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永遠に失われしもの 第16章

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「イヤ~~ン・・
 蕩ける~~ッ!

 とろけてとろけて・・
 身体の芯が熱く火照って・・

 もう我を失いそう~~・・」


 
 グレルは顔を赤らめ、
 今にも涎をだらだらと流しそうなほど、
 口元をだらしなく弛緩させながら、
 恍惚の表情を浮かべている。



「アルケルメス酒がきつかったですか?」



 デザートワインを、グレルに注ぎながら、
 セバスチャンが尋ねる。
 葬儀屋は嬉々として銀の小さなスプーンで
 今にも崩れ落ちそうな、ズッパイングレーゼを口元に運んだ。



「もう最高~~~!!

 野苺とフォアグラのパスタも、
 芳醇で濃厚なフォアグラと、
 瑞々しいイチゴが絶妙なマッチで、
 まさに絶品だったけど、

 このズッパイングレーゼ!!

 この赤いリキュールまみれのスポンジと、
 奥ゆかしい甘さのアングレーズソースが、
 相互にからみあってるのって、

 アタシとセバスちゃんが、
 情を交わしてるみたいじゃナイ??

 二人の愛液で、ほらこんなにずぶずぶに」



 グレルが酒に頬を上気させてそう言うと、
 葬儀屋が喉に詰まらせ、むせて、
 ナプキンで口を拭いている。



「よくそんな生々しい事を考えながら、
 御食事できますね--

 確かにズッパイングレーゼは、
 その名の由来が、
 『ひたひたに浸した薄切れのパン』
 から来ていますが--」



 セバスチャンは替えのナプキンを
 葬儀屋に手渡しながら答えた。



「ああ、ゴメンなさい・・
 この上に乗っかってるメレンゲは、
 銀色の髪のアナタよ・・
 ほらどこか捕らえどころがなくて・・

 この焦げ目は、嫉妬の炎に焼かれたのネ。

 このドルチェは、アタシたちの、
 ラブトライアングルッ!

 三人で液まみれ・・」



 再び葬儀屋がむせている。



「セバスちゃん、流石だわ・・
 ドルチェにまでアタシたちの関係を
 暗喩させるナンテ・・」


「私のぼっちゃんは、その解釈だと何処へ?
 私がぼっちゃんを、
 含めないわけはないでしょう?--」



 主人の席に座らせられたシエルの横に立つ
 セバスチャンは、主の手前、
 できるだけ胸の痛みを抑えながら、
 静かに尋ねる。



「そのガキは・・皿・・かしら。
 冷たくて甘みもない食器で十分よ」


「なるほど--
 確かに我が主は冷淡で冷酷ですが、

 以前の私にとっては、
 唯一至高のドルチェでしたよ--
 格別に甘美な・・
 今もその香りだけは楽しめますが」


 セバスチャンは椅子から、
 シエルを抱き寄せるが、
 シエルの頭が自分の胸を圧迫しないよう、
 腕から肩にその重みを載せて、
 注意深く広間に運ぼうとし、
 グレルに言った。


「お済になったら、広間にお越しください。
 サンカリストの話を御伺いしたいので」