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霧月かすみ
霧月かすみ
novelistID. 19217
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プロポーズ

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「あ、そ、そうかな・・・? ありがとう。 頑張って着たかいがあったね。」
望美は、恥ずかしそうに微笑む。
毎年見て来たはずなのに、そんな表情も、譲には愛しくてたまらなかった。

その時。
ドン、ドン、と、花火は音を立てて、宙に上がった。

「・・・始まったみたいだな。」
「急いで、見る場所を探さないとね・・・あ、あれ。」
望美は、ふと、前方に見えた高台の公園のベンチを指した。
夜店の立ち並ぶ神社付近とは、正反対の方向にあるためか、
不思議なことに、誰も座っていなかった。
「ねえ、あそこなら、見晴らしも良さそうだし、ゆっくり座って見れそうだよ?」
この無邪気な望美の表情にいつも、譲は勝てないのだ。
「・・・じゃあ、そうしようか。」

昼間の日差しが強かったためか、まだ温かいベンチに、
海の方面を向いて2人で腰を下ろす。
「やっぱり、よく見えるよ! お店はないけど、もしかして、ここって穴場だよね? 譲くん。」
すっかり大興奮の望美だが、
(何故今まで、誰もここに気づかないのかが不思議だ・・・。)
譲は、この偶然さえ、不可思議に思えた。

「きれ〜い・・・」
うっとりと大輪を咲かせる花火を眺める望美を、譲は、
右腕でそっと抱き寄せた。
(花火よりも、あなたのほうが、ずっときれい・・・だ。)
声にならず、心で呟いていた。
「・・・譲くん?」
「今から、10数える間、目を閉じていてもらえないか?」
「え?今? ・・・じゃ、こうかな? 1、2・・・」
(2人で花火を見てるのに、いきなり何?)
意味のわからないまま、望美は、そのまま目を閉じた。

譲はポケットから取り出したものを、
そっと望美の左手薬指にはめた。
「えっ、何?」
不意に譲の熱い呼吸が唇から伝わり、望美の問いかけは遮られた。
「ん・・・譲くん・・・」
強く抱き寄せられて驚きながらも、戸惑いは甘い口づけに押し流された。

二人の唇がようやく離れ、
「もう、いいよ」
と譲は、短く言った。
目を開けた望美は自分の左手を見て驚いた。
シルバーのリングが、外灯に照らされて、キラキラと光っていた。
「譲くん・・・これって・・・」
手の込んだ彫り込みがデザインされているが、
こんな市販品は見たことがない。

「俺が作ったんだ。・・・あなたのために。」
いつも、ごちそうを作って振舞ってくれる時の譲が見せるのとは、
また違う、恥じらいの交じった笑顔があった。
「え? 作ったって、どうやって? すごい・・・」
「アートクレイシルバーを応用したら、簡単だった。 リズ先生は、
彫金とかも知っていたから、異世界でこっそり教わってたんだ・・・。
いつか、あなたに、指輪を作って渡したいと思っていた。・・・あの時から。」
望美は、譲の言葉に、嬉しさを噛みしめた。
「譲くん・・・」

実は・・・とバツの悪そうな表情を浮かべて、譲は続けた。
「小学校の時に兄さんが、あなたに夜店で売っていた指輪を買ったのを、
どうしても忘れられなくて・・・あの記憶を断ち切れなくて、ずっと苦しかった。
あなたが、いつまでもあの夜のことを覚えていて、
いつまでも兄さんのことを、思っているようなそんな気がして・・・」
望美は、ぶんぶんと首を振って全否定した。
「そんな・・・そんなことないよ。あの夜のことは、確かに本当の出来事だけど、
でも、私の気持ちは、譲くんのものだよ。だから、今一緒にいるんだと思う。
譲くんと一緒にいることを、私は選択したから、元の世界に戻って、今ここにいるんだよ・・・ね?」

譲は、安堵したような表情を浮かべ、顔を赤らめる。
「そ、そう・・・だな。あなたの気持ちを疑ったわけじゃないけど、
つい、不安になってしまって・・・。俺の悪い癖だな。」
ようやく、譲にも、笑顔が戻ってきて、望美は嬉しかった。
「うふふ・・・本当に嬉しいよ、この指輪! ありがとう。とってもかわいいし。」
「あなたが、気に入ってくれたら、いいんだけどな。」
「うん、気に入ったよ! ずっと、大事にするね・・・」

左手の指輪を見つめては、にこにこと満足げな望美が愛しい・・・
譲は、いきなり真剣な表情で話し始める。
「その指輪には、俺は、ずっと・・・あなたを、
そばで守り続けたい。卒業しても、どういう状況になっても、
離れたくない。あなたと生きていたい。そんな決意を込めたつもりなんだ。」
「譲くん・・・」
「だから、あなたも、そのつもりで、受け取って欲しい。
その・・・婚約指輪として。」

「婚約指輪」という言葉に、望美は、かぁぁっと顔を赤らめた。
「え?・・・あ、い、いいのかなぁ、私で・・・?
料理ちっとも美味く出来ないし、しっかりしてないし。
奥さんの条件としては、あんまり良くないね? 私って。
譲くんに、何かと迷惑かかっちゃいそう。」
赤らんだ顔を隠すように、一生懸命望美はごまかす。

「あなたが、俺にとって迷惑な存在になることなんて、ありえない。」
気付くと望美は、再度譲の腕の中に強く抱きしめられていた。
「あなたを愛してる・・・結婚して欲しい。」
驚きと喜びが入り混じって、望美の瞳は、涙に潤んでいた。
「はい。喜んで。」
照れ笑いしながら、小さな声で答えた。
二人は、いつの間にか、
花火大会が終わったことにも、しばらく気づけなかった。
作品名:プロポーズ 作家名:霧月かすみ