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仁美@hitomi
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蹴り飛ばされた背中

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「あーかやっ」
「ゆ…きむら部長…」


名前を呼ばれて振り向くとあの魔王幸村部長が立っていた。


「やだな、部長なんてやめろよ。俺はもう引退したんだからさ」
「えっ…せいいち!」
「…違う!なんで呼び捨てなの!バカなの、ワカメなの、死ぬの。」
「やだ!死にたくない!幸村先輩!」
「うん、それでいいよ」


ちょっとした冗談ごときでテニス生命を絶たれなくて良かった。実に。それと俺はワカメじゃないッス。


「ねえ、ところで赤也はなにしてんの。」
「えっと、今h…」
「ああ、部誌書いてんだね」
「まあ、ハイ。」
「それ超面倒だよねー」


ハハハ、と幸村部長は笑った。そういえばこのひと部誌書いてなかったんだった。真田副部長や柳センパイに書かせてたんだった。しかもあの人たち超達筆で難しい言葉ばっかり使うからなに書いてあるのかわかんねーんだよな。

でも俺は達筆じゃないから。筆圧が濃いからシャーペンの芯の粉が右手にすれてにじんで黒くなるし。
文章もこれはヒドイ、と自分で思うレベル。こないだ押し入れから出てきた唯一賞を取った小2の時の読書感想文と何ら変わりないレベルだった。

でも、できないものはできない。


「ゆ、幸村センパイ…」
「なに?」

こんなこと言ったら怒られるかな、なんて思ったけど三年分くらいの勇気を総動員して言葉を発する。


「やっぱり…俺には部長なんて…できないッス」
「できるよ。赤也はちゃんとできる」
「できない!」
「できる」
「でき、ないってばぁ……っ」
「赤也…なんで泣くんだよ」

なんで俺は泣いてんだろう。何が悲しいの、何がつらいの。俺にもわかんないよ、幸村部長。
「だって赤也は、嫌いで書きたくもない部誌、ちゃんと自分で書いてるじゃん。俺は書きたくなかったから真田や蓮二に任せちゃったの。」
「うん…嫌い。」
「部誌なんかこんなんでいいんだよ!」

貸せ!と言ってシャーペンと部誌を俺から奪い取り部誌に〔楽しかった。しんどかった。明日も頑張る。常勝赤也!〕と俺より汚い字で殴り書いて返してきた。


「予想以上に汚いね、部長」
「何か言ったかお前?」
「いいえ、何も。」
「だいたいさ、部長だけが部誌書かなきゃダメっておかしくない?みんなで回せばいいじゃん、ね」
「そうッスよね!俺も思ってました!そうだ、みんなで回せばいいんだ!」
「明日みんなに提案してみろよ」
「ハイ!そうします!」


バカだな、俺は。なんで今まで気付かなかったんだろう。明日みんなに言ってやってもらおう。絶対に。だって俺は部長なんだから。


「赤也を部長にって俺たちが選んだんだからできないわけがないだろ」
「なんで俺を部長なんかにしたんスか」
「んー、なんとなく、だよ。」
「俺は五感も奪えないよ」
「俺様の技が貴様にできるはずないだろ」
「そうッスよね」

なんなんだ、このひと。まず俺様とか貴様とかどこの跡部様だよ。励ましたり奈落の底まで突き落としたり本当意味わからん。



「練習メニューも…みんなの体力考えられなくてハードになっちゃうし。怪我させちゃうし。試合の時間もみんなに正しく伝えられないし。ストップウォッチが壊れても俺には直せないし。もう全部わかんないんです。」
「俺たちが選んだ理由は赤也がそうやって自分のできないところに気付いて反省できるからだ。」
「そうだったんスか…」
「まあ…たぶんそんな感じじゃないの」
「適当かよ!」


本当なんなのこのひと。でも幸村部長見てたらこんな人に部長ができて俺にできないわけないじゃん、とか思えてきた。ありがとう幸村部長。



「でも。センパイたちがいないから俺は寂しいんス。すっごく寂しいんです」
「一年したら毎日会えるようになるだろ」
「はい…そうッスよね!!!センパイたちみんなテニス部入ったんスよね!!!」
「そうだよ」


あと一年で俺も高校生になるからまたセンパイたちとテニスができる。そう思ったら一年なんて早いもの。


「じゃあ…俺はそろそろ帰る」
「ああ、はい!わざわざ来てくれてありがとうございました。」
「うん、俺も久しぶりに赤也と会えて楽しかったよ」
「また来て下さいね!」
「え、なんで」
「えっ?」
「なんで俺がわざわざ来なきゃいけないの。お前が来いよ」
「あ、はい…」
「なに?いやなの?しぬ?」
「いやいやいや!!!!!」
「うん、それでいいよ。じゃあね、赤也」
「サヨナラッス!!!」



ふふふ、と笑って帰って行った。久しぶりに会えて嬉しかった。やっぱり部長は部長のままだった。あと一年したらあのセンパイとまた毎日テニスができる。真田副部長…とも柳センパイとも丸井センパイとも仁王センパイともジャッカルセンパイとも柳生センパイとも!!!!もっともっと強くなって絶対に負けない。


さあ、帰ろうと思って部誌とカバンをもって立ち上がろうとしたら凄まじい足音がこっちに近づいてきて凄まじい勢いでドアが開いた。


「あ、赤也。部誌書き直せよ。そんなんでいいわけないだろ。柳が成績心配してた、電話してやれ。丸井がまたゲーセン行こうって言ってた。常勝赤也!!!バイ!!!!」


凄まじい勢いでしゃべり倒して凄まじい速さで帰って行った。




「部誌…」







(本当になんなの、あのひと)

-END-
      (あとがき→)

作品名:蹴り飛ばされた背中 作家名:仁美@hitomi