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【最近よく来るね?】
「余賀君さ、最近やたらと通ってない?」
公麿の後をついて回るように宣野座が声を掛けた。ここは、三國さんの家の前、行きたいと連絡すればいつでも迎えがやってくる。いつもそれを断っているけど、むしろバイト帰りなどを待ち伏せされていることが多いが、今は自分から約束を取り付けてしまう。
もう嬉しそうに、その顔を歪ませて喜び髭を弄ぶそのだらしない表情を見ると嬉しいような、申し訳ないような気持ちになる。車に荷物を積んで貰い、ついでに現れた宣野座も乗り込んだ。現在は、そんな状況だった。
「三國さんの家、乾燥機あるから……」
梅雨、長雨で洗濯物が乾かすことが出来ない公麿はありがたく三國家の洗濯機を使わせて貰っている。コインランドリーが近くにはあるが、それまで行くのが大変でありせっかく洗った服をまた雨で濡らしてしまった経験から、この送迎付のランドリーを利用している。
「あー、あの洗濯機無駄にならなくてよかったね」
「どういうことだよ?」
宣野座が楽しげに口を開いた。
「三國さんはさ、洗濯機使ったことなくてね。確か、あの時洗剤と柔軟剤間違えたよね」
「いいだろう、そんなことは……」
「そうなんですか……」
食の不一致という理由で別れたらしいかつての恋人同士は、啀み合っているのか楽しんでいるのか判らない会話を続けている。そのフランクな話しぶりを見ていると、現在恋人の自分とはまったく扱いが違うと公麿は思うのだ。
どこか三國からは遠慮のようなものを感じるのだ。大切にされているのは判るのだが、もう少し強く出てきてもいいと思うのだ。それとも、自分から行くべきなのだろうかと最近悩んでいる。
「なんでもかんでもクリーニングしてたからさ、僕が洗濯の仕方教えたんだよ。洗濯機ってその時のでしょ」
「ああ」
二人の会話から漂ってくるかつての甘い関係の名残を聞いているのはそれなりに辛い、宣野座は楽しげにそれを語り三國は相変わらず渋い表情で聞き流している。だが、時より公麿を気遣っているのか優しい眼差しを感じる。
「パンツ、下着までクリーニングに出している時はもうどうかしていると思ったね」
「下着まで…………」
ついその言葉に反応してしまった。下着までクリーニングに出しているとか尋常ではない。あのパンツ一枚に掛かるクリーニング費用ならば、公麿が穿いている下着を複数買えるはずだ。
「あの三國さん……」
「どうした?」
「まさか、シーツとかって……」
「あっ、クリーニングに出してるよね?」
「そうだが……、それがどうかしたか……」
その瞬間、公麿の顔は真っ赤に染まった。全身に震えが走る。あの、二人分の体液で汚れたシーツをクリーニングに、他人に洗わせているとか理解できないのだ。なによりも、何も知らなかった公麿は……
「俺、受け取っちゃいました……」
クリーニングを一度受け取ったことがあるのだ。配達の人間が内容を理解しているとは思わないが、あのシーツの汚れをどう思うのかと考えるだけで恥ずかしくて仕方がないのだ。
「まあ、でもさ二人分だなんて判らないしちょっと量が多いな。くらいじゃないのかな」
爽やかに微笑む宣野座の言葉は、もはや公麿にはなんの慰めにもならなかった。
その後、シーツだけは洗って下さいと、クリーニング禁止令を公麿が提案したことは言うまでもない。
それ以降、三國邸のベランダに物干しが備わりシーツを干す三國の姿をあったという……