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かなや@金谷
かなや@金谷
novelistID. 2154
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【壮一郎】



『ね、壮一郎』
『壮一郎はさ……』

 宣野座のその言葉にピクリと公麿が反応した。
「あの……、いつからその名前呼びに……」
 三國のことを確か宣野座も『三國さん』と呼んでいたはずなのに、いつのまにか『壮一郎』に変わっている。いったいなにがあったのかと問えば、宣野座はにっこりと微笑んで……
「今からかな? ほら、壮一郎が機嫌悪くなるよね。それに君も嫉妬してくれるからさ」
 つんと、宣野座の白い指先が公麿の頬を突くと、膨れた頬が小さく破裂した。
「なにをしているんだ」
 不機嫌そうな三國が余裕のない声でこちらを睨んでいる。ビクっと公麿は身体を震わせるが、宣野座は気にせずに楽しんでいる。
「そっそっそそそそそ」
 宣野座の余裕も腹立たしいが、言わせるままにしている三國にも少し腹が立った。だからこそ、公麿も『壮一郎』と呼んで見たかった。
「どうした?」
「そっ、そう、そう…… そうめん食べたいっ」
「暑くなってきたからねー」
 軽く肩を叩く宣野座のウィンクに、この男は自分がやりたかったことを知っているのではないかと思うが結局果たすことは出来なかった。
「素麺か、貰い物があると聞いたな、持ってこさせよう」
「いらない物あったらさ、物資にするから寄付してよ」
「判った」
 秘書に連絡を取る三國の側で話す宣野座とのやりとりを見ると、生々しいのだがどこかほのぼのとしていてこの二人の間にあるものをどうしても訝しく思う。
「お前も持って帰るといい」
 買い与えられるのは嫌だと主張する公麿との妥協点として、三國は最近こうして物をくれることが多い。それも気が引けるのだが、今回はおそらく本当に余り物なのだろうなと思うのでありがたく頂いておく。
「なんかピンクのって嬉しいですよね」
 縁側で日本庭園を眺めながら三人でつるつると素麺を啜りながら公麿は呟いた。その言葉にピンクに染まった素麺を三國は必死に公麿の器へと運んでいく。
「ピンクの素麺食べる人ってえっちだって言うよね」
 そのソースはどこからなんだ。と思わず三國に言われながらも囁かれた宣野座の言葉に公麿は顔を赤く染めた。
「そ、そんなことは思っていないからな」
 それはフォローなのか判らないが、そう呟き肩を叩く三國を見上げながら公麿は小さく声をあげた。
「えっ、えっちなの……嫌なのか?」
「いっ、いや、嫌ではない、嫌ではないのだが……」
 同じ顔を赤らめて焦り出す男を公麿はじっと見つめている。その二人の間に入るように背後から二人の肩を宣野座は抱くとこう囁いた。
「このおじさん、案外むっつりだからさ……」
 大丈夫だよと微笑む宣野座の肩を三國の掌が掴んだ。
「誰がむっつりだ」
「違うの?」
 怒気溢れる三國に動じることなく見上げる宣野座の表情には余裕すらあり、入り込めない雰囲気となによりも否定したい言葉に公麿は口を開いた。
「三國さんはおじさんじゃねーよ、まだ……」
 自らの呟きに頬を染める公麿に釣られるようにして三國もまた顔を赤く染めている。その二人を笑いながら宣野座は見つめるとこう続けた。
「じゃあ、ピンクのを食べるのは壮一郎ってことかな? ね」
 そう背中を宣野座に押されて、初めは意味が解らなかったが、公麿は自分の器に入れられたピンクの素麺をあーんと三國の口許に運んだ。
 呆然としていた三國は漸く理解したのか、ゆっくりと口を開き素麺を啜っていく。ピンク色の麺から滴る露が顎を濡らしていく、その濡れそぼった髭を唇でそっと吸い上げた。
「きっと真朱食べたがるだろうな……」
 つるつると三人で素麺を食べながら公麿が呟いた。
「君のチャーミングなアセットは麺類が好きだしね」
 宣野座から貰ったカップ麺も真朱は嬉しそうに食べていた。きっと素麺もカップ麺と同じような物として、美味しそうに食べるだろう。
「そうだ、あっちで流し素麺しないかい?」
「…………。」
「えっ…………」
 突然な宣野座の提案に三國と公麿は顔を見合わせた。
「ほらさ、あっちなら色々簡単だろ? なんなら僕のカリュマに竹持って貰えばいいしね」
 水はどうするんですか?と思ったが、なんとでもなりそうな所が金融街にはあった。確かに、その宣野座の提案は楽しそうだった。きっと真朱が喜ぶだろうと思うと楽しくなってくる。
「なら、俺は浴衣を用意しようか、勿論お前のアセットの分もな」
 Qの分も用意するしなと三國の言葉に、公麿は嬉しそうに頷いた。
「僕のカリュマのもあるよね?」
 その宣野座の言葉に誰も答えを用意できなかった。


【終】
作品名:C+ 作家名:かなや@金谷