガチャリと玄関の閉まる音が聞こえた。
行き場を失った手は目的を失って体の横に堕ちた。
それと同時に溜息が零れて体の力が抜けてクッションの上へと座り込む…それは卑怯なんじゃないか?と思いながら。
ふと手元に置き去りにされた携帯が光って音楽が流れた…
どうやらメールな様で誰だと思いながら開けば…今さっきこの部屋から出ていった人物。
メールを開いた中には短く一言

『また今度来るからな!!』

たったそれだけでも今の俺の表情を変えるには充分で…思わず緩くなった口元を押さえた。













「その“今度”ってのが…コレは酷ぇだろ?」

握りしめた掌を開いてピアスに目をやった。
普通だったら泣くとか悲しむとか…そんなのがあるんだろうけれど…
そんな気にはならなかった。
泣いたって悲しくなったって、どうしようもなくて…言うなれば不可抗力?に近いかもしれない。
何しろ…消えたよりは元の時間に戻った。
本来の形になった…それだけだと思う…
なのに、そうは思ってはいるのに…

(……やっぱり……辛ぇー…な…)

頭よりも体の方が悲しいや切ない、泣きそう…そんな感情が溢れ出てくる…。
初めから…好きになった時から…分かってた筈なのにな。
『覚悟はしてた』なんて…
その時にならないと実感できないもので。
それがどんなに辛いかなんてのも…
時が来ないと分からないんだ。

不意に流れた雫は


掌に堕ちてピアスを濡らして…
クッションを濡らして…
頬を濡らして…。

とめどなく溢れて止まらない。
止めたいのに止められない。


(こんなの見られたら…笑うよな)


きっと、あいつは…
こんな感情も不安も悲しさも
あの時に感じてたんだろうな…だから
俺も不安で仕方なかった。
多分この先、不安が悲しみになって
俺の中に残ると思う。
もう、名を呼ぶ声も表情も喧嘩する事も…
無いと思うと…
やっぱり……痛いな。
それでも、もう…悲しくなるのは辞めだ。
これだけ、後…少しだけな。

笑われるのは御免だ。

掌のピアスについた雫を拭いて
また、袋へと戻す。
俺にくれたのは嬉しいけど…やっぱり
お前が付けた方が似合うんだよな。
大事にはするけど…。










そういえば…
あの時のキス…初めてだった……。










fin...
作品名:雪のピアス 作家名:霞蓮城