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[アクさく] 空の下、星の下

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 こうして特に身のない話に花を咲かせているのが心地良かった。傘は一本しかないのだし、少しくらい濡れたって仕方ないじゃないか。手を繋いているお陰で、自然と歩調も合う。そして、自分の片手は間違いなく男の人の手に繋がれているのに、もう片方は豚足の入った袋なんか提げているのだ。こんなまぬけなことがあってもいいのか。佐隈は今一度自分の置かれている妙な状況を振り返っておかしくなる。この豚足は特別美味しく煮つけてから、小さなうちの悪魔にに食べさせてやりたいと思った。しばらくふざけていると事務所が見えてくる。

「さくまさんからは何かないの、内緒話」
 だしぬけに芥辺から話をふられる。何を話そうか、と佐隈がしばらく唸っている間に事務所の階段に到着し、内緒話は時間切れとなってしまった。
「じゃあ次に内緒話が出来るまで考えておいて」
次って、と尋ねると、芥辺は佐隈の左手を離す。
「また雨が降ったら迎えに行く。そうだな、次はさくまさんが駅に着く前に」
 佐隈は池袋の改札口を出た先で、群衆に一人だけ見慣れた姿がじっと自分を待っているところを想像してみた。次に傘を借りるなら、どんな話をしよう。なぜかいつでも傘一本しか持ってこない世話焼きな手は、そのいつか来る日も暖かいに違いない。芥辺の手のぬくみを知らない昨日までの自分とは違うのだ。それは期待でなくて確信だったし、ただの期待で片付けられるものでもなくなってしまったが、どんな空の下でも、言わば傘の下でさえ生まれる感情だった。