Cherry Blossom
満開の桜の下で撮ったフォトスタンドを手に持ち、僕は微笑む。
ずっとむかしのことなのに、今でもはっきりと覚えている。
舞い散る花びら、世界が霞みがかかるようにきれいな薄桃色の世界だった。
君のいる病院へ向う僕の心は倒れそうなほど息が詰まり、渦巻く思いでいっぱいだったけれど、桜はきれいで見事に咲き誇っていたあの日。
僕は忘れない。
君はちゃんと約束を守ってくれた。
翌年の桜の下で僕たちは笑って過ごすことができた。
来年も、その次の年も、その翌年も、ずっとずっとそれは続いて、今もそれは続いているんだ。
最近、目が薄くなった君は、杖の代わりに僕の手を握る。
互いに曲がった腰で手を取り合い僕たちは歩く。
今年もまた満開の桜の下を歩く。
これからも、ずっといっしょに歩いていく―――
■END■
◇桜はただの花だけど、やはり特別だと思うのです。
作品名:Cherry Blossom 作家名:sabure