rose'~second~
駅から続く道は、両脇に背を高くした夏草の所為で、いつもよりも狭く感じられた。
露を含んだ草の匂いが、懐かしい。
久し振りに帰る故郷の景色は、記憶の底に仕舞い掛けていた思い出を鮮やかに蘇らせた。
身を包む草いきれは、アルと駆け回った日の事を。
整備されていない、土が剥き出した凹凸のある道は、藁を沢山積んだ荷馬車に揺られ、
ゆっくりと空を流れて行く雲を見上げていた事を。
そして、向こう側に見える小高い丘は、自分達に向かって手を振る母の姿を。
「ねぇ、兄さん。」
ぼんやりと、溢れ出していた記憶に意識を浸らせていたエドに、後ろを歩いていたアルが声を
掛けた。
「ウィンリィに、何て言うの?」
現実に引き戻されたエドは、アルの言葉にがくりと肩を落とした。
ヒューズの持って来た『ロゼ』の所為で性別が転換したエドは、体に合わなくなった機械鎧を
ウィンリィに交換して貰う為に、リゼンブールへ戻って来たのだ。
機械鎧が壊れる度に、やれもっと大切に扱えだとか、私の機械鎧を何だと思っているのだとか、
スパナを振り回しながら喚き倒す優秀な機械鎧技師だと自負するウィンリィの事だ。
また一から作り直せと言うのかと騒ぎ立てるに違い無い。
しかも内容が内容なだけに、余計に気が重かった。
気だけで無く、足取りまでもが重くなる。
「・・・余計な事思い出させるなよ・・・」
ぽつりと言葉を零せば、アルは「そんな事言われても・・・」と小さく呟いた。
それから暫らく、言葉を漏らす事も無く歩き続ける。
そろそろウィンリィの家が、近くなったと思ったその時。
「・・・ねぇ・・・兄さん・・・」
再びアルが口を開いた。
「・・・何だよ・・・」
疲れたように言葉を返せば、アルは口篭るように口を開いた。
「あのさ・・・僕・・・ちょっと前から考えてたんだけど・・・」
「あぁ?」
「僕・・・兄さんの事・・・兄さんって呼んでていいのかなぁって思って・・・」
その言葉に、ぴたり、とエドは足を止めた。
「・・・はぁ?」
訳が解らないと言ったように、アルを見上げる。
「だからさ、兄さんは兄さんなんだけど、兄さんは今は兄さんじゃ無いだろ?だから僕、兄さんを
兄さんって呼んだ方がいいのか、そうじゃない方がいいのか、どっちなのかなぁって思って。」
勢い良く言葉を迸らせたアルに、エドの表情が険しくなって行く。
「ねぇ兄さん、どう思う?」
「どう思う・・・って・・・何が言いたいんだよ・・・?」
「だから、兄さんって呼んだ方がいい?それとも姉さんって呼んだ方がいい?」
瞬間。
ぶちっ、と、エドの頭の中で何かが数本切れた。
「何考えてんだお前はー!!!!!!」
「だって仕方無いだろ?!ほんとに兄さんじゃ無いんだから!!!」
「うるさいうるさいうるさーい!!!」
先程まで足取りの重かったエドの身体が宙を舞い、アルに飛び掛る。
「兄さんになんかやられないもんねっっ!!」
「んだとっ?!」
そうして散々、二人で走り回り、そろそろエドの息が切れ掛け始めたと思った時。
走り回るうちに何時の間にか辿り着いていたロックベル家のドアが、開いた。
「うるさいわね!人ん家の前で暴れないでくれる?!」
ドアが開いたと同時に怒りの言葉が浴びせられ、ウィンリィが姿を現した。
どうやら寝不足らしく、かなり不機嫌そうだ。
「あ…ウィンリィ…」
アルが小さく漏らせば、ウィンリィは漸くエドとアルに気付いたらしく、大きな瞳を見開いた。
「エド!アル!どうしたの?!」
そう声を上げ、二人に駆け寄ろうとしたウィンリィに、エドは思わず後ずさった。
そんなエドの様子に、ウィンリィの表情が険しくなる。
「あんたまさか…また壊したの…?」
エドはぶんぶんと首を振り、右腕を差し出して見せた。
「違うの?じゃあどうしたのよ?」
エドはアルをちらりと見上げ、そうしてゆっくりと言葉を紡いだ。
「…えっと…ちょっと作り直して貰いたいなぁ…なんて…」
「はぁ?」
訳が解らないと言ったように、ウィンリィは声を上げた。
「その機械鎧が気に入らないなんて言わないでしょうね?」
「違う違う!そうじゃなくて、その…合わなくなったんだ…」
再び首を振り、慌ててエドは言った。
「合わなくなった?機械鎧が?あんた、もしかして背、伸びたの?!」
そんな風には見えないけれどと続けられた言葉に、だったらいいんだけどなと思いながら、
エドは小さく言葉を漏らした。
「…その逆…」
「縮んだのっ?!」
「違うっ!!」
二人の全く意志疎通していない会話の内容に、アルは深く息を付いた。
「何よもう!はっきりしなさいよ!鬱陶しいわね!!」
いい加減溜まりかねたウィンリィはそう叫ぶと、何処からともなくスパナを取り出し、エドに
向かって投げ付けた。
頭を抱え、エドは思わず目を瞑る。
次の瞬間、ガン!と、鈍い音がエドの前で響いた。
え…?
そろりと目を開けて見ると、アルがエドの前に立ちはだかり、ウィンリィのスパナをその体で
受け止めていた。
「何やってんのよアル!どきなさいっ!」
「駄目だよウィンリィ!今の兄さんは前みたいに強く無いんだからっ!」
ウィンリィに向かってそう叫び、アルはエドを振り返った。
「大丈夫?」
「え…あ…ああ…」
アルの行動に驚きながら、エドは頷く。
「もう!何なのよ一体!何女の子庇うみたいにエド庇ってんのよ!」
「兄さんが女の子だからに決まってるだろ!」
「はぁ??」
あぁ…言っちまった…
勢い良く叫ばれたアルの言葉に、エドはがっくりと首を垂れる。
「ふざけないで!一体こいつの何処が女の子だって言うのよっ!」
ウィンリィはつかつかとエドに歩み寄り、エドの襟元を掴むと勢い良く上着を肌蹴させた。
「この真っ平の胸の何処が女の子の胸なの?!」
アルを振り仰ぎ、そう声を上げたウィンリィは、エドの胸元に視線を移した。
「・・・え?」
エドの胸には、確かに柔らかな膨らみが、あった。
ウィンリィは暫らく固まった後、エドのシャツの上から両手で胸を掴んだ。
「うわああぁぁっっ//////?!」
いきなり胸を掴まれ、エドが声を上げる。
腕で胸を押さえようとする間も無く、ウィンリィはシャツの裾を捲り上げた。
ぷるん、と。
形の良い乳房が、ウィンリィの目の前に、現れた。
「うわわわわっっっっ?!//////」
いきなり曝け出されたエドの胸に、アルが慌てふためく。
幾ら兄の身体だと言っても、女の子になってしまっている身体は流石にまともに観られない。
「ちょっ・・・駄目だよウィンリィ!!!//////」
目のやり場に困っているアルなど蚊帳の外で。
エドの胸を観たウィンリィはそのまま絶句し、そうしてゆるゆるとエドのシャツを降ろした。
「…どう言う事よ…」
俯いたウィンリィの言葉が、心なしか震えている。
「どうして・・・?何があったの・・・?」
あぁ怒っていると、エドはたどたどしく言葉を零し始めた。
露を含んだ草の匂いが、懐かしい。
久し振りに帰る故郷の景色は、記憶の底に仕舞い掛けていた思い出を鮮やかに蘇らせた。
身を包む草いきれは、アルと駆け回った日の事を。
整備されていない、土が剥き出した凹凸のある道は、藁を沢山積んだ荷馬車に揺られ、
ゆっくりと空を流れて行く雲を見上げていた事を。
そして、向こう側に見える小高い丘は、自分達に向かって手を振る母の姿を。
「ねぇ、兄さん。」
ぼんやりと、溢れ出していた記憶に意識を浸らせていたエドに、後ろを歩いていたアルが声を
掛けた。
「ウィンリィに、何て言うの?」
現実に引き戻されたエドは、アルの言葉にがくりと肩を落とした。
ヒューズの持って来た『ロゼ』の所為で性別が転換したエドは、体に合わなくなった機械鎧を
ウィンリィに交換して貰う為に、リゼンブールへ戻って来たのだ。
機械鎧が壊れる度に、やれもっと大切に扱えだとか、私の機械鎧を何だと思っているのだとか、
スパナを振り回しながら喚き倒す優秀な機械鎧技師だと自負するウィンリィの事だ。
また一から作り直せと言うのかと騒ぎ立てるに違い無い。
しかも内容が内容なだけに、余計に気が重かった。
気だけで無く、足取りまでもが重くなる。
「・・・余計な事思い出させるなよ・・・」
ぽつりと言葉を零せば、アルは「そんな事言われても・・・」と小さく呟いた。
それから暫らく、言葉を漏らす事も無く歩き続ける。
そろそろウィンリィの家が、近くなったと思ったその時。
「・・・ねぇ・・・兄さん・・・」
再びアルが口を開いた。
「・・・何だよ・・・」
疲れたように言葉を返せば、アルは口篭るように口を開いた。
「あのさ・・・僕・・・ちょっと前から考えてたんだけど・・・」
「あぁ?」
「僕・・・兄さんの事・・・兄さんって呼んでていいのかなぁって思って・・・」
その言葉に、ぴたり、とエドは足を止めた。
「・・・はぁ?」
訳が解らないと言ったように、アルを見上げる。
「だからさ、兄さんは兄さんなんだけど、兄さんは今は兄さんじゃ無いだろ?だから僕、兄さんを
兄さんって呼んだ方がいいのか、そうじゃない方がいいのか、どっちなのかなぁって思って。」
勢い良く言葉を迸らせたアルに、エドの表情が険しくなって行く。
「ねぇ兄さん、どう思う?」
「どう思う・・・って・・・何が言いたいんだよ・・・?」
「だから、兄さんって呼んだ方がいい?それとも姉さんって呼んだ方がいい?」
瞬間。
ぶちっ、と、エドの頭の中で何かが数本切れた。
「何考えてんだお前はー!!!!!!」
「だって仕方無いだろ?!ほんとに兄さんじゃ無いんだから!!!」
「うるさいうるさいうるさーい!!!」
先程まで足取りの重かったエドの身体が宙を舞い、アルに飛び掛る。
「兄さんになんかやられないもんねっっ!!」
「んだとっ?!」
そうして散々、二人で走り回り、そろそろエドの息が切れ掛け始めたと思った時。
走り回るうちに何時の間にか辿り着いていたロックベル家のドアが、開いた。
「うるさいわね!人ん家の前で暴れないでくれる?!」
ドアが開いたと同時に怒りの言葉が浴びせられ、ウィンリィが姿を現した。
どうやら寝不足らしく、かなり不機嫌そうだ。
「あ…ウィンリィ…」
アルが小さく漏らせば、ウィンリィは漸くエドとアルに気付いたらしく、大きな瞳を見開いた。
「エド!アル!どうしたの?!」
そう声を上げ、二人に駆け寄ろうとしたウィンリィに、エドは思わず後ずさった。
そんなエドの様子に、ウィンリィの表情が険しくなる。
「あんたまさか…また壊したの…?」
エドはぶんぶんと首を振り、右腕を差し出して見せた。
「違うの?じゃあどうしたのよ?」
エドはアルをちらりと見上げ、そうしてゆっくりと言葉を紡いだ。
「…えっと…ちょっと作り直して貰いたいなぁ…なんて…」
「はぁ?」
訳が解らないと言ったように、ウィンリィは声を上げた。
「その機械鎧が気に入らないなんて言わないでしょうね?」
「違う違う!そうじゃなくて、その…合わなくなったんだ…」
再び首を振り、慌ててエドは言った。
「合わなくなった?機械鎧が?あんた、もしかして背、伸びたの?!」
そんな風には見えないけれどと続けられた言葉に、だったらいいんだけどなと思いながら、
エドは小さく言葉を漏らした。
「…その逆…」
「縮んだのっ?!」
「違うっ!!」
二人の全く意志疎通していない会話の内容に、アルは深く息を付いた。
「何よもう!はっきりしなさいよ!鬱陶しいわね!!」
いい加減溜まりかねたウィンリィはそう叫ぶと、何処からともなくスパナを取り出し、エドに
向かって投げ付けた。
頭を抱え、エドは思わず目を瞑る。
次の瞬間、ガン!と、鈍い音がエドの前で響いた。
え…?
そろりと目を開けて見ると、アルがエドの前に立ちはだかり、ウィンリィのスパナをその体で
受け止めていた。
「何やってんのよアル!どきなさいっ!」
「駄目だよウィンリィ!今の兄さんは前みたいに強く無いんだからっ!」
ウィンリィに向かってそう叫び、アルはエドを振り返った。
「大丈夫?」
「え…あ…ああ…」
アルの行動に驚きながら、エドは頷く。
「もう!何なのよ一体!何女の子庇うみたいにエド庇ってんのよ!」
「兄さんが女の子だからに決まってるだろ!」
「はぁ??」
あぁ…言っちまった…
勢い良く叫ばれたアルの言葉に、エドはがっくりと首を垂れる。
「ふざけないで!一体こいつの何処が女の子だって言うのよっ!」
ウィンリィはつかつかとエドに歩み寄り、エドの襟元を掴むと勢い良く上着を肌蹴させた。
「この真っ平の胸の何処が女の子の胸なの?!」
アルを振り仰ぎ、そう声を上げたウィンリィは、エドの胸元に視線を移した。
「・・・え?」
エドの胸には、確かに柔らかな膨らみが、あった。
ウィンリィは暫らく固まった後、エドのシャツの上から両手で胸を掴んだ。
「うわああぁぁっっ//////?!」
いきなり胸を掴まれ、エドが声を上げる。
腕で胸を押さえようとする間も無く、ウィンリィはシャツの裾を捲り上げた。
ぷるん、と。
形の良い乳房が、ウィンリィの目の前に、現れた。
「うわわわわっっっっ?!//////」
いきなり曝け出されたエドの胸に、アルが慌てふためく。
幾ら兄の身体だと言っても、女の子になってしまっている身体は流石にまともに観られない。
「ちょっ・・・駄目だよウィンリィ!!!//////」
目のやり場に困っているアルなど蚊帳の外で。
エドの胸を観たウィンリィはそのまま絶句し、そうしてゆるゆるとエドのシャツを降ろした。
「…どう言う事よ…」
俯いたウィンリィの言葉が、心なしか震えている。
「どうして・・・?何があったの・・・?」
あぁ怒っていると、エドはたどたどしく言葉を零し始めた。
作品名:rose'~second~ 作家名:ゆの