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rose'~second~

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「…ヒューズ中佐の持って来た薬を間違って飲んじまって…最初はちゃんと戻る筈だったんだ・・・

でも飲んだ量が多過ぎて・・・結果、元に戻らないって言われたんだ…でも機械鎧は元の身体に

合わせてあるから・・・だから腕と脚を替えて貰おうと…」

「…戻らないの…?絶対…?」

「…うん…」

くっ、と、ウィンリィの喉が鳴った。

「あの…ウィンリィ…?」

恐る恐るウィンリィに声を掛けてみれば、ウィンリィの肩が小刻みに震え始めた。

そして勢い良く顔を上げたかと思った瞬間。

ウィンリィは声を上げて笑い出した。

「何それ?!ばっかじゃない?!ほんっと大笑いだわ!」

予想外のウィンリィの反応に、エドとアルは呆気に取られる。

じきに我に返ったエドは、目の前で腹を抱えて笑うウィンリィに抗議の声を上げた。

「そんなに笑わなくてもいいだろっ?!他人事だと思って!」

顔を真っ赤にして言うエドに、ウィンリィはひらひらと手を振った。

「他人事だからに決まってるじゃない!あったりまえでしょ?!」

そうして散々笑ったウィンリィは、深く息を付くと言葉を紡いだ。

「早くいらっしゃい。付け替えるんでしょ?」

その言葉にエドとアルは顔を見合わせる。

「え…いいのか…?」

「いいも悪いも、そのままじゃ都合悪いんじゃ仕方無いじゃない。最高にいいやつを作ってあげるわよ。」

こちらを振り返り、そう言って再びウィンリィが背を向けた時。

きらり、と、ウィンリィの瞳から何かが光って落ちるのを、アルは見逃さなかった。





ことり、と、聞こえた音に、ウィンリィは顔を上げた。

「あ・・・」

ドアの隙間から覗いていたアルが、ウィンリィに気付かれて小さく声を漏らした。

「何よ・・・何か用・・・?」

ベッドに腰を掛けたまま、アルに言葉を投げれば、アルはドアを閉めそのままウィンリィの隣に腰を降ろした。

「ちょっと・・・気になった事があって・・・」

少々言いにくそうに、アルが言葉を紡ぎ始める。

「エドの事?」

アルはゆっくりと首を横に振り、そうして静かに言った。

「ウィンリィの事だよ」

「私?」

予想もしなかった言葉に、ウィンリィは瞳を見開いた。

「うん・・・昼間・・・兄さんの体の事を知った時のウィンリィの様子が気になってさ・・・あの時ウィンリィ・・・

泣いてたように見えたから・・・」

違う、とは。

何故か言えなかった。

「・・・・・・あんたって・・・ニブいくせにこう言う事には鋭いわよね・・・・・・」

そう言って、上目遣いにアルを見上げれば、アルは小さく「えへへ」と声を漏らした。

はぁっ、と、大きく息を付き、ウィンリィは言葉を紡ぎ始めた。

「・・・悔しかったのよ・・・」

ぽつり、と。

「悔しくて・・・ムカついた・・・」

隣でキィ、と鎧の軋む音がして、アルがウィンリィの話を聞く為に顔を近付けたのだと把握する。

「だって・・・私はずっと昔からエドを観て来たのよ・・・小さな頃からずっと・・・なのに急に出て行って・・・

旅から漸く帰って来たと思ったら機械鎧の修理だし、何時の間にか出来た恋人はマスタング大佐だって

言うじゃない?それだって大概、複雑だったのに・・・でもエドが幸せそうだから、って思ってた・・・」

ウィンリィはきゅ、と唇を噛んだ。

「・・・いつかは大佐から離れるかも知れないとも・・・ちょっと思ってた・・・でも・・・あんな風になって戻って

来られたら・・・二度と戻らないなんて言われたら・・・・・・悔しくてムカついた・・・・・・」

ぽろぽろと、ウィンリィの瞳から涙が零れる。

「でも・・・あいつの前で泣きたくなんか無いから・・・だから・・・笑ってやったの・・・」

「・・・ウィンリィ・・・」

ぐいっ、と、ウィンリィは涙を拭い、顔を上げた。

「エドに言うんじゃ無いわよ!」

まだ微かに涙の残った瞳でアルを睨み上げ、ウィンリィが言った。

「え・・・?い・・・言わないよっっ!」

アルは慌ててぶんぶんと首を振る。

言える訳が無い。

勿論、言うつもりも無かったが。

「エドの新しい機械鎧の図面、さっき引き終わったから、明日から早速取り掛かるわ。」

アルがウィンリィにどう言葉を掛けようかと思っていた時、ウィンリィが吹っ切ったように紡いだ。

「・・・ありがとう・・・ウィンリィ・・・」

「別にお礼言われるような事、してないわよ。」

アルは「そうだね」と小さく紡ぐと立ち上がり、ウィンリィにおやすみと告げ、部屋を後にした。





エドとアルがリゼンブールに戻って来て5日が過ぎた。

通常なら3日程で仕上がるエドの機械鎧も、最初から作り直している所為で、ウィンリィはずっと籠もりっぱなしだった。

エドも何か手伝えたらとは思うのだが、何も出来ないと解っているので、仕方無くアルを引っ張り出し組み手の練習を

していた。

少しでも、今の体に慣れたかったので。

しかしアルは余り気が進まないらしく、じきに手を抜くので、いい加減エドは苛々していた。

アルにしてみれば、幾ら兄とは言え女の子に全力を出すのは躊躇われたのだ。

まぁアル自身にも、他に思う所があったのだが。

それが更に、エドの機嫌を損ねていた。

確かにスピードは落ちたし、拳の威力も無くなった。

しかしだからと言って、手加減などして欲しくは無い。

組み手は、何時の間にか喧嘩になっていた。

「手加減するなって言ってるだろ?!」

「そんなの無理だよっ!」

「何が無理だ!」

「だって女の子相手に手加減無しだなんて!」

「お前、先生には手加減しないじゃないか!!」

「先生は強いだろ!!」

「俺は弱いってのかよ?!」

「誰もそんな事言って無いだろ!!」

「言ってる!!」

いい加減、情けなくなって来る。

もう泣きそうだ、と思いながらも、エドは声を上げた。

「じゃあ手加減するな!!」

「好きな子にそんな事出来ないよっ!!!」

え…?

ガン!と、アルに弾き返され、バランスを崩して膝を付く。

「何…だって…?」

驚愕の表情で聞き返され、アルは顔を伏せる。

今迄胸に秘めていた想いが、数日前のウィンリィの想いを綴った言葉に触発され、膨らみつつあった事もあり、アルは

勢いで言葉を迸らせてしまったのだ。

「何だよ…好きって…」

もう一度、言葉が紡がれる。

しかしアルは何も答えなかった。

「アルっ!!」

「だから!!」

エドの言葉を遮るように、アルが声を上げた。

「好きなんだってば!!」

一度言ってしまった言葉は、消す事は出来ない。

だったら開き直るしか無いと、アルは思った。

「…好きなんだよ…兄さんが…」

そう紡ぎながら、今の自分が鎧の体で良かったと、アルは思った。

自分の表情が、エドに伝わる事は無いから。

「…女の子になった兄さんを観て…僕…兄さんを兄さんとして見られなくなった…ちゃんと女の子として兄さんを

護ってあげたいって…思った…」

周りの空気が、パキパキと小さな音を立てて細かく崩れて行くような、そんな感じがした。

「そんな…の…」
作品名:rose'~second~ 作家名:ゆの