レイン・ペイン・レイン
「うん、ごめんね。らしいって言われたの初めてでさあ」
帝人くんは俺のこと、ちゃんと分かってくれてるんだと思ったら嬉しくてね、と耳元で囁いてやれば、やっと距離が近いことに気付いたのか、近いです、と言いながらも離れる様子もなく俯いた。
最後の距離を詰めて、とん、と彼の肩に俺の肩を触れさせれば、ひくり、と彼の身体が緊張したのが伝わってくる。
それでも彼が何も言わないから、俺はどうしたものかと逡巡する。
好かれているのは知ってる。
けれどそれは憧憬が多分に含まれていて、俺と同じような恋愛感情ではないのだろうと予想をつけている。
性欲を伴う恋愛感情は、まだ幼い彼に理解を強いる方が酷なのかもしれない。
彼のような年頃は、恋愛感情と性欲が混ざり合って区別がついていなかったり、もしくは逆に全く別物として捕らえがちだからだ。
しかも俺を相手に恋をしろという方が無理だろう。
分かっている。
自分が非道で人非人と呼ばれる部類で最低であるということくらい。
そして俺には彼を抱きたいという性的欲求が確かにある。
それとなく彼にアプローチしながら、そうゆう生々しい感情は隠しているけれども。
「今日は午後から雨って言ってたけど、帝人くん天気予報見なかったんだ?」
「…、すぐに帰るつもりだったんですけど、時間がかかっちゃって」
ふうん、と返しながら、彼が手ぶらである事に疑問を感じた。
けれどまあ掘り下げることでもないだろう。
「君って慎重に見えて時々そうゆう爪の甘いところ、あるよね」
そんな所は結構すきだけれどね、と続ければ、深く俯いてしまって表情が見えなくなった。
こうやって。
彼に、好きだよと口にすることを増やした。
騙されてしまえば良いのに。
俺に騙されて口車にのって、俺のことを好きだって勘違いすればいいのに。
そうしたらその勘違いが本当になるまで沢山沢山愛して甘やかしてどろどろにして俺だけのものにするのに。
自分からは誤魔化した好きしか言えない癖に、彼に早く好きと言えと思うなんて。酷い男だなあ俺、知ってるけど。と思ってる間に、彼は何かを決意したようだった。だった、けれど。
それでも黙して前を見つめる彼に、まだまだかなあと思いながら、気長にいこうと思って何時もの様に口説きにかかった。
「それにしても凄い偶然だよねえ」
俺の左に立つ帝人くんを抱え込むように、態と左手を軒下から伸ばして雨を掌で受ける。
「…、です ね」
不自然な体勢に戸惑う気配が伝わってくる。
俺の腕にぶつからないように彼が俺に身を寄せる、自分が仕組んだ事なのに堪らなく抱き締めたい衝動にかられた。
それを誤魔化すように早口で話を続ける。
「いくら池袋という限られた区域とはいえ広い場所には変わりない。そんな中、偶然にも仕事帰りで偶然にも傘を持たず、っていうかシズちゃんに折られたんだけど…まあともかく偶然にも傘をなくしてしまった俺が偶然ここで雨宿りをしていて、そんな所に偶然にも知り合いがこれまた偶然にも傘を持たず偶然にも俺が雨宿りしていた軒下に偶然駆け込んできた」
「……何が、言いたいんですか」
俺の胸に半分身体を預けるような体勢で見上げてくる彼に口付けたい衝動が湧き上がる。
作品名:レイン・ペイン・レイン 作家名:ホップ