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みそっかす
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novelistID. 19254
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夕焼け子やけでまた明日

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 アカデミーにあるブランコは一人の子どもの為にある。
 けれども、子どもが乗っても、ブランコが空に漕ぎ出ることはない。蒲公英の花が風に揺れるように、子どもはゆらゆらとブランコを揺らして、太陽の色をした髪を風に遊ばせる。
 子どもはじっと校庭を眺めていた。青空色の瞳に映るのは遊びに興じるアカデミーの生徒達。その賑やかな声は午後の穏やかな陽射しに響き、そして子どもの鼓膜も震わせた。子どもははしゃぎ遊ぶ生徒達の表情を真似るように、僅かに微笑んだ。その眉が寂しげに下がっているのには気がついていなかった。
 ふと、子どもの表情が強張った。生徒達と共にいた、一人の教師の視線が子どもを射抜いているのに気がついたからだ。
 口は生徒達に向けた笑みを浮かべている。しかし、その眼は刃のような鋭さを持つ冷たい光を宿していて。

 ドウシテ、オマエガ、ワラッテイルンダ。

 そう、言っている眼だった。子どもは笑みを消した。ブランコを降り、足早に教室へ駆け戻る。教室も決して居心地の良い場所ではなかった。大人の憎悪が感染したように、生徒達の子どもに向ける視線や言葉も蔑みや棘を含んでいたから。
 しかし、大人のソレに比べたら、まだマシだった。生徒達は嫌がらせはするけれど、本気の殺意を向けては来ない。

(大丈夫、だいじょうぶ、ダイジョウブ)

 呪文のように何度も心の中で唱える。胸がじくじく痛むけれど、傷の治りは人一倍早いから。内側が傷ついても、きっとすぐに治る筈だから。
「だから、ダイジョウブ、だってば」
 小さく口の中で呟いて、教室に入る。教室にいた生徒達のニヤニヤした嘲笑が振ってくるが子どもは前を向いて歩いた。自然、拳に力が入り、小さな手が白く染まっていた。
 憎悪も蔑みは、子どもにとっての当たり前だった。
 その姿を一人見ていた者がいたことを、子どもは知らなかった。

 放課後。夕焼けに染まる校庭に、一人の人影が伸びていた。ブランコの前に佇み、何をするでもなくじっとブランコを見つめる少年、名をシカマルと言った。真っ黒な瞳にブランコを映しているが、頭に浮かぶのはこのブランコの唯一の乗り手のこと。
 うずまきナルト。
 里の中でも珍しい金色の髪と、真っ青な眼の持ち主。シカマルは不思議と、その金髪が太陽の下で煌めいているのを見たことがない気がした。無駄に記憶力が良い頭には、彼が外にいるときの場面も収まっているのだが。
(何つーか、ぴょこぴょこ跳ねている姿っつーか)
 同年代の子どもたちのように、はしゃぐ姿を見たことがなかった。友人たちと駆け回り、笑い声を響かせるような、そんな姿。
(昼間みたいなのは似合わねぇ気がするんだよなぁ)
 鮮明に脳裏に映し出される不自然な光景。
 必死に笑顔を真似るナルト。それを見つめていた教師の異様なまでの冷たい視線。実のところ、シカマルはそんな光景を何度も見た。それから考えるに、アカデミーの教師のほとんどがナルトに同じ様な冷たく凍りつくような視線を送っていると気付いた。憎悪と蔑みと怒りに満ちた、そんな視線だ。
「ったく、なんだってんだ」
 がじがじと頭をかく。
 ナルトに何かがあるのは分かる。それが里全体に関わるものだということも。そうでなければ、仮にも教師と名乗る者があんな目で生徒を見るはずがない。けれども、無駄に良く回る頭で割り出せたのはここまでで、これからどうするべきかという問の答えはまだ出ていない。
「あー、めんどくせぇ」
 何がという訳ではない。ただ、全てに対して悪態をつきたい気分になった。それは勿論、現在自分の思考を占拠している金色の少年に対しても言えることで。
「あんな顔して笑うなら、泣けってんだ」
 無理矢理笑おうとしていた顔。まるで泣き方を知らない変わりに、笑おうとしていたように見えた。
(見てて気分の良いもんじゃねぇ)
 その気持ちが、シカマルを今この場所に立たせていた。苛立ちを紛らわすようにブランコに乗ろうと近寄ったとき、背後から高い声が飛んできた。
「それに乗っちゃダメだってばっ!」
 自分の手より一回りは小さい手に肘を掴まれ後ろに蹈鞴を踏む。独特な高さの声と口調。誰かなんて確認をしなくても分かる。振り向けば、見開かれた青い双眸がシカマルを映していた。
 うずまきナルト。
 口のなかで小さく彼の名前を呟いた。
「危ないから触っちゃダメだってば」
「……危ないって、どういうことだ?」
 しばらくその青い目に見入って、やっと返したのはそんな言葉。
「そこの、縄のとこ。小さい刃が食いこませてあるってば。だから、握ると怪我するってばよ」
 見てみれば確かに、ブランコを木からぶら下げている二本の縄からのぞく無数の細かい刃。ナルトに向けられる教師達の視線を思い出した。
「明日取ればいいかなって思ったんだけど、誰かがブランコのとこにいるのが見えたからさ」
 間に合って良かったってば。そう言って笑う顔は、昼間のような歪なそれではなく、心底嬉しそうで。それを見てシカマルは小さく唇を噛んだ。
 一度、握ってしまったのだろう。シカマルの腕を掴んでいる手とは反対側の手には包帯が巻かれている。それも自分で手当てをしたのだろう。包帯が手当ての意味を成さず、ただの緩く巻きつけられた布になっている。
「それ」
「へ?」
「包帯。ぐちゃぐちゃじゃねぇか。手ェ貸してみろ。巻きなおしてやる」
 言うが早いか、シカマルはそっと腕を掴む小さな手を外すと、反対側の手を取った。突然のことに驚いたのか、ナルトの手に力がこもる。
「いっ、いいってば! こんなの平気だし!」
「阿呆。どんな小せェ傷でも痛ェもんは痛ェんだよ」
 すでにほどけかけていた包帯を一度外し、丁寧に巻きなおしていく。掌には血の滲んだガーゼがあったが、血の滲み具合からそんなに深くはないようだと安堵した。ナルトの手はやはり小さかった。指も細く、どの指にもさか剥けがあることから、あまりバランスの良い食事をしていないのだろう。厚手の服から覗く手首も細い。シカマルは自然とその眉根を寄せた。
(こんな細ェ腕じゃそのうち折れるぞ)
「ほら。包帯はこうやって巻くんだよ」
「すげぇ。どこもほどけてない!」
 巻き終わると、ナルトは何か珍しい宝石でも見るかのようにきらきらとした眼で包帯の巻かれた手を眺めた。その顔は怪我をしているというのに嬉しそうだ。
「ありがとうだってば! えっと……」
「奈良シカマル」
「ありがと、シカマル!」
 先ほどよりも嬉しそうな笑顔で名前を呼ばれる。その笑顔は歪さの欠片もない、陽だまりに似た笑顔。弧を描くその眦に僅かに涙が見えるのはシカマルの気のせいではあるまい。
「俺の名前は」
「こらー! そこ何やってんだ。もう帰りなさい!」
 ナルトが名前を言おうとしたとき、校舎から飛んできた教師の声。視線を向ければ窓際に佇みこちらを見る教師がいた。その視線は、ナルトを傷つけたあの刃と同じで、シカマルは内心舌打ちをした。
「シカマル、包帯ありがと。すっげぇ嬉しかったってば!」
「おいっ!」