レイン・ペイン・レイン
まだ。まだ駄目だ。
彼の俺へ向ける感情が恋愛感情だと確信が持てるまでは動けない。
本当は今すぐに抱き締めて連れ去ってそのままベットに雪崩れ込みたい。
見上げてくる彼の瞳に写る自分は相変わらず人を喰った笑みを浮かべている。
もう少し誠実な表情を練習しておこう。いや練習した時点で誠実ではないのかもしれないけれど。
「偶然がこうも重なると、運命みたいだねっていってるの」
「…、」
「あはは、流石にちょっとクサかったかなあ」
今日はこれくらいにしようと、身体を離そうとしたその時だった。
「…偶然じゃなかったら、どうするんですか」
「え、?」
視線を下げれば、俺から逃げるように俯いた彼。
短い前髪で隠しきれない彼の表情を逃すまいと見つめる。
「いつもの日課でダラーズの掲示板をチェックしていて、そこに臨也さんと静雄さんの喧嘩の目撃情報が載ってて、臨也さんが傘を折られたって書きこまれていたのを僕が読んだって言ったらどうします?」
「、 」
き、と見上げてきた彼の真っ直ぐな瞳に何故かたじろいだ。
「今日は出掛ける用事なんて本当はなかったのに、午後から雨が降るって知ってたのに、態と傘も持たずに僕がここに来たって言ったら、」
ふと言葉を切った彼の瞳が揺らぐ。
「貴方は、どうするんですか、」
「…帝人く、」
「嘘ですよ」
揺らいだ瞳が伏せられる。
こっち見ろよ、と咄嗟に思った。
「嘘ですから、そんな顔しないで下さい」
なんだそれ。
なんだよそれ。
「ダラーズの掲示板をチェックしていたのは本当ですけ、ど!?」
衝動のままに小さな身体を抱きこんだ。
「………嘘だよね?」
離れようともがく彼を、抱き締める力を容赦なく強めて力でねじ伏せる。
「な、にが、ちょっ くる、し !」
「嘘って方が、嘘だろ?」
ひくり、と震えて抵抗が止んだので、力を緩めてやる。
彼の腰の後ろで指を組んで閉じ込めたまま、低い位置から更に俯いて顔を隠す帝人くんの表情がどうしてもどうしても見たくて、脇から覗き込んだ。
「…っ、どっちが本当でどっちが嘘でも貴方には関係、「あるよ」
首まで赤くなった顔を反対へ背けた彼がいとおしい。
ああ馬鹿だなあ。
そうやって俺に、俺が好きなんだと分からせてしまうなんて。
馬鹿だなあ。
「関係あるよ」
ちゅ、と態と音を立てて赤い耳にキスを落とす。
ひっと引き攣れた声が細い喉からこぼれた。
囲い込んだ腕で腰を抱き寄せても、彼からの抵抗はない。
ああ、本当に馬鹿だなあ。
「もし君が最初に言った方が本当なら理由ができる」
「り、ゆう?」
そろりとこちらを振り返った彼との距離に鼓動が跳ねる。
「これから帝人くんを俺の部屋に攫ってめちゃくちゃにして帝人くんの全部を俺のものにしてもいいってゆう、理由」
更に赤くなった彼に堪らず口付けた。
ああ、本当、馬鹿だ。
俺に捕まったら一生離してもらえないなんて、そんな簡単なことが分からない彼は。
彼に捕まったら一生、彼から離れられなくなる事が分かっていて尚も彼を求めた俺も。
レイン・ペイン・レイン
(甘い痛みを訴える心の名前は考えないことにして。
今は腕の中の君をただ考えよう)
作品名:レイン・ペイン・レイン 作家名:ホップ