脳残滓
死ニ至ル病
患ってしまいました、と告げると、相手はさしたる反応も示さなかった。
信じていないのか、またはとうに知っていたのか。杳として知れないそれを探る手だてを、彼は与えてはくれない。
「どうも、癒える事はないようです」
今度は、僅かに反応があった。しかし彼は振り向いてくれない。こちらに背を向けたまま、書に視線を落とすばかりだ。
「安心しろ、私も患っている」
「えっ」
次に発された言葉は思いもよらぬ内容で、驚愕が口を衝いて出た。そのような話は、間者からも伝え聞いていないのだが……まさか。
「生まれたその時から、ずっと患っている」
「……それは、存じ上げませんでした」
がたん。椅子が蹴倒される。彼が立ち上がったのだ、それはそれは乱暴に。
「無様に先にくたばるがいいわ。精々、あちら側の事情を調べつくして脳を沸騰させておけ」
書を掴む手が震えている。指先に力を込めすぎて、白く変色している。力に負けた表紙が、不格好な皺にまみれていた。
「あちらで、質問攻めにしてくれる」
「……かしこまりました」
人は生まれたその瞬間、死を約束される。それが何時訪れるかなど、誰にも分からない。それをかの人は、それを病だと表現した。
人は生まれ持って、死という病に冒されているのだ、と。
……それに気付いたのは、もう二度と彼に会うことを許されぬ、最期の地であった事だけが、心残り。
※汎用人型決戦兵器が頭に浮かんだ方は素直に挙手を←
※相変わらず、名前が出てこない……凹●