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rose'~second~

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極力明るく紡いだ言葉に、エドは一瞬驚いたようにアルを観た。

「あんまり遅いから迎えに行こうと思ってたんだよ。」

いつも通りを装い、一生懸命言葉を紡ぐ。

エドは小さく「ああ」と零すと、再び視線を落とした。

そんなエドの様子に、アルは細く、息を吐く。

余計な事を、言わなければ良かったと。

そう思いながらアルは口を開いた。

「兄さん…あの…さっきの話なんだけど…」

丁度アルの横を通り過ぎ掛けたエドの足が止まる。

しかしエドは俯いたまま、アルを見ようとはしなかった。

「あの…ごめんなさい…僕ちょっと混乱してて…おかしかったんだ…だから…あの…」

口を開き、たどたどしく。

「兄さんに余計な気を遣わせちゃったみたいで…本当にごめんなさい…」

「アル…」

アルの言葉が終わると同時に、エドがぽつりと零した。

「…俺は…お前に答える事は出来ない…出来ないけど…お前の気持ちは解った…」

「兄さん…」

エドが紡いだ言葉に、アルの心の中がふわりと軽くなった。

想いが受け入れられた訳では無かったけれど、エドがちゃんと理解してくれたと、解ったから。

それだけで、アルは充分だった。

「…ありがとう…」

心からの、感謝の言葉。

「何でそこで『ありがとう』なんだよ…」

漸く顔を上げ、そう言ったエドに、アルは「へへっ」と笑みを漏らす。

「だって、嬉しいから。」

そう返せば、エドは「訳解んねぇ」と小さく零した。

そうして、ほんの少し言葉にしようかどうか迷ったような素振りを見せ、思い切ったように口を開く。

「・・・それはそうと・・・お前・・・俺の何処を見て・・・その・・・惚れたんだよ・・・」

「え・・・あ・・・」

アルは俯いて、口篭りながらも、ゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。

「この間・・・兄さんが大佐と街を歩いてるのを見掛けたんだ・・・薄いブルーの花柄のワンピース

着てさ・・・髪もいつもの三つ編みじゃなくて、降ろしてて・・・耳の上の所に白いピンを止めてさ・・・

兄さんは隣を歩いてる大佐を見上げて楽しそうに笑ってた・・・その時の兄さんは・・・僕の知らない

顔をしていた・・・その笑顔は・・・とても柔らかくて・・・優しくて・・・ふわふわしてて・・・そして・・・」

視線を上げて、真っ直ぐとエドを見る。

「とても・・・可愛かった・・・」

アルの紡いだ、その言葉に。

かあぁっ、と、エドの顔が真っ赤に染まった。

聞かなきゃ良かったと言ったように顔を逸らし、アルに背を向け歩き出す。

「・・・兄さん?」

「うるさいっっ///!!行くぞ///!!」

自分で聞いたくせにと思いながらも、「うん!」と声を弾ませエドの後に続いて歩き出す。

「ねぇ、兄さん。」

ドアに手を掛けたエドが、肩越しにアルを振り返る。

「僕、兄さんを好きになって、良かった。」

エド小さく「言ってろよ///」と小さく紡ぎ、そのままドアを開け家の中に入って行った。





「出来たっ!!」

食事が終わり、部屋のソファーで寛いでいたエドの耳に、隣の部屋に籠もっていたウィンリィの声が届いた。

機械鎧が完成したのだと悟ったエドは、弾かれたように立ち上がり、勢い良く隣の部屋に続くドアを開けた。

「ウィンリィ!!」

ウィンリィは瞳を輝かせながら、勝ち誇ったようにエドを観た。

「うふふふふふvvやったわよエド!観てこの機械鎧!素敵だと思わない?この美しいフォルムvvほらほら、

ここのラインなんか特に苦労したんだからーvv芸術よ芸術!今迄で最高の出来よ!」

エドは嬉しそうに高笑いするウィンリィの前に置かれた機械鎧を手に取った。

今迄の物とは違い、細く、丸みを帯びたしなやかな機械鎧。

それはとても軽くて、何処か頼り無さそうにも思えた。

しかしその頼り無さげな機械鎧は、優しささえも感じられた。

何故か。

その新しい機械鎧に、エドの胸が熱くなった。

ぎゅっ、と、抱き締めれば、真新しいオイルの匂いがした。

これで、元の身体と繋がっていた、この機械鎧ともお別れだ。

右腕の機械鎧を、新しい機械鎧と共に愛しそうに抱き締める。

そんなエドの様子に。

ウィンリィはアルを促し、静かに部屋を後にした。



次の日。

真っ先に朝食を終わらせたエドは、早速新しい機械鎧に交換して貰う為に、まだ食べ終わっていない

ウィンリィを急かした。

「朝ご飯くらいゆっくり食べさせてよ。」

ウィンリィは少々迷惑そうに文句を言ったが、エドにしてみれば居ても立っても居られなかったのだ。

数分後、漸く食べ終わったウィンリィは、エドの腕を付け替える準備を始めた。

エドはウィンリィを待ちながら、先に元々の腕と脚を自分で外し、それを膝に置いてぼんやりと見詰めていた。

この腕と脚とも、もうお別れか・・・

そんな事を考えながら。

ことり、と、膝に置いていた機械鎧を、テーブルの新しい機械鎧の横に並べてみる。

明らかに大きさの違うそれに、エドは少し、苦笑した。

「お待たせ。」

漸く準備の出来たウィンリィが、姿を現す。

エドの、機械鎧に向ける眼差しに気付き、微かに笑みを見せて。

「・・・本当に、いいのね?」

ウィンリィは、静かに口を開く。

ゆっくりと、エドはウィンリィ見上げ、こくり、と頷いた。

「俺の願いを・・・叶えてください・・・」

真っ直ぐとウィンリィを見詰め、はっきりと。

エドはそう、言葉を紡いだ。




「やっぱり慣れねぇなぁ…」

大人でも悲鳴を上げる程の、機械鎧を繋ぐ痛みには。

微かに涙を滲ませながら呟いたエドに、ウィンリィが工具を片付けながら「仕方無いわよ」と口を開いた。

「でももう、機械鎧を壊すような事はしないんでしょ?」

そう続けられた言葉に、エドは顔を上げる。

「何で?」

素で紡がれた言葉に、ウィンリィは手を止めエドを観た。

「何でって…大佐の所に、落ち着くんでしょう?だったらもう旅に出る度に危ない目に遭わなくて済むじゃない。」

そう言う事かと納得し、あぁ、と漏らす。

「旅には、出るよ。」

「何で?!」

エドの言葉にウィンリィが声を上げる。

「折角女の子になったんだから堂々と一緒に居ればいいじゃない。」

「それとこれとは別。」

エドは銀時計を出し、蓋の紋章を象るように親指でそっと撫でた。

「まだ、アルを元の体に戻してやれてない。だから旅を止める訳には行かない。」

ゆっくりと、しかしはっきりと紡がれた言葉が、意思の強さを物語っていた。

ああ、そうだ、と。

エドの言葉を聞いたウィンリィはぼんやりと思った。

エドは何時だって、何よりもアルの事を考えていた。

自分の所為で、アルは身体を失ったからと責任を感じて。

そんなエドが、自分の幸せだけを考える筈が無かった。

「ごめん・・・」

ぽつり、と、ウィンリィが言葉を零すと、エドは「何でお前が謝るんだよ」と、笑みを見せながら言った。

「前よりも大変なのは解ってる。そんなの覚悟の上だ。」

「・・・うん・・・」

ウィンリィは涙が零れそうになるのを堪え、ほんの少し、俯いた。
作品名:rose'~second~ 作家名:ゆの