罪のあと
花村は、ひどく霞む視界の中、そっと手を伸ばした。
融けた雪の付着する頭は、驚くほど冷えていて、水滴を散らす様に髪を掻き回し、そこに鼻先を埋めた。
この痛みを分け合って、温もりを共有出来たなら、俺たちは同じになれるだろうか。
「犬みたいだな。」
「わん。」
「ははっ、ノリいいね。陽介、こっち向いて。」
「んだよ。」
久しぶりに聞いた笑った声が嬉しくて、つい乗って返事をしたのが恥ずかしくて、ぶっきらぼうな返事になる。
顔を上げた途端に鼻頭をピンと弾かれて、花村は反射的に目を閉じた。
間を置かずに瞼を伏せた先もふっと翳って、それから、口元に温かな感触が落ちた。
それがなんだか、判らないほど馬鹿じゃない。
驚いた花村が、目を開いたすぐ前に、相棒の顔があった。真剣な顔に冗談も言えず、咄嗟に身を引いて逃げる花村の腕を取って、彼が再び口付ける。
手首を掴む手の熱さに驚いた。それが一層花村の胸を締め付けて、困惑させられる。そうこうしているうちに、唇を割って舌が入ってきて、花村は肩を揺らした。
「――…っお前、なんなの?」
口が一旦離れると、花村は眉間にしわを寄せた。文句を言うつもりの声は、震えてしまって格好がつかなかった。
こんな時にこんな事をされたら、もうどうしようもない。
「俺のことダメにして楽しんでんのかよ。」
「?」
追い込まれて、泣きそうになるのをぐっと堪えながら、花村は観念した。
「俺、もう…お前がいなけりゃ生きていけねぇよ…」
「上等。」
言葉とともに抱き締められる。そう言えばこの場所で、前にもこんな事があったなと思った。
(俺こんなんされてばっかだな。)
相棒の背に手を回して抱きしめ返すと、さらに強い力が返ってきた。
「寒い…」
花村の小さく漏らした言葉に答える代わりに、相棒は首筋に顔を埋めて痕を残す。
温かさとチリッと痛む感触に、目の奥が熱くなった。
「寒い」
もう一回続けると、位置をずらしてもうひとつ、赤く痕が残る。人の温もりがこんなに心を融かしていくものだと、初めて知った。
「寒い、寒い、…寒いんだよバカッ…」
「……、ごめんな。」
何も言わずに抱きしめる相棒に、ずっと詰まっていた言葉が出て、花村は涙を止める事が出来なかった。
「傍にいるよ。」
たとえそれが不可能だとしても。
今の花村には、その言葉だけで十分だった。
喉の奥を熱い何かがこみ上げて、花村は優しく自分を抱く腕にしがみ付いて泣き続けた。