Cherry Blossom
桜並木を僕は歩いていた。
少し満開を過ぎた木々からはピンクの花びらが、ヒラヒラと舞っている。
地面を覆うように落ちた花びらが、まるで淡いカーペットのようだ。
見上げれば暖かな日差しを受けて花は咲き、風に揺れてそれが雪のように広がり、世界は薄桃色に染まっていた。
通り過ぎる人びとはみんな笑顔でそれらを見上げつつ、桜の花の美しさに感嘆し、楽しげに歩いている。
俯いたままそんな世界には目もくれず、僕は黙々と歩いていた。
―――世界が終わってしまう。
悲壮な面持ちで前へ前へと進み続ける。
地面を見詰めたまま、わき目も振らずに、ただ、俯いたまま歩いていた。
頑なに足元を見詰めていないと不安だった。
ひとつ躓くと、泥沼に陥りそうだったからだ。
ひたすら前だけを見て僕は歩いた。
―――どうして、こんなことになったのか……
唇をかみ締める。
彼の人生はこれからだったはずだ。
戦いが終わり戒めを解かれ、やっと自由になったと思ったのに、どうしてこうなったんだ?
絶望的に首を振る。
「これから何をしよう?」と、彼は自分の未来に思いを馳せ、少々不安げに、それでも楽しそうに目を細めていたのに、──どうして?
目の前をはらはらと桜が舞い落ちてくる。
花びらは淡い薄桃色で、世界は暖かな光に満ちて輝いていた。
けれど、その中で僕だけがこの美しい世界から取り残されて、息が詰まるような思いでいっぱいになり、胸がつぶれそうになっていた。
作品名:Cherry Blossom 作家名:sabure