こらぼでほすと 闖入11
「じゃあ、うちの亭主と一緒に。」
「巻き込むなっっ、天蓬。」
「かかかかか・・・いいじぇーねぇーか、捲簾。」
「俺で敵をとるな、悟浄。」
「三蔵も着るのか? ラクス。」
「そういう条件でしたら。今は男物です。」
しばらく、童子様は考えたが、やっぱりイヤならしい。男物なら着てもいい、という返事だ。
「天蓬さんは、どちらを?」
「八戒には対抗しないといけませんから、女物を。うちの亭主は男物ですね。たぶん女装させたら僕は笑い死にますから。」
「承知いたしました。では、着替えていただきましょう。シン、レイ、ご案内をしてください。」
ウエルカムドリンクを飲み干した三人がビップルームに案内される。そこには、ちゃんといくつかの衣装が用意されている。天蓬以外は、手間のかかるものではないので、さくさくと着替えをしてもらった。
すぐに、ホールに戻って来ると、すでに三蔵たちも現れていた。カウンターのスツールに腰掛けていた三人が立ち上がる。
「やっぱり、いけてるじゃねぇーか、三蔵。」
「なるほどな。」
藍色地に銀を基本とした色合いで秋の花が刺繍された訪問着のニールは、似合っている。ただし、身長差が夫婦であるのだけが、ちょっと残念だ。女房のほうが高い。 坊主のほうは、グレーの男物だ。
「うちのママ、美人だから似合うに決まってるだろ。舞妓は無理って言っただけじゃんか。」
この言葉に、悟空が反論する。女性モノといっても着こなしさえできれば、男性が着ていてもおかしなものにはならない。八戒しかり、レイしかり、みな、綺麗に着飾っている。
「店で着ることもあるので、随分と慣れたんですが・・・」
今年の正月は化粧もして髪も結い上げて本格的に着せられた。あれからすれば、今度の着物は楽だ、と、ニールも苦笑する。
「おまえ、もうちょっと成長しろ、三蔵。」
「無茶言うな、もう身長なんて伸びるわけねぇーだろっっ。」
金蝉のツッコミには三蔵が返す。その隙に、捲簾がニールの横に並んで肩を抱いている。
「俺、ちょうどいいんだが? 」
「天蓬に殺されるぜ? 捲簾。」
「というか、うち、そういういかがわしい店じゃないんですけどね? 捲簾さん。」
はい、救出、と、八戒が捲簾の手をペシリと叩いて撃退した。というのに、今度は鷹がニールを抱き寄せている。
「誘わないでくれよ? ママ。」
「誘ってねぇーよ。てか、ケツ揉むなっっ、鷹さん。」
「胸もタオルが入ってて柔らかいな? 」
「ちょっ、悟空っっ。」
もみもみと胸あたりを揉んでいる鷹は、ニールに命じられた悟空に引き剥がされる。
「八戒、ホスト同士がいかがわしい場合は、どうなんだ? 」
「あれはスキンシップなんでいいんです。」
「よくないでしょうっっ。なんで、野郎に胸とかケツ揉まれにゃならないんですかっっ、八戒さん。」
こういう場合の弄られ役になって久しいニールは、ふーふーと威嚇する猫のように、きっと睨んでカウンターに近寄る。そこには、トダカがいるから、そこは安全圏だ。鷹は悪びれた様子もなく、捲簾に、「可愛いだろ? 俺の恋人。」 と、ウインクしていたりする。
「ママ、消毒しようか? 」
「私くしも手伝いますわ、ママ。」
カウンターの両側から、キラと歌姫様が笑顔で近寄ってくる。このパターンは解っているから、「いらんっっ。」 と、叫んで、さらに坊主の背後に逃げ込む。
「それ、偽乳でもつけてるのか? 」
「違いますよ。女物は胸がある前提で裁断されているから、ある程度、そこに厚みが必要になるからタオルで膨らませてあるんです。」
「ケツもか? 」
「ええ、そうですよ。」
坊主は、へぇーと女房の説明を聞いてから、くるりと振り返って、女房の胸辺りをぱふぱふと叩いて確認している。女房のほうも、「揉んでも感じないけど。」 と、笑っている。
「・・・なあ、八戒・・・」
「捲簾さん、言わなくてもいいです。」
「俺だと怒るのにさ。なんだろうな? トダカさん。」
「夫婦でやる分にはかまわないんじゃないかい? 鷹さん。」
すかさず、キラと歌姫様も、ぽふぽふとニールのケツ辺りや胸辺りを叩いているが、こちらも嫌がる素振りも無い。
そんな騒ぎがひと段落した頃に、ようやく天蓬の着替えも終った。シンとレイが案内してくる。
「いかがですか? 」
優雅にシンとレイに手を支えられて、天蓬がやってきたが、全員が、げっという顔だ。
「お似合いですわ、天蓬さん。」
「ありがとう、ラクス。こういうものもあるんですね。」
「それは、今風にアレンジされたものなんですの。」
普通の振袖や訪問着なら、ここまでは驚かない。元帥様がお召しになったのは、襟や裾にレースがあしらわれた現代風の振袖だった。黒地に青いバラの模様が意匠的にデザインされていて、帯も細い帯の上から、さらにオーガンジーで緩く巻かれている派手なものだから、全員が絶句した。どこまではも想像の上を行くのが元帥様だ。
「いかがですか? 」
亭主の前にしゃなりしゃなりとやってきて微笑んで尋ねてみる。ここで、とんでもないことを言ったら、今夜、お仕置きしてやるという顔だ。
「何を着せても似合うな? おまえ。」
「うーん、ノーマルな反応ですが、まあよろしいでしょう。」
「そうやってると綺麗なのになあ。」
「あなたが、毎日、僕の世話をすればよろしいんでは? 」
「・・・毎日、おまえの服も選べってか? そんなことしてみろ、周囲が騒がしくなるぞ? 」
普段、ぼさぼさの髪に白衣の男が、毎日きっちりとした服を着ていたら、周囲は何事だと驚くこと請け合いだ。それで、よからぬ感心など持たれるくらいなら、捲簾としては、ぼさぼさの格好でいいと思う。
「まあねぇ。それは僕も、御免蒙りたいです。」
ここの夫夫もいちゃこらには違いないので、夫夫の会話なんてものはスルーの方向だ。さて、それじゃあ乾杯から始めましょうか、と、歌姫様が声をかける。
乾杯して、適当に軽食を摘むのだが、ここからはご指名ホストたちの接待になる。天蓬と捲簾の両隣に八戒と悟浄が座り、金蝉の横にはニールと三蔵という陣容だ。悟空は八戒と三蔵の真ん中に陣取る。
「三蔵、たばこが切れました。パシってください。」
唐突に天蓬から指示が飛ぶ。それでしたら、私が、と、ウェイター役のダコスタが銘柄を尋ねたのだが、いえいえ、と、元帥様は手を横に振った。
「三蔵なら僕らのタバコは知ってるでしょ? だから、あなたでなく三蔵にお願いしているんです。」
「俺のも頼むぜ、三蔵。金蝉はあるのか? 」
「ついでなら、俺のも一箱頼む。」
てめぇーら、という顔で、坊主は睨んでいるが、仕事だから大人しく、「承知いたしました。」 と、立ち上がる。さっさかと店のエントランスへ消えると、上司様は大笑いだ。パシリなんて坊主は、普段してくれることはないからだ。
「いやあー愉快ですねぇ。あのマイペース驀進鬼畜坊主がパシリをしてくれるなんて。」
「あいつ、ちゃんと接客できるんだなあ。感心した。」
作品名:こらぼでほすと 闖入11 作家名:篠義