こらぼでほすと 闖入11
丸ごと三日間行方をくらましていた上司様夫夫は、最終日の午後に寺に帰って来た。すでに、荷物は送ったから手荷物だけの軽装だ。
「今夜、店で歓送会をしてくれるそうだ。」
「ああ、こっちにも連絡が来た。なあ、ニール、三蔵と一緒にもてなしてくれるか? 」
「ご指名なら喜んで。」
寺の夫婦は、あまり一緒に接客することはない。年に一度だけ、そういう組み合わせもあるが、それだって三蔵はウーロン茶係で、ニールが接客だ。だから、揃って客の席について接客したことは無い。
「でもさ、さんぞー酔わせるつもりなら、ママは避難させるからな? 捲簾。」
「なんでだよ? 寺でいちゃこらしてんだから、ニールだって慣れたもんじゃねぇーのか? 悟空。」
無自覚いちゃこらと、本格的口説きモードでは、まったく違う。いやいや、と、ニールが手を横に振る。
「怖いですよ、この人の口説き。」
本気のいい声で、本気の口説きなんて、ものすごーく背筋が寒くなる。何度か、ニールだってやられているが、気楽に流せるものではない。鷹や虎の口説きは、からかっているから流せるようになってきたが、どうも亭主のは本気で流せないのだ。
「誰が、おまえなんか口説くか。」
そして、坊主は酔っ払っているから記憶にない。肩を抱かれて耳元に囁かれるなんてことになると、ニールは泣きそうになる。
「いや、わかってるんだけど・・・・なあ? 悟空。」
「うん、慣れるもんじゃないよな? ママ。」
基本ノンケの男は、男から口説かれるのは寒いし痛い。それなのに、抵抗できないので、俺? 趣旨変え? と、自問してしまう強烈な代物だ。悟空にはやらないので、当事者になったことはないが、やられているホストたちが顔を引き攣らせるのは知っているから、ニールに同意して、うんうんと頷く。
「・・・おまえら・・・普段の生活が、すでにいちゃこらしてるのに、それか?」
「してねぇーよ。」
「してないと思いますね。」
と、寺の夫婦は声を揃えて全否定するのだから始末が悪い。おまえらなーと、呆れて捲簾が、そこいらをツッコミしようとしたら玄関から人がやってくる。ドスドスと重低音の足音だ。
「迎えに来たぜ? 」
顔を出したのは、マーズとヒルダ、ヘルベルトのジェットストリームな護衛陣だ。
「いらっしゃい。」
「お客様の送迎は俺らが担当するぜ。」
「え? ラクスの護衛は? 」
「ラクス様なら、店でお待ちになってる。さあ、お客人、出かけましょう。」
歓送会で店は貸切だから、歌姫様は、そちらでキラと待っている。寺にはクルマはあっても運転できるものはいないから、そういうことになったらしい。予定では、寺からの移動はタクシーでするつもりをしていたのだが、スケジュールが消化できたので、そういうことになった、と、ヒルダが説明する。
「じゃあ戸締りして行きましょう。」
今日は、ニールも出勤だ。なんせ、ご指名されている。行くか、と、坊主も立ち上がり、悟空はニールと一緒に戸締りに走る。
店に出勤して衣装を着替えるために、バックヤードに入ると、また、これか、と、溜め息が出そうなものが置かれていて、セットしてくれるスタッフが待っていた。
「どうせなら、特区らしい衣装のほうがいいだろってことになったんだ。」
説明してくれているのは、鷹で、すでに白地の衣装を身に着けている。他のスタッフは、着替え終わっていて、一番手間のかかるニールだけ専属のスタイリストやらが待機していた。
店表に居た大明神と歌姫様も、揃いの衣装で出迎えた。せっかくだから、と、提案したのは大明神様で、それならお任せください、と、どこからか衣装を借り出してきたのは歌姫様だ。祇園で舞妓さんたちとパフェを食べている写メが送られてきたので、それなら、と、こちらも振袖で正装だ。歌姫様とキラはお揃いの水色に古代柄の紅葉と川の流れが描かれた振袖だ。
「うわぁー、さすがキラくん。お似合いですねー。」
女装も似合うだろうと言われていたキラは、本当に着こなしているので、天蓬は大絶賛だ。
「ほおう、おまえのも色っぽいな? 八戒。」
オーナーたちの背後に控えている沙・猪夫夫も、もちろん着物だが、八戒は翡翠色の訪問着に幾何学模様のデザインだ、帯は銀色、帯止めは翡翠。そして、着方も、少し襟足を開けた粋な着こなしになっている。対になる悟浄は、女房が引き立つように赤茶色に黒の縦縞の入った、こちらも粋な着物だ。
「せっかくだから、特区の正装で、ということになったんですよ。」
「・・・レイ・・おまえも似合うな? 」
夫婦ものではないが、基本、シンとレイが対になるような着物になる。こういう場合、美人さんは女物に決まっているから、レイのほうが白地に彼岸花が散らされた綺麗な振袖でシンは黒地に彼岸花の対になる振袖だ。これには、金蝉が感想を漏らす。
「ありがとうございます。ちょっと気分的には複雑なんですが。」
女物が似合うと言われても、レイも素直に喜べないので苦笑する。それ以外は、男物の着物だ。最礼装ではないので、袴はつけず羽織だけ着けている。
「悟空も、こういうのなんですか? 」
「そっちのほうがよかった? 天蓬さん。」
「できれば見たいですね。」
「じゃあ、乾杯してからお色直ししてもらうね。とりあえず、席に案内いたしまーす。」
本日は貸切だから、ホールに席を設えた。ある意味、無礼講の宴会だから、中央にソファを配置し、みなが適当に座るようになっている。
上司様が席に座ると、すかさずウエルカムドリンクが運ばれてくる。金箔がゆらゆらと揺れているフルートグラスだ。
「ご指名訊くの忘れてた。悟空と三蔵さん? 」
「それとニール。」
「ついでに八戒と、そこの茶羽ゴキブリも。」
「だぁーれが、茶羽ゴキブリだっっ、天蓬っっ。」
「その着物が縦縞じゃなくて、横縞なら、コスプレもばっちりでしょ? 」
「あーそうかっっ。そこまで気付かなかった。キラくん、これ、横縞ってないんですか? 」
自分たちの衣装に気付いて、おお、と、八戒も手を叩く。確かに、元帥様のおっしゃることはもっともだ。
「横縞ってなかったよ? 八戒さん。」
「次回までに探しておきますわ、八戒さん。私くしとしたことが失態です。」
「こらこらこらこら、そこっっ。さらに盛り上がるなっっ。」
正月明けから松の内は、着物で接客になる。こういうことにかけては、みな、本気になるから、絶対に横縞の赤茶色の着物が用意されるに違いない。
「もし、よければ、皆様も着てご覧になれるのですが、いかがでしょう? 」
「俺たちもコスプレすんのか? 」
「あちらで、八戒さんと天蓬さんが『なりきり変身』されていたとお聞きいたしましたので、用意はしてございます。あちらほどの派手なものではございませんが、一応、男女揃えてございますよ?」
「ラクス、女性モノを金蝉に着せてください。」
「・・・おい・・・」
「だって最後の夜ですよ? 金蝉。こういうのは、『旅の恥は掻き捨て』といって派手にやるべきでしょう。」
「拒否する。」
「今夜、店で歓送会をしてくれるそうだ。」
「ああ、こっちにも連絡が来た。なあ、ニール、三蔵と一緒にもてなしてくれるか? 」
「ご指名なら喜んで。」
寺の夫婦は、あまり一緒に接客することはない。年に一度だけ、そういう組み合わせもあるが、それだって三蔵はウーロン茶係で、ニールが接客だ。だから、揃って客の席について接客したことは無い。
「でもさ、さんぞー酔わせるつもりなら、ママは避難させるからな? 捲簾。」
「なんでだよ? 寺でいちゃこらしてんだから、ニールだって慣れたもんじゃねぇーのか? 悟空。」
無自覚いちゃこらと、本格的口説きモードでは、まったく違う。いやいや、と、ニールが手を横に振る。
「怖いですよ、この人の口説き。」
本気のいい声で、本気の口説きなんて、ものすごーく背筋が寒くなる。何度か、ニールだってやられているが、気楽に流せるものではない。鷹や虎の口説きは、からかっているから流せるようになってきたが、どうも亭主のは本気で流せないのだ。
「誰が、おまえなんか口説くか。」
そして、坊主は酔っ払っているから記憶にない。肩を抱かれて耳元に囁かれるなんてことになると、ニールは泣きそうになる。
「いや、わかってるんだけど・・・・なあ? 悟空。」
「うん、慣れるもんじゃないよな? ママ。」
基本ノンケの男は、男から口説かれるのは寒いし痛い。それなのに、抵抗できないので、俺? 趣旨変え? と、自問してしまう強烈な代物だ。悟空にはやらないので、当事者になったことはないが、やられているホストたちが顔を引き攣らせるのは知っているから、ニールに同意して、うんうんと頷く。
「・・・おまえら・・・普段の生活が、すでにいちゃこらしてるのに、それか?」
「してねぇーよ。」
「してないと思いますね。」
と、寺の夫婦は声を揃えて全否定するのだから始末が悪い。おまえらなーと、呆れて捲簾が、そこいらをツッコミしようとしたら玄関から人がやってくる。ドスドスと重低音の足音だ。
「迎えに来たぜ? 」
顔を出したのは、マーズとヒルダ、ヘルベルトのジェットストリームな護衛陣だ。
「いらっしゃい。」
「お客様の送迎は俺らが担当するぜ。」
「え? ラクスの護衛は? 」
「ラクス様なら、店でお待ちになってる。さあ、お客人、出かけましょう。」
歓送会で店は貸切だから、歌姫様は、そちらでキラと待っている。寺にはクルマはあっても運転できるものはいないから、そういうことになったらしい。予定では、寺からの移動はタクシーでするつもりをしていたのだが、スケジュールが消化できたので、そういうことになった、と、ヒルダが説明する。
「じゃあ戸締りして行きましょう。」
今日は、ニールも出勤だ。なんせ、ご指名されている。行くか、と、坊主も立ち上がり、悟空はニールと一緒に戸締りに走る。
店に出勤して衣装を着替えるために、バックヤードに入ると、また、これか、と、溜め息が出そうなものが置かれていて、セットしてくれるスタッフが待っていた。
「どうせなら、特区らしい衣装のほうがいいだろってことになったんだ。」
説明してくれているのは、鷹で、すでに白地の衣装を身に着けている。他のスタッフは、着替え終わっていて、一番手間のかかるニールだけ専属のスタイリストやらが待機していた。
店表に居た大明神と歌姫様も、揃いの衣装で出迎えた。せっかくだから、と、提案したのは大明神様で、それならお任せください、と、どこからか衣装を借り出してきたのは歌姫様だ。祇園で舞妓さんたちとパフェを食べている写メが送られてきたので、それなら、と、こちらも振袖で正装だ。歌姫様とキラはお揃いの水色に古代柄の紅葉と川の流れが描かれた振袖だ。
「うわぁー、さすがキラくん。お似合いですねー。」
女装も似合うだろうと言われていたキラは、本当に着こなしているので、天蓬は大絶賛だ。
「ほおう、おまえのも色っぽいな? 八戒。」
オーナーたちの背後に控えている沙・猪夫夫も、もちろん着物だが、八戒は翡翠色の訪問着に幾何学模様のデザインだ、帯は銀色、帯止めは翡翠。そして、着方も、少し襟足を開けた粋な着こなしになっている。対になる悟浄は、女房が引き立つように赤茶色に黒の縦縞の入った、こちらも粋な着物だ。
「せっかくだから、特区の正装で、ということになったんですよ。」
「・・・レイ・・おまえも似合うな? 」
夫婦ものではないが、基本、シンとレイが対になるような着物になる。こういう場合、美人さんは女物に決まっているから、レイのほうが白地に彼岸花が散らされた綺麗な振袖でシンは黒地に彼岸花の対になる振袖だ。これには、金蝉が感想を漏らす。
「ありがとうございます。ちょっと気分的には複雑なんですが。」
女物が似合うと言われても、レイも素直に喜べないので苦笑する。それ以外は、男物の着物だ。最礼装ではないので、袴はつけず羽織だけ着けている。
「悟空も、こういうのなんですか? 」
「そっちのほうがよかった? 天蓬さん。」
「できれば見たいですね。」
「じゃあ、乾杯してからお色直ししてもらうね。とりあえず、席に案内いたしまーす。」
本日は貸切だから、ホールに席を設えた。ある意味、無礼講の宴会だから、中央にソファを配置し、みなが適当に座るようになっている。
上司様が席に座ると、すかさずウエルカムドリンクが運ばれてくる。金箔がゆらゆらと揺れているフルートグラスだ。
「ご指名訊くの忘れてた。悟空と三蔵さん? 」
「それとニール。」
「ついでに八戒と、そこの茶羽ゴキブリも。」
「だぁーれが、茶羽ゴキブリだっっ、天蓬っっ。」
「その着物が縦縞じゃなくて、横縞なら、コスプレもばっちりでしょ? 」
「あーそうかっっ。そこまで気付かなかった。キラくん、これ、横縞ってないんですか? 」
自分たちの衣装に気付いて、おお、と、八戒も手を叩く。確かに、元帥様のおっしゃることはもっともだ。
「横縞ってなかったよ? 八戒さん。」
「次回までに探しておきますわ、八戒さん。私くしとしたことが失態です。」
「こらこらこらこら、そこっっ。さらに盛り上がるなっっ。」
正月明けから松の内は、着物で接客になる。こういうことにかけては、みな、本気になるから、絶対に横縞の赤茶色の着物が用意されるに違いない。
「もし、よければ、皆様も着てご覧になれるのですが、いかがでしょう? 」
「俺たちもコスプレすんのか? 」
「あちらで、八戒さんと天蓬さんが『なりきり変身』されていたとお聞きいたしましたので、用意はしてございます。あちらほどの派手なものではございませんが、一応、男女揃えてございますよ?」
「ラクス、女性モノを金蝉に着せてください。」
「・・・おい・・・」
「だって最後の夜ですよ? 金蝉。こういうのは、『旅の恥は掻き捨て』といって派手にやるべきでしょう。」
「拒否する。」
作品名:こらぼでほすと 闖入11 作家名:篠義