脳残滓
術中八景
背凭れに身を預ければ、乾いた木がキイと音を立てる。
打てば響く、とは何と単純明快で心身爽快、心落ち着く話だろう。
だが残念ながら、自分はそんな短絡軽微なものには微塵の興味もない。自らの持てる才を遺憾なく発揮し尽くすには、そんな思案の一つも要さない薄弱なものなど眼中に入る由も無いというものだ。
が。
そうやって、警戒し相手を据え睨み裏の裏の裏を探る事を常としていると、逆に単純至極な事が理解できない、或いは予測できなくなるものだ。あの龍髭の年齢不詳変態軍師がそんな事をほざいていた記憶がある。
何でも、敵国の軍師の妻……それもかなり年若い……に横合いから喧嘩を売られた、とかどうとか。
「そんな隙を見せる方がどうかしているわ、馬鹿めが」
今頃お人よしの君主とそれに付き従う将の相手に追われているのであろう男を思い浮かべ、伏せた瞼の裏に浮かぶ背中に小言を垂れた。
仕事の合間の寸暇を、自らが最も好まぬ望ましい形で過ごしていると、気づかないままに。
※意識しちゃってる時点で掌の上。
※文中に創作四字熟語が出てきてますがご愛敬で…←ぇー