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永遠に失われしもの 第16章

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 日没を過ぎ夕闇の中で、エトナ山の溶岩が
 橙色に光始める。

 広間ではセバスチャンが、
 モーツアルトのミサ曲を奏でている。

 葬儀屋はシエルの横たわる寝椅子近くの、
 一人掛け様椅子にちょこんと座り、
 ウィルは中窓際のスツールに、
 姿勢よく座っている。


 ミサ・ブレヴィス ト長調 作品49・・

 四声のヴァイオリンとヴィオラとバスの
 ための曲であったはずだ、
 とウィルは思い出していた。

 ダブルストップといわれる重音奏法を駆使しても、できるはずの無い四声を、
 いとも巧みに器用にヴァイオリン一台で、
 音域こそ狭いが、それでも見事に、
 目の前の漆黒の悪魔は再現していた。


 ・・だから何だというのだ・・


 いくら悪魔にしかできぬ奏法ができても、
 夢喰らいの悪魔の精神攻撃を、
 完全には防げないとは・・
 なんと脆弱な存在なことか!

 いやむしろ、人間の様に、
 道徳観や愛などに制限されず、
 享楽のみを追及する悪魔の方が
 返ってその手の攻撃には、
 弱いのかもしれない・・


 とウィルが考えている間に曲は進み、
 サンクトゥスに入った。
 再現部のホザンナは、ウィルのリクエスト
 通りの六音音階で出来ている。
 
 ・・サンクトゥス・・聖なるかな
 ・・ホザンナ・・神を褒め称えよ


 つくづく嫌味な選曲だと、
 ウィルは舌打ちした。

 が、六音音階自体、聖歌など宗教性から、
 断ち切れないものなので、
 ただ自分の好みに合わせている、
 のかもしれないと考えている傍から、
 次の曲の演奏が始まった。


 奏でられたヴァイオリンのカデンツァは、
 同じモーツァルトの『音楽の冗談』の、
 ものだった。