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「ティエリア」

宇宙を背に立つ少年に、彼は声をかけた。
唐突な呼びかけに、ティエリア・アーデが振り返る。
無言のまま、見つめあう。
泣いてはいなかった。
アレルヤは思う。
展望室でその後ろ姿を見た時、ひょっとしたらティエリアは泣いているかもしれないと思った。振り返った目に赤く泣きはらした痕は欠片もなくて、その強さがひどく痛々しかった。

「どうしたの?」
「君こそ」
「さあ?」

問いかけをはぐらかせば、ティエリアはわずかに顔をしかめた。
君を怒らせる気はないよ、ただ今日の僕はうまくやれないんだ。
アレルヤ・ハプティズムは言い訳のように心の中でつぶやいた。うまくやれないのは、ティエリアも同じだろう。そしてティエリアもまた、自分がうまくやれないことに気づいているだろう。
だから、これはお互い様だ。そう思う。

「ティエリア」

眠れなかった?と聞くのはやめた。
何を言っても、何をしても、ここにいるだけで、いや時間が過ぎるだけで傷ついていく。

「眠らない?」
「どこで?」
「君の部屋で」
「アレルヤと一緒にか?」
「いいかな?」

無理やり笑って、頼む。
ティエリアは、一人で眠る気にならなかった。だからここにいた。そうアレルヤは思う。もう日付が変わって数時間がたっている。これ以上睡眠時間を短くすれば、明日に響くだろう。
いや、日付が変わったからこそ眠れないのだろう。
アレルヤはそうだった。
日付が変わる前から心が騒いで、眠ってしまおうと目を閉じたのに、無情にも日付が変わった。
そして、眠れなくなった。どこにもいられなくて、ふらふらと部屋を出た。
ティエリアを見て、少しだけほっとした。
自分だけじゃなかった、眠れないのは、胸が痛いのは自分だけじゃなかった。一人たたずむその肩に、手を伸ばしたくなった。

「だめだ」
「どうして?」

固い声で否定したティエリアに、どうにか笑ってもう一度問いかける。
ねえティエリア、君だって一人でいたくないよね? 今日が何の日か、知っているよね? 今日ぐらい、一緒にいたっていいと思うんだ。
口をつぐんで、ティエリアは何も言わなかった。
その視線は足元をさまよっていて、それは日ごろのティエリアらしくなかった。

「言ってしまう?」
「……意地悪だな」

死なないで、遠くへ行かないで、また声をかけて。
届くことも叶うこともないが、
ティエリアが否定しなかったことに、少し驚く。同時に、胸が苦しくなった。
一人じゃ、ない。
泣きたいのは、自分だけじゃない。

「意地悪だったかな。じゃあ、ひとつ教えてあげるよ」

きっと、今日だけは泣いてもいい日だ。
一年前、アレルヤは泣かなかった。ずっと抑えていた。ティエリアは一年前に泣いて、けれど一年間抑えてきた。

「僕もね、恐ろしいんだ」

声が震えそうだった。
作品名:year ago today 作家名:mao