Echo /GundamOO
家に帰ると部屋に明かりがついていて、中から談笑している様子が伺える。それもよく知った声だ。
一人は放蕩の弟、双子のハレルヤ。するともう一人は恐らくライル・ディランディだろう。二人はいつからか、よく気が合って一緒に連む事が多くなっていた。
「ただいま」
そっと声をかけると談笑がぴたりと止んだ。
「よっ、邪魔してるぜ。」
軽快に手を上げて挨拶をしてきたのはライルの方だった。深いエメラルドグリーンの瞳がアイルランドの血を引いている事を暗に物語っている。
彼はとても気さくな人間で、人懐こく、それでいて何処か翳を含んだ独特の笑みをこちらに送っている。僕はそれに対して軽い会釈を返すに留めた。
僕は彼の事が苦手だった。それは決して彼のせいではなく、僕の独りよがりによるものだ。
「どうしたの、ハレルヤ。」
「なんだよ久しぶりの兄弟の再会の割には冷たいじゃないか。」
冷たいのはどっちだよ、と言いかけて呑み込む。
ほんの数年前まで、僕らはその双子という性質上、まるで二人で一人であるかのような生活を送り続けてきた。だが実際は、人付き合いが苦手な僕が社交的なハレルヤに全てを依存していたと言ってもいい。そのせいであのちょっとした────だが僕としては悲劇としか言いようのない────事件が起きた訳で。それ以来、僕もハレルヤも付かず離れずの生活を送るようになった。
「なぁ、お前んとこの兄貴は元気かよ。」
唐突にハレルヤがライルに聞く。よりにもよってなんて事を。僕への当て付けなのは目に見えている。
「ん?ああ、しばらく会ってないけど、元気にやってるんじゃないか?」
実はライルにも彼にそっくりな双子の兄が居る。名はニール────僕の初恋の相手だった。
「あの時はおかしかったなぁ、俺とアレルヤを間違えて」
なんでよりにもよって今その話を。わざわざその為に来たのかと勘ぐりたくなる。
「やめてよ、ハレルヤ。その話は……」
ああ、悪い悪い。と、さも悪気がなさそうに陰湿な笑みを浮かべながら、僕と同じ顔でかんらと笑う弟が憎かった。
「なんの話だ?」
「ライルは知らねぇもんな。」
ライルは親元を離れ寄宿制の学校に入っていたので当時の事は知らない。
そしてライルの卒業と入れ替わりに、今度はニールが出て行ってしまったので、ライルとニールの間は驚くほど接点が薄い。
「その話をするなら出ていってくれる。」
僕からの思いがけない一言に、ハレルヤは目を丸くした。
ハレルヤに対してこんなきつい事が言えるようになった自分にも驚く。
本当はいつでも戻ってきて欲しいし、ずっと側に居て貰いたい気持ちの方が強いのに、一緒に居れば必ずと言っていい程、ハレルヤの方がトラブルを呼び込む。それも僕に対する甘えだったり、愛情の裏返しなのだと思ってはみても、やはり一緒に居てはいけないのだろう、となんとなく諦観の心境に至るまで追い詰められるのが常だった。
「へぇ、随分偉くなったんだなぁ。アレルヤさんは。昔は俺が居ないとダメだったのに。」
ハレルヤは余裕綽々で皮肉を言っているように見えるけど、あれで結構傷ついているのだ、と双子の自分が一番よく分かっていた。僕に否定されたらそれこそ存在意義が無いくらいに感じていても不思議では無い。彼もまた僕に対する依頼心がすこぶる強いのだ。だからこそ僕からの注意を喚起するために、あてつけに嫌がらせめいたこともして見せるのだろう。
「誰かさんのおかげでね。僕、明日も学校あるから先に寝るよ。もうクタクタ。────ライル、ゆっくりしていって。」
そう一度に捲し立ててシャワールームに立て籠もった。
一人は放蕩の弟、双子のハレルヤ。するともう一人は恐らくライル・ディランディだろう。二人はいつからか、よく気が合って一緒に連む事が多くなっていた。
「ただいま」
そっと声をかけると談笑がぴたりと止んだ。
「よっ、邪魔してるぜ。」
軽快に手を上げて挨拶をしてきたのはライルの方だった。深いエメラルドグリーンの瞳がアイルランドの血を引いている事を暗に物語っている。
彼はとても気さくな人間で、人懐こく、それでいて何処か翳を含んだ独特の笑みをこちらに送っている。僕はそれに対して軽い会釈を返すに留めた。
僕は彼の事が苦手だった。それは決して彼のせいではなく、僕の独りよがりによるものだ。
「どうしたの、ハレルヤ。」
「なんだよ久しぶりの兄弟の再会の割には冷たいじゃないか。」
冷たいのはどっちだよ、と言いかけて呑み込む。
ほんの数年前まで、僕らはその双子という性質上、まるで二人で一人であるかのような生活を送り続けてきた。だが実際は、人付き合いが苦手な僕が社交的なハレルヤに全てを依存していたと言ってもいい。そのせいであのちょっとした────だが僕としては悲劇としか言いようのない────事件が起きた訳で。それ以来、僕もハレルヤも付かず離れずの生活を送るようになった。
「なぁ、お前んとこの兄貴は元気かよ。」
唐突にハレルヤがライルに聞く。よりにもよってなんて事を。僕への当て付けなのは目に見えている。
「ん?ああ、しばらく会ってないけど、元気にやってるんじゃないか?」
実はライルにも彼にそっくりな双子の兄が居る。名はニール────僕の初恋の相手だった。
「あの時はおかしかったなぁ、俺とアレルヤを間違えて」
なんでよりにもよって今その話を。わざわざその為に来たのかと勘ぐりたくなる。
「やめてよ、ハレルヤ。その話は……」
ああ、悪い悪い。と、さも悪気がなさそうに陰湿な笑みを浮かべながら、僕と同じ顔でかんらと笑う弟が憎かった。
「なんの話だ?」
「ライルは知らねぇもんな。」
ライルは親元を離れ寄宿制の学校に入っていたので当時の事は知らない。
そしてライルの卒業と入れ替わりに、今度はニールが出て行ってしまったので、ライルとニールの間は驚くほど接点が薄い。
「その話をするなら出ていってくれる。」
僕からの思いがけない一言に、ハレルヤは目を丸くした。
ハレルヤに対してこんなきつい事が言えるようになった自分にも驚く。
本当はいつでも戻ってきて欲しいし、ずっと側に居て貰いたい気持ちの方が強いのに、一緒に居れば必ずと言っていい程、ハレルヤの方がトラブルを呼び込む。それも僕に対する甘えだったり、愛情の裏返しなのだと思ってはみても、やはり一緒に居てはいけないのだろう、となんとなく諦観の心境に至るまで追い詰められるのが常だった。
「へぇ、随分偉くなったんだなぁ。アレルヤさんは。昔は俺が居ないとダメだったのに。」
ハレルヤは余裕綽々で皮肉を言っているように見えるけど、あれで結構傷ついているのだ、と双子の自分が一番よく分かっていた。僕に否定されたらそれこそ存在意義が無いくらいに感じていても不思議では無い。彼もまた僕に対する依頼心がすこぶる強いのだ。だからこそ僕からの注意を喚起するために、あてつけに嫌がらせめいたこともして見せるのだろう。
「誰かさんのおかげでね。僕、明日も学校あるから先に寝るよ。もうクタクタ。────ライル、ゆっくりしていって。」
そう一度に捲し立ててシャワールームに立て籠もった。
作品名:Echo /GundamOO 作家名:Anne Katie