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永遠に失われしもの 第16章

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 中庭から広間に運ばれるセバスチャンは
 文字通り傷だらけで、シャツのどことして、
 白い部分は残らず鮮血色に染まっている。

 そんな漆黒の執事の様子に、
 むしろグレルは興奮していた。

 意識がないわけではないが、
 手足を動かすのさえ、辛そうな彼を見て、
 グレルは同時に心底驚いていた。



「セバスちゃんでも、こんなに痛手を、
 受けることもあるんダ~・・・」



 無論、死神によるカールの魂の回収を待たなくて良かったならば、
 そのような深手を負う事はなかったのだが
 今は弁明や死神への皮肉をいう余裕すら、
 漆黒の執事には、残っていない。

 セバスチャンが使っているであろう、
 使用人室に葬儀屋が肩を貸し連れて行き、

 グレルが、ぼろぼろに切り裂かれた黒い燕尾服とその下のベストを脱がせても、
 為すがままの彼に、脱がせた当の本人さえ
 その無抵抗ぶりに驚いている。


 一方セバスチャンは、自分に何かの異変が
 起きていることに気づき始めていた。

 指一本動かすことさえ厭う程の虚脱感と、
 体内を蝕む違和感に苦しめらていた。



「このシャツは、
 逆にそのままの方がイイと思うの・・」



 自分の好きな赤に染まったシャツを、
 恍惚の表情で撫で、ボトムに手をかけようとするグレルの手首をひねり掴んで、
 逆手に回し締め上げつつ、背後から
 セバスチャンが途切れ途切れに言う。
 
 

「ここから先は--結構ですから、
 ぼっちゃんを見ていて下さい。

 すぐ行きますから」


「あ~~イイわ~無理やり感がたまらナイ。
 そのままバックから思いっきり・・」



 グレルの手を捻りながら、
 セバスチャンが微かにかすれた声でいう。



「今は容赦してあげられる程、
 余裕がありませんよ」


「続けてセバスちゃん。

 ・・そのままアナタの欲情に
 たぎった熱いモノをアタシにぶつけて。
 吐き出して」


「では、少し黙っててください」



 さらに腕を締め上げられ、
 グレルが苦痛の喘ぎ声を上げる。
 背後でするっとセバスチャンの下が脱げる音がして、グレルは期待に瞼を閉じた。


 不意に腕を解放され、血流が指先まで戻ると、セバスチャンの甘やかな声が囁かれる。



「もう、いいですよ」


「!!って何もしてないじゃないッ!」



 グレルが振り返ると、セバスチャンは
 とうにグレルの背後を離れており、
 クローゼットにいた。

 執事の制服のスラックスは、既に履き替えられて、今はシャツを着替えるために、
 彫刻のように完璧なラインを描く、
 その裸の背を向けていた。

 すかさずグレルは忍び寄り、浮き出た肩甲骨を撫でる。



「翼が生えてても不思議じゃない位・・
 綺麗な背中・・
 ア~でも白いのじゃないヤツね・・
 黒い・・漆黒の。
 
 綺麗な背中の男ってスキよ・・」


「お褒め頂き光栄ですが、邪魔です」



 グレルに構わず白シャツに腕を通し、
 着替えるセバスチャン。



「ケチ~~~何よ、触るくらいいいじゃない
 減るもんじゃなし・・」



 シャツのボタンを締め、少しの間胸を押さえて一時苦悶の表情を浮かべてから、
 グレルに振り返り、
 セバスチャンは、力なく微笑した。



「それでも私の生の背中を見たのは、
 我が主と、貴方だけですよ--」


「ア~なんて初心(うぶ)なの~・・
 そういう所が、またたまらナイのよねぇ。

 イイワ・・性の全てを、
 このおネェさんが、教えてあ・げ・る」


 セバスチャンに投げキスを贈るグレル。


「貴方から習うことなど、ありませんよ。
 ディナーの用意をするので、私はこれで。

 ああ--グレルさん、
 今度は私のクローゼット、
 荒らさないでくださいね。

 首へし折りますよ」



 セバスチャンは胸に手をそえて、
 礼をして自室を出た。