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君が涙を流せる場所

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「俺は情報屋で、人間観察が趣味なんだ。信じてよ」
「とても信じれるような理由じゃないんですけど……そうです、ね。泣いても、いいんですよね」
スッと一筋の涙が帝人君の頬を伝った。それを皮切りにどんどん溢れ出した涙は頬を濡らしていき、彼は時折苦しそうに嗚咽を漏らした。
一端帝人君の側を離れ、洗面所からタオルを取ってくる。戻ってから、そっとタオルを差し出すと、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔を一度上げて、ありがとうございますと言ってから受け取ったタオルに顔を埋めた。そして再び帝人君はなるべく声を押し殺し、苦しそうに泣く。
ギュッと、胸を掴まれたような苦しさを感じた。
(なんだ……俺、結構帝人君のこと好きなんだな。観察とか、そういうの関係なく。泣いてたら慰めてあげようって思う程度には。絆されたのかな)
そっと手を伸ばし、帝人の頭の形に添うように髪を撫でてやる。少なくとも、今帝人君は一人じゃないと教え込むように。俺は彼が泣きやむまで柔らかな髪を、小さな頭を撫で続けた。


それからというもの、帝人君は好きな人ができるたびに俺に相談するようになった。案外彼は惚れっぽいらしく、ささいなことをきっかけに彼の中の恋愛メーターは振り切れ、恋に落ちてしまうらしい。しかも何故か、その対象の殆どが男だった。
一度、「君は普通とは違う、非日常的な出来事を求める為に同性を好きになっているんじゃない?」と聞いてみた。帝人君は少し考えてから苦笑して、「そうかもしれないですね……でも、そうだとしても。その人が好きだっていう気持ちに、偽りはないんですよ」そう言って、その時好きだった男を思い浮かべたのか、それはそれは嬉しそうに笑った。
帝人君とはそれからいろいろあった。俺が画策した騒動をきっかけにして、どんどん彼は変貌を遂げ、最後には俺を憎んだりもしたが……まぁ、とにかくいろいろあって、俺と帝人君の関係は付かず離れず、『イイ友人』という関係を今日まで続けて来れた。この十年の間。
先輩。後輩。先生。バイト先の同僚。就職先の同期。取引先の会社員。美容師。駅前のカフェの店員……などなど彼の恋愛は定期的に繰り返され、その全ての恋は玉砕した。
その度に、帝人君は俺の元を訪ね、泣いて帰る。最初の頃は申し訳なさそうにやってきて、俺が初めての時のように優しく語りかけると静かに涙を流し始めていたのに、最近では遠慮なく思い全てを発散するように声をあげて泣く。とは言っても、子供のようにわめく訳ではなく、声を押し殺さなくなったくらいの変化だったが。


「ありがとうございました」
回想から俺の思考が戻ってくる頃には、彼も気が済んだのか目を赤くしながら俺に笑いかけた。
「もういいのかい?」
「はい。スッキリしました」
そう言って、グッと身体をほぐす様に腕を伸ばす帝人君に、ここを訪れた時のような陰鬱とした雰囲気はない。
気が晴れたならよかったと思うと同時に、これで帝人君は次の恋へと心を置きなく向かっていくのだろうか、という考えが頭をよぎった。そして再び胸がズキッと痛みを感じた。
「前から聞きたかったんだけどさ」
「はい?」
「何で俺なわけ」
「何でって……前にもそれ言いませんでしたか」
「そうだけど。今なら正臣君とも腹割って話せるだろうし、交友関係もの頃とは格段に広がってるんだから、君の知人の中で人生経験豊富な人間は俺だけじゃないだろ」
「それもそうですね」
「だったらどうして?」
俺の問いを受けて、初めてそんなこと考えた、とでも言うように帝人君はうーんと唸って考え始める。暫くしてから、彼は小さく呟いた。
「臨也さんだから、でしょうか」
「何それ」
「正臣に相談するのは、何だか恥ずかしいんです。きっと笑って聞いてくれるだろうけど、失恋して、こんな風にみっともなく泣く姿を正臣には見られたくない。親友だからこそ、対等でありたいんです」
そこまで語って、帝人君は俺の顔を見つめ、話を続ける。
「他の人でも大丈夫でしょうけど……臨也さんって、僕にとっての大人の象徴なんですよね。僕が高校生の時からいろんな世界を知っていて、僕がこうやって初めて泣いた時も慰めてくれたし。多分、僕って臨也さんには何も隠せないんですよ。必死に隠そうとしても、言葉巧みに聞き出されてしまいそうで……隠してるのが、我慢してるのがばかばかしく思えるんです。貴方といると」
青い瞳が細められ、何処かで見たような笑顔で、彼は告げる。


「きっと、臨也さんの前だから僕は思う存分泣けるんです」


ドクンッ、と大きく心臓が鼓動した。
改めて言うと恥ずかしい、なんて笑う帝人の姿にどんどん鼓動は激しさを増していく。
(え?あれ?なんだこれ。なんか凄く恥ずかしいっていうか……胸が苦しい?ドキドキしてる?何で)
「臨也さん?」
理解不能な自分の身体に戸惑っている俺に気付いた帝人君が、顔を覗き込んでいる。さっきよりも近くなった顔に、再び心臓は鼓動を高鳴らせる。
(え、冗談だろ……この反応って)
今まで彼が泣いていると胸が痛んだり、落ち込んでいたのが浮上して笑顔を見せてくれたら心が温かくなって、嬉しそうに微笑んでいると自分まで笑顔になってしまったのは。つまりそういうことなのか。

「嘘だろ……」
到達した答えに、臨也は頭を抱える。十年。決して短いとは言えないその時間、ゆっくりと積み重なってきた帝人への感情は、さっきの殺し文句とも言える台詞で一気に爆発してしまったらしい。
つまり、俺は彼に落されてしまった。
「あの、どうかしましたか?」
いまだ心配そうにこちらを見てくる彼と視線を合わせる。
気付いたからにはこのままではいられない。申し訳ないが今後の相談相手は辞退することにしよう。


「ねぇ、次は俺を好きになってみない?」


彼のように真っ直ぐに気持ちを伝えてみる。俺の言葉に驚いた彼の瞳が大きく見開かれるのがあまりにも予想道理過ぎて、思わず笑ってしまいそうだった。



これからどうするか。
とりあえず、もう一度コーヒーを飲んでから、ゆっくりと時間を掛けて、彼の答えを聞くことにしよう。

作品名:君が涙を流せる場所 作家名:セイカ