rose'~prologue~
「相変わらず冴えねぇ顔してんなぁ。」
執務室に姿を見せるなり口を開いたヒューズに、ロイは眉間に深く皺を刻み込んだ。
「お前が来たからに決まっているだろう。今日は何だ?娘の自慢話なら聞かんぞ。」
畳み掛けるように言い放ち、ソファーに腰を降ろしたヒューズに視線を移す。
大袈裟に肩を竦めて見せ、ヒューズは口を開いた。
「ちゃんと用事があって来てんだ。まぁ聞けよ。」
どうやら本当にちゃんとした話のようだ。表情を変え、ロイはヒューズの前に腰を降ろした。
「で?」
早く話せと言うように口を開けば、ヒューズはいつもの食えない笑みを見せ、言葉を紡ぎ始めた。
「石絡みの事を調べてたら、ちょっと面白い物が出て来たんだ。こりゃあお前向けだなと思ったんでな。
わざわざこうして来たんだが…」
焦らすように間を開け、にやりと口元の端を上げる。
「さっさと話せ。」
苛々とヒューズを急かせば、ヒューズはポケットから小さな瓶を取り出した。
瓶の中で、赤紫色の液体が跳ね上がるのが見える。
「それは?」
少なからず興味をそそられ、ロイはヒューズに問い掛けた。
「賢者の石の出来損ないって話なんだが、それが偉く面白い内容でな。効力は賢者の石にも及ばないん
だが、これを人体に使用すると、その人間の身体にある変化が起こるらしい。」
「変化?」
「ああ。お前にとっちゃ最高に美味しい話だぜ?」
面白くて堪らないと言ったように笑いを漏らし、ヒューズは身を乗り出してロイに顔を寄せた。
そうして内緒話でもするように声を潜め。
「性別が転換するんだとよ。」
余りに突拍子も無い内容に、一瞬ロイの思考が停止する。
「・・・は?」
「まぁ、当然の反応だろうな。」
再びソファーに腰を降ろし、ヒューズは小瓶をテーブルの上に置いた。
「俺も最初聞いた時は眉唾物だと思ったんだけどな?半信半疑でマウスで実験させたらマジで転換しち
まったんだ。」
俺が証人だぜ、と続け、悪戯っ子のように再びにやりと笑って。
ヒューズは低く、言葉を紡いだ。
「使いたいだろ?」
「・・・っ・・・」
ロイが言葉を喉に詰めると、ヒューズは「愚問だったな」と言葉を零し、ロイに小瓶を差し出した。
「俺、暫らくこっちに居るから使ったら教えろよ。一応記録付けなきゃなんねぇからな。あぁ、これに効能が
書いてあるから読んどけよ。」
そう言い残し、ひらひらと手を振って。
それじゃまたなとヒューズは執務室を後にした。
「・・・・・・」
テーブルの上に置かれた小瓶を。
腕を組みながら、ロイは眺めていた。
小瓶の横には、ヒューズが置いて行った効能の書かれたメモ。
暫らく小瓶とメモを眺めていたロイは、ゆっくりと手を伸ばし、メモを手に取った。
かさり、と、メモが手の中で音を立てる。
『ロゼ』と、一番上に大きめの文字で書かれているのが、一番最初に目に飛び込んで来た。
恐らくヒューズがこの液体に付けた名前だろう。
淡紅色とは程遠いが、赤葡萄酒に似たこの色に洒落た名前を付けてやろうとでも思ったのだろうか。
メモに視線を落とし、ロイは読み進んで行く。
★『ロゼ』の服用の仕方
甘味があるのでそのままでも服用出来ますが、飲み物に混ぜるのが一番無難でしょう。
但し、本体に色が付いていますので、コーヒーや紅茶等に入れると良いと思われます。
お勧めなのは紅茶です。本体の赤紫色が綺麗に出ます。
効力は、一回の服用で約1週間持続します。
服用後、十数分で眠気が訪れますが、そのまま眠って下さい。
目覚めると、あなたの身体に変化が訪れています。
さぁ、薔薇色のアナザヘヴンへどうぞ・・・
「・・・馬鹿かあいつは・・・」
最後まで読んだロイは、思わず声を漏らした。
明らかに面白がっている。
ロイは小瓶を手に取り、小さなコルク栓を抜いて匂いを嗅いでみた。
微かに甘いかおりがする。
「ふん・・・」
コルク栓を締め、再び小瓶を眺める。
「性別が転換する薬・・・か・・・」
ヒューズの話を本当に信じた訳では無い。
寧ろ、半信半疑だ。
あんな馬鹿げた効能書きを残されれば、本当だとは誰も思うまい。
ふと。
しかし紅茶に入れればどのようになるのだろうかと思ったロイは、ホークアイに紅茶を持って来るよう命じた。
数分後、トレイを手にしたホークアイが執務室に姿を現し、紅茶とコーヒーをひとつずつ置いて行った。
ロイは紅茶だけしか頼んではいなかったが、特に何も指摘せずにホークアイを見送った。
小瓶を取り出し、コルク栓を開け、半分程の量を紅茶に落とす。
途端に、紅茶の色が赤味を増した。
ワインレッドに近い色だ。
匂いを嗅いでみれば、どこかアップルティーを思わせる香りだった。
カップを置き、考えるように紅茶を眺める。
コーヒーに手を伸ばし、一口啜った時、不意にドアがノックされドアが開かれた。
「大佐?」
聞こえた声に、思わずロイは心臓が飛び出すかと思った。
何の前触れも無く、エドが顔を出したので。
来るとは聞いていなかった。
噴出しそうになったコーヒーを何とか飲み下し、急いで小瓶とメモをポケットに直す。
「やあ、鋼の。」
平常心、平常心・・・
心の中で唱えるように繰り返し、にこやかにエドを迎える。
「外は暑かっただろう?」
「ほんとにさぁ。もう、暑いのなんのって。」
言いながらロイの前に腰を降ろそうとしたエドは、ロイの前に置かれていた紅茶を見付けた。
「それ、紅茶?冷たいやつだよね?貰っていい?」
喉カラカラなんだよねと言いながら、ロイの返事も聞かずにエドは紅茶の入ったグラスに手を伸ばした。
そうしてそのまま一気に飲み干し、満足そうに息を付いた。
「あー♪美味かった♪」
ロイは呆然とエドと空のグラスを見比べた。
『 服用後、十数分で眠気が訪れますが、そのまま眠って下さい。
目覚めると、あなたの身体に変化が訪れています。』
先程のヒューズのメモの文章が、頭の中をぐるぐると回る。
何だかんだとエドが目の前で喋っているが、今のロイには話の内容は全く聞こえていない。
それでも自分の言いたい事を話し終えて、エドは満足したようにソファーに横になった。
「何か眠くなっちゃった・・・」
その言葉で、漸くロイは我に返った。
エドを観れば、既に寝息を立てている。
『さぁ、薔薇色のアナザヘヴンへどうぞ・・・』
ヒューズの声が、ロイの頭の中で響いた。
すやすやと目の前で寝息を立てるエドに、軽い放心状態に陥りながらも、ロイは何とか理性を取り戻した。
いや、まだ本当に転換するとは限らない。
眠ったのだって、偶々疲れていたからかも知れない。
大体ヒューズの持って来た薬だ。信憑性など…………無いとは言い切れないか…………
大きく息を付き、ロイは投げ出したように背凭れに深く身を沈めた。
「……俺は何をやっているんだ……」
馬鹿馬鹿しくて、思わず言葉を漏らす。
いい加減仕事をしようとロイが立ち上がり掛けた、その時。
「ぅ…ん…」
小さくエドが呻いた。
執務室に姿を見せるなり口を開いたヒューズに、ロイは眉間に深く皺を刻み込んだ。
「お前が来たからに決まっているだろう。今日は何だ?娘の自慢話なら聞かんぞ。」
畳み掛けるように言い放ち、ソファーに腰を降ろしたヒューズに視線を移す。
大袈裟に肩を竦めて見せ、ヒューズは口を開いた。
「ちゃんと用事があって来てんだ。まぁ聞けよ。」
どうやら本当にちゃんとした話のようだ。表情を変え、ロイはヒューズの前に腰を降ろした。
「で?」
早く話せと言うように口を開けば、ヒューズはいつもの食えない笑みを見せ、言葉を紡ぎ始めた。
「石絡みの事を調べてたら、ちょっと面白い物が出て来たんだ。こりゃあお前向けだなと思ったんでな。
わざわざこうして来たんだが…」
焦らすように間を開け、にやりと口元の端を上げる。
「さっさと話せ。」
苛々とヒューズを急かせば、ヒューズはポケットから小さな瓶を取り出した。
瓶の中で、赤紫色の液体が跳ね上がるのが見える。
「それは?」
少なからず興味をそそられ、ロイはヒューズに問い掛けた。
「賢者の石の出来損ないって話なんだが、それが偉く面白い内容でな。効力は賢者の石にも及ばないん
だが、これを人体に使用すると、その人間の身体にある変化が起こるらしい。」
「変化?」
「ああ。お前にとっちゃ最高に美味しい話だぜ?」
面白くて堪らないと言ったように笑いを漏らし、ヒューズは身を乗り出してロイに顔を寄せた。
そうして内緒話でもするように声を潜め。
「性別が転換するんだとよ。」
余りに突拍子も無い内容に、一瞬ロイの思考が停止する。
「・・・は?」
「まぁ、当然の反応だろうな。」
再びソファーに腰を降ろし、ヒューズは小瓶をテーブルの上に置いた。
「俺も最初聞いた時は眉唾物だと思ったんだけどな?半信半疑でマウスで実験させたらマジで転換しち
まったんだ。」
俺が証人だぜ、と続け、悪戯っ子のように再びにやりと笑って。
ヒューズは低く、言葉を紡いだ。
「使いたいだろ?」
「・・・っ・・・」
ロイが言葉を喉に詰めると、ヒューズは「愚問だったな」と言葉を零し、ロイに小瓶を差し出した。
「俺、暫らくこっちに居るから使ったら教えろよ。一応記録付けなきゃなんねぇからな。あぁ、これに効能が
書いてあるから読んどけよ。」
そう言い残し、ひらひらと手を振って。
それじゃまたなとヒューズは執務室を後にした。
「・・・・・・」
テーブルの上に置かれた小瓶を。
腕を組みながら、ロイは眺めていた。
小瓶の横には、ヒューズが置いて行った効能の書かれたメモ。
暫らく小瓶とメモを眺めていたロイは、ゆっくりと手を伸ばし、メモを手に取った。
かさり、と、メモが手の中で音を立てる。
『ロゼ』と、一番上に大きめの文字で書かれているのが、一番最初に目に飛び込んで来た。
恐らくヒューズがこの液体に付けた名前だろう。
淡紅色とは程遠いが、赤葡萄酒に似たこの色に洒落た名前を付けてやろうとでも思ったのだろうか。
メモに視線を落とし、ロイは読み進んで行く。
★『ロゼ』の服用の仕方
甘味があるのでそのままでも服用出来ますが、飲み物に混ぜるのが一番無難でしょう。
但し、本体に色が付いていますので、コーヒーや紅茶等に入れると良いと思われます。
お勧めなのは紅茶です。本体の赤紫色が綺麗に出ます。
効力は、一回の服用で約1週間持続します。
服用後、十数分で眠気が訪れますが、そのまま眠って下さい。
目覚めると、あなたの身体に変化が訪れています。
さぁ、薔薇色のアナザヘヴンへどうぞ・・・
「・・・馬鹿かあいつは・・・」
最後まで読んだロイは、思わず声を漏らした。
明らかに面白がっている。
ロイは小瓶を手に取り、小さなコルク栓を抜いて匂いを嗅いでみた。
微かに甘いかおりがする。
「ふん・・・」
コルク栓を締め、再び小瓶を眺める。
「性別が転換する薬・・・か・・・」
ヒューズの話を本当に信じた訳では無い。
寧ろ、半信半疑だ。
あんな馬鹿げた効能書きを残されれば、本当だとは誰も思うまい。
ふと。
しかし紅茶に入れればどのようになるのだろうかと思ったロイは、ホークアイに紅茶を持って来るよう命じた。
数分後、トレイを手にしたホークアイが執務室に姿を現し、紅茶とコーヒーをひとつずつ置いて行った。
ロイは紅茶だけしか頼んではいなかったが、特に何も指摘せずにホークアイを見送った。
小瓶を取り出し、コルク栓を開け、半分程の量を紅茶に落とす。
途端に、紅茶の色が赤味を増した。
ワインレッドに近い色だ。
匂いを嗅いでみれば、どこかアップルティーを思わせる香りだった。
カップを置き、考えるように紅茶を眺める。
コーヒーに手を伸ばし、一口啜った時、不意にドアがノックされドアが開かれた。
「大佐?」
聞こえた声に、思わずロイは心臓が飛び出すかと思った。
何の前触れも無く、エドが顔を出したので。
来るとは聞いていなかった。
噴出しそうになったコーヒーを何とか飲み下し、急いで小瓶とメモをポケットに直す。
「やあ、鋼の。」
平常心、平常心・・・
心の中で唱えるように繰り返し、にこやかにエドを迎える。
「外は暑かっただろう?」
「ほんとにさぁ。もう、暑いのなんのって。」
言いながらロイの前に腰を降ろそうとしたエドは、ロイの前に置かれていた紅茶を見付けた。
「それ、紅茶?冷たいやつだよね?貰っていい?」
喉カラカラなんだよねと言いながら、ロイの返事も聞かずにエドは紅茶の入ったグラスに手を伸ばした。
そうしてそのまま一気に飲み干し、満足そうに息を付いた。
「あー♪美味かった♪」
ロイは呆然とエドと空のグラスを見比べた。
『 服用後、十数分で眠気が訪れますが、そのまま眠って下さい。
目覚めると、あなたの身体に変化が訪れています。』
先程のヒューズのメモの文章が、頭の中をぐるぐると回る。
何だかんだとエドが目の前で喋っているが、今のロイには話の内容は全く聞こえていない。
それでも自分の言いたい事を話し終えて、エドは満足したようにソファーに横になった。
「何か眠くなっちゃった・・・」
その言葉で、漸くロイは我に返った。
エドを観れば、既に寝息を立てている。
『さぁ、薔薇色のアナザヘヴンへどうぞ・・・』
ヒューズの声が、ロイの頭の中で響いた。
すやすやと目の前で寝息を立てるエドに、軽い放心状態に陥りながらも、ロイは何とか理性を取り戻した。
いや、まだ本当に転換するとは限らない。
眠ったのだって、偶々疲れていたからかも知れない。
大体ヒューズの持って来た薬だ。信憑性など…………無いとは言い切れないか…………
大きく息を付き、ロイは投げ出したように背凭れに深く身を沈めた。
「……俺は何をやっているんだ……」
馬鹿馬鹿しくて、思わず言葉を漏らす。
いい加減仕事をしようとロイが立ち上がり掛けた、その時。
「ぅ…ん…」
小さくエドが呻いた。
作品名:rose'~prologue~ 作家名:ゆの