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思い出す。一人きりの部屋を。
ベッドはいつまでたっても冷たくティエリア、もう誰も隣にいないことを思い知らされた。朝が来ても、おはようと言う人がいない。言ってくれる人がいない。
かつて言ってくれた人は、もう二度と戻ってくることはない。
そのことを強く思い知らされて、部屋を飛び出した。

「忘れられない、置いていけない。……だから、ティエリアの部屋なら」
「自分の部屋では、彼の匂いが残っている気がする?」

真っ直ぐな目で、ティエリアが言った。

「……意地悪だね。僕は、言うつもりはなかった」
「僕の察しがよすぎたか」
「さすがティエリア、だね」

わずかに、ティエリアが笑う。それはすぐに消えてしまったが、アレルヤが平静を保つのには十分だった。
いなくなった彼と過ごしたのは違う部屋だったが、彼の気配がした。思い出が多すぎて、溢れてしまったようだった。
苦しくて、このままではダメだとわかっていてもどうにもならなかった。だから、部屋にいられなかった。


「眠ろうか?」
「ティエリアの部屋で?」
「ああ、僕の部屋で」
「いいの?」
「君が先に言った」

ティエリアが、歩き出す。そしてアレルヤの隣に立った。本当に、二人で眠るつもりなのだろう。
展望室のドアを開けて、二人で歩きだす。夜の静寂が、二人を包んだ。

「忘れられる?」

足元を見たまま、アレルヤは問う。
忘れたくても、忘れられなかった。
苦しい気持ちを、抱えたままでは進めなかった。かつて隣にいた人のことを忘れることはないが、足を立ち止まらせようとする苦しさだけは忘れてしまいたかった。

「二人で、言えば」
「さようならってね。ティエリアは、言った?」
「アレルヤ」
「…僕はまだ、言っていないんだ」

僕もだ、とティエリアは言わなかった。
それがティエリアの優しさなのか、あるいは苦しくて言えなかったのか、アレルヤにはわからなかった。
けれど今はどちらでもよかった。
眠りに付く瞬間、誰かといたかった。
一人じゃないと思いたかった。
彼を失った痛みを、一人で受け止めたくなかった。

手を、つなぐ。
どちらともなく、手を出した。
手のひらに感じる他人の体温が、心地よかった。きっとティエリアも同じだろうと、思う。

ぎゅっと、思っていたよりも強くティエリアが力を入れた。

「ロックオンがいなくなって、一年だね」

ティエリアの手を、強く握り返した。
作品名:year ago today 作家名:mao