撫でる/触る
撫でる
きっと彼女は誰に対してもそうなのだろう。芥辺は悪魔たちの世話を焼きながら、
楽しそうに笑っている佐隈の顔をいつもと変わらない表情で眺めていた。
心は少しばかり、いらつきをにじませてはいたが。
あの馬鹿な悪魔たちは必死に佐隈の気を引こうとしているのに、
それにまったく気が付かない彼女の鈍感さには時々、
この自分でさえ感服するものがある。
(まぁ・・・だからこそ、悪魔使いの才能があるのかもしれないけど)
芥辺はため息を吐きながら自分の思考からふと、また現実に意識を浮かべた。
その時、アザゼルとベルゼブブが佐隈の長い髪に顔を埋め、
その短い手でいじくっている姿が目に入る。
芥辺は頬を引きつらせると、佐隈に纏わりついていた悪魔二匹を、
近くにあったモップで叩き落とした。
「いったぁぁぁ!?なんてことしますんアクタベはん!」
「そうですよ痛いですよ!!この、」
「うるさい」
ベルゼブブが言いかけているのを遮って一睨みすると、
アザゼルとベルゼブブは体を硬直させあからさまに視線をそらす。
芥辺は鼻を鳴らすと、瞬きをしながらこちらを見ていた佐隈の頭に手を置いた。
少し絡まっている髪の毛を不器用なりに梳いてやる。
「面倒だったら構わなくていいから」
「え、あ、はい・・・?」
きっと、この人は意味などよく分かっていないのだろう。
(独りよがりなのかも)
それでも、いいと思えてしまっている自分にあきれながら、
芥辺はアザゼルが茶化しをいれてくるまで、佐隈の髪をなで続けた。