天つ川
「あ――すいません!そんなつもりで話を聞き出そうとしてた訳じゃ――」
「わかってるよ。……わかってる」
正守はぽんぽんと閃の頭を撫でるように叩く。その手のやさしさの持つ意味を考えて正守をまっすぐ見据えると、微かに微笑むのが見えた。
「お前がそんな風だから、だからこそ俺は――」
そこで正守は言葉を句切る。
「?」
目線で先を促すが、正守は少し照れくさそうに閃から目線を外すと、頭に載せた手を引っ込めてしまった。かわりに閃の手を握る。荷物を持っていないほうだ。
「烏森支部まで帰るぞ。送る」
「え、でも、手――」
繋いだままの手をどうしたらいいのか判らずにいると、正守はその手を握ったまま引っ張って歩き出す。
「本当はな、閃」
「あ、はい」
「今日、なんて言い訳してお前を連れ出そうか、考えてた」
「!」
閃が驚いて目を丸くすると、正守が肩越しに目線を投げかけてくる。いたずらっぽい顔をして。
「でもやめた。変な奴はついてくるし、幸先がよくないからな」
「はい……」
気遣われて嬉しいのと、二人きりになれなくて寂しいのとで身体が微かに疼く。
「だから今度は、お前のほうが俺を呼び出してくれ」
「えっ」
「いつ、どこで、どんな風にして会うか――決まったら携帯に連絡をくれ」
携帯、と言われて胸ポケットを覗き込むように確かめる。確かにそこに携帯電話はあった。
「お前が決めるんだよ、閃」
正守は相変わらず笑っていて。
「はい……」
消え入りそうな声で、閃はせいいっぱいそれだけを口にした。
<終>