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rose'~second~

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そうしてゆっくりと、言葉を紡ぎ出す。

「大丈夫だよ・・・エドなら・・・ちゃんとアルを元に戻してあげられる・・・」

エドにしか、出来ない事。

エドだから、出来る事。

「頑張んなきゃね。」

漸く笑顔を作り、ウィンリィは明るくそう、言葉を紡いだ。




「誰も居ませんね…っと…」

細くドアを開け、部屋の様子を伺いながら、声を潜めてエドは呟いた。

音を立てないように静かにドアを開いたにも拘わらず、キイィ、と蝶番が軋む。

オイルくらい注しとけよと口の中で文句を言いながら、こそこそと部屋の中に入って行く。

「兄さん…本当に行くの…?」

挨拶くらいして行った方がいいんじゃない?と後ろで呟くように言ったアルに、静かにしろと言う

ように人差し指を立てて見せ、エドは口を開いた。

「一番の汽車に乗らなきゃ、セントラルに着くのが遅れるだろ。」

言いながら、外へ続くドアを開くと、まだ陽が昇り始める前で、辺りは薄暗かった。

微かに肌寒い空気が身を包み、エドは少し、身を震わせる。

「ドア、静かに閉めろよ。」

そう言って、エドが外に出た時。

ヒュルルッ、と風を切る音がしたと思った瞬間、エドの足元にドスッ!とスパナが突き刺さった。

「うわっ?!」

エドが声を上げると、上の方から「外したか…」と言う声が降って来た。

見上げてみれば、ウィンリィがこちらを見下ろしている。

まだ半分、眠そうだ。

「ウィンリィ!危ないだろ?!」

「あんたが勝手に出て行こうとするからでしょ?!」

ウィンリィはそう叫ぶと、「そこで待ってなさいよっ!」と声を上げ、部屋の中に姿を消した。

エドとアルは顔を見合わせ、あーあ、と言ったように息を付いた。

じきに足音が聞こえ、玄関のドアが開き、ウィンリィが姿を現した。

少々不機嫌そうなその顔に、視線を逸らす。

ふと、ウィンリィの手に妙な物体がぶら下がっているのに気付く。

肌色の、薄いゴムっぽい物体。

何だろうと思いながら見ていると、ウィンリィはエドの腕を掴み、家の中に引っ張り込んだ。

「服脱いで座って。」

そう言って、ウィンリィは手にしていたそれを伸ばし始めた。

エドは訳も解らずウィンリィに言われるままに、服を脱ぎ、椅子に座った。

「腕と脚、出して。」

微調整でもするのだろうと思ったが、工具は一切無い。

あのびらびらした物体が何か関係あるのだろうか。

そう、思った時。

ウィンリィがエドの右腕に、まるで長い手袋でも嵌めるかのようにそれを巻き付け始めた。

一生懸命それを伸ばしながら、嵌めて行く。

指から掌に。

掌から腕に。

徐々に伸ばされ、段々その全貌が明らかになって行く。

それが何であるのか理解したエドの表情が、驚愕の色に変わる。

ぱちん!と、エドの腕の連結部でそれを止めたウィンリィが、ふぅっ、と大きく息を付いた。

「ウィンリィ・・・これ・・・」

機械鎧の鈍い色では無く、まるで本物の肌のような、色。

感触はやはり本物とは少し違ったが、それでもそれに近い物があった。

「合成特殊樹脂で作った人工皮膚よ。専門外だから苦労したんだから。」

そう言って、ウィンリィは今度は左脚に人工皮膚を嵌め始めた。

「前のままだったら気にもならなかったでしょうけど、あんた今は女の子なんだからね。ずっと

そんな服のままで居られないし、そうなったら腕や脚が剥き出しの機械鎧じゃちょっと都合が

良くないでしょう?はい、出来た。」

そうしてウィンリィは立ち上がり、テーブルの上に置いてあった袋をエドに差し出した。

「はいこれ。私からのプレゼントよ。元々私のだからピッタリじゃ無いとは思うけど。」

袋を受け取り、中を覗いてみると、そこには数枚の服が入っていた。

「ちゃんと、女の子らしくしなきゃ駄目よ。」

釘を刺すように言い、そうしてウィンリィは、にっこりと微笑んだ。




セントラルに来るのは久し振りだ、と。

ホームに降り立ったロイはぼんやりと思った。

最近セントラルに呼び出される事も無く、何かあったとしてもヒューズかアームストロングが

東方に赴いて来るので、ロイ自身が東方司令部を出る事は滅多に無かった。

確か迎えをやるからとヒューズが言っていたなと、ホームを歩きながら辺りを見回すが、

それらしい姿は見当たらない。

怠慢だなと小さく呟き、後でヒューズに文句を言ってやろうと思った時。

人混みの向こうから一人の少女が押し出されるように姿を現したのが見えた。

ストローハットを押さえながら、少し困ったように辺りを見回している。

華奢な体から伸びたしなやかな白い手足が眩しい。

誰かを迎えに来たのだろうか。

いや、もしかしたら初めてセントラルに来て、右も左も解らずに途方に暮れているのかも

知れない。

ストローハットで顔は見えなかったが、擦れ違う者達が皆少女を振り返って行くので、

かなりの美少女のようだと、ロイは悟った。

誰も声を掛ける者が居ないので、ロイは少女の方へ足を向けた。

「失礼、お嬢さん。何かお困りのようですが、宜しければ私がお力になりますが。」

そう、ロイが言葉を紡げば、少女ははっとしたように振り返った。

ストローハットの端から、さくらんぼのような唇が見えた。

「あ…」

少し驚いたように唇から声が漏れる。

その声に聞き覚えがある、と、ロイが思った瞬間。

少女の体が、ふわりと舞った。

そうして、ロイの首に腕が回されて。

ロイの耳元に、声が届いた。

「大佐…っ…」

その声に思わず、ロイは少女を抱き締める。

ストローハットが、ぱさり、と落ちて、少女が顔を上げた。

その顔は、紛れも無く。

「鋼の…?」

そう、紡げば、にっこりとエドは微笑んだ。

瞳の端に、微かに涙が滲んでいる。

「逢いたかった…大佐…」

ほんの少し、言葉が揺れた。

「鋼の…腕と脚が…」

機械鎧だった筈の、腕と脚はどうしたのか。

まさか賢者の石を見つけたのかと紡げば、エドは首を横に振った。

「ウィンリィが人工皮膚を作ってくれたんだ。」

嬉しそうに言って、ほら、とエドは腕を差し出した。

良く観ると、確かに本物の肌とは少し違う。

それでも、ちゃんと観なければ本物かどうかの区別は付かない。

「君の整備士は、凄いな。」

「だろ?」

そう言って笑ったエドは、何処か誇らしげに見えた。

きっと、心の底から鋼のを想っているからなのだろうなと。

ウィンリィを思い浮かべ、ロイはぼんやりと思った。

「そうだ!ヒューズ中佐がさ、時間があるから二人で飯でも食って来いってさ。」

思い出したように声を上げ、エドはロイの腕に自分の腕を絡めた。

相変わらず気の利く奴だ。

そう言う事なら、思う存分ゆっくりさせて貰おうじゃないか。

「そうか。なら美味い店に連れて行ってやろう。」

そうしてロイは、エドと共に駅を後にした。



                    〜second〜 fin.


作品名:rose'~second~ 作家名:ゆの