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愛の言霊

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「や、やだなー私ったら、こんなガキまで発情させちゃうなんて、どんだけよ! ホント、美人は罪ね!
でも駄目よ、駄目ったら駄目!」

 きゃあきゃあ良いながら自分の世界に入る彼女は観ていて飽きない。
 だからからかってしまったり、時々本気で心配してしまったりもするのだが。

「でもさ、ねーさん。俺も一応悪魔使いだぜ? さくまさんと同じようにさ、あの芥辺さんに才能認められ
て、此処に置いてもらってんだぜ? 俺お買い得じゃね? 人間にしちゃ良い物件だと思うんだけど」

「…ま、まあ、そりゃ、そうだけど」

「もっと優しくしてやるからさ、芥辺さんとの契約破棄して、俺と契約しろよ。百年も待てねーけど、何時
になってもいいから」

「な、何言ってんのよ、あんた…」

 少年は、どうして自分がそんなことを言うのか解らないまま、アンダインに笑いかけた。
 無意識に、笑っていた。

「そーだな、あと十年か二十年ぐらい? 俺が大人になって、ねーさん好みの男になってからでもいい
からさ。や、好みの男になってやっからさ。そんときは俺の女になってよ、ねーさん。あんたきっと騙さ
れてばっかだろうからさ。俺が嫁にもらってやるよ」

 普段は憎たらしいだけの光太郎が、心の底からの、少年らしい笑顔を見せた。
 その言葉に偽りはないだろう。
 グシオンは口を噤んだまま、息を潜めて光太郎の背中に張り付いて、事の成り行きを見守っている。
 アンダインは、全身の血が顔に集まったのではないかと思えるぐらい真っ赤になった顔をそのままに、
口をぱくぱくさせていた。
 そんな彼女の周りには花が飛んでいるように思える。

 女悪魔は、大きな丸い目を右に左に上に下にとせわしなく動かしながら、指に挟んだ煙草をもみ消して。

「そ、そんな甘い言葉に引っかかるような女じゃないわよ…! で、でも、そこまで言うなら、あんたが
可哀想だから、い、一応考えといてあげなくもないわ!」

「はは、ねーさん可愛いな」

 いつもそんだけかわいげがありゃあ良いのに。なあ、グシオン? 
 少年は、年齢不相応な男らしい笑みを見せると、背中にくっついてピクリとも動かない自分の悪魔に
向かって言った。

「あ、前は食えって言ったけど、この記憶は絶対に食うんじゃないぞ。ねーさんに忘れられたら困るか
らな。むしろお前も証人になれよ、グシオン? ああでもお前忘れっぽいから駄目かなー」

 人間の本気など、そう思ってはいたけれど、契約主の言うことは聞かねばならない。
 だからグシオンはキキキ、と猿の声でイエスという答えを返した。

 ソファに腰掛けたアンダインは、セミロングの髪の毛先を指でいじりながら、繰り返し、人間のマセガキ
が、こんなクソガキに、どうせ魅力的な私とやりたいだけでしょ、ほんとイヤになっちゃう、などと小声で
悪態をついていた。
 けれども、その声はとても幸せそうだ。
 ひとしきり口汚い言葉を吐いたあと、ちらりと目線を上げて、彼女は光太郎を観た。

「……ほ、絆されたりなんかしてないけど、念のために聞くわよ。そこまで言ったからにはあんた、私が
振り向くまで待てるんでしょうね? 芥辺さんのこと忘れるまで……心変わりしたら、殺すわよ?」

「いいけど。てか俺がここまで口説いてんだから、今すぐ忘れろよ芥辺さんのことなんかー」

「駄目よ。私が一途だという事をふまえても、悪魔は疑り深いの。人間の言うことなんか簡単に信じら
れないわよ」

「はー。そりゃ俺らの言葉じゃね? 悪魔なんか信用できねって。ねーさん本当に芥辺さんの事忘れ
てくれるんだろうなー?」

「…あ、あんたが良い男になったらね!」

「なるよ。俺、自信あるぜ? なんだったらさ、グリモア無しで個人的に契約したって良いぜ?」

 グリモア無しでの契約が如何にハイリスクであるかは、いつぞやの事件が切欠で皆が知っている。
 それを解っていて、少年は言った。

「…! ば、ばかじゃないの!」

 三千年以上を生きても、悪魔でも、やはり女は女だ。求められれば嬉しいのだ。
 芥辺に仕え、ほぼ無償で使われる事もイヤではないようだが、やはり彼女も見返りは欲しいのだろう。

(べっつに、可哀想だから夢見させてやろうとか、俺が寂しいからとか、そんなんじゃねえから。安心
しろよ、ねーさん)

 どんな理由を並べようと、どれだけ考えようと、やはり揺るぎない好きという気持ち。
 理想の恋など待っててもしょうがない。
 男と女がいるのだから、確かな恋を作ればいいのだ。
 例え種族が違っても、通じあえるのなら。
 何より、こうして出会った事には意味があるのだろうから。

「悪魔でも、ぶさいくでも、嫉妬深くてウザくても、ヒステリー気味でも、歳喰ってても、なんでもいいよ。
俺、あんたが好きだよ、ねーさん」

 光太郎のまさかの告白の連続に、元々幸せに弱く、報われることに縁遠いアンダインの脳は限界を
越えてしまった。
 彼女はあわあわしながら立ち上がると、それ以上言わないくていいわよ! 解ってるわ、私が魅力的
だってことはぁあああ! 恥ずかしいガキなんだからもぉおお! と言って、魔法陣の中へ消えてしまっ
た。
 悪魔とは思えない挙動不審加減に、光太郎は「観たかよ、グシオン! ねーさんってば可愛いよなあ!」
なんて、腹を抱えて笑う。
 グシオンはキキ、と鳴いて同意を示しつつ、「ありゃあ照れちまって暫く出てこれねえだろうなー」と苦笑
した。
 人の言葉も喋れるけれど、敢えて使わなかった。

 まだ短い期間しか過ごしていないが、存在の諸々が不詳の芥辺という男も、佐隈りん子という一見普通
の女子大生も、この堂珍光太郎という脳内桃色な不健全男子中学生も、大概な「悪魔たらし」である事
が解る。
 悪魔は禍々しい者として一般的には忌み嫌われる存在であるが、その実、意外に純粋な生き物だ。
「この人間なら」と思えた時には、利益よりもその存在を尊重することだってある。
 ごく稀にではあるけれども、異種族と結ばれることも、無いわけではないのだ。

(こりゃあ、ハイミスで行けず後家と名高いアンダインの奴も、そのうち花嫁衣装着れるかもしれねえ
なあ。よかったよかった)

 同族とはいえ、仲間にも基本的には厳しいはずの悪魔がそういう事を考えてしまうあたり、もう自分も
人間に毒されているのかもしれないと、猿の悪魔はぽりぽりと頭を掻いた。
 不快感は特に無かった。

「お前の腹、いっぱいにしてやれなくて悪かったな、グシオン。また今度、誰かの記憶、めいっぱい食わ
せてやるからよー」
「キキー」

 珍しいアンダインの姿、そして少年の幸せそうな顔を見て、贄のことは今はまあいいか、と思えてしまう
位には、猿の形をした悪魔も人間界と人間の感覚に慣れてしまったようだった。

 少年と一匹の悪魔しかいない、休日の昼下がりの事務所。
 騒がしくなるのは、事務所の主が帰ってきて、別の悪魔使いが仕事をしにやって来る数時間後だ。
 それまで眠っていようかと、少年は、先程まで愛しい女悪魔が腰掛けていたソファに移動し、寝ころん
だ。
作品名:愛の言霊 作家名:東雲 尊